2017年にスタートし、その1年に活躍をしたクリエイターをたたえる「Pen クリエイター・アワード」。その連動企画として、今年は若手クリエイターやクリエイターを志す人を対象とした作品公募制のワークショップ「NEXT by Pen クリエイター・アワード」(以下、NEXT)を行っている。NEXTには3つの部門があり、石井勇一をメンターに迎え、上映中の映画のポスターをつくるポスターデザイン部門、野村高文がメンターとなり実際に配信するポッドキャストをつくるポッドキャスト部門、そして今回紹介するクラフトビールのパッケージをつくる「パッケージデザイン部門」だ。
いずれも、代官山蔦屋書店のシェアラウンジで12月1日から7日まで、編集部とメンターの審査を通り選ばれた以下に紹介する作品が展示されているのでぜひチェックしてほしい。
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クラフトビールならではの、自由なデザインを求めて
パッケージデザインの部門のメンター(講師)は、AUDREYをはじめ、ブランディングからパッケージデザインまでを手がけてきたデザイナーのKIGIだ。Penのイベント「CREATORS NIGHT」で振る舞うクラフトビール缶のデザインを募集したところ、約70点に及ぶ応募作品が集まり、そこから編集部とKIGIとの選考で選ばれたのは6人の参加者。1回目のワークショップで各自が応募した作品についてのプレゼンテーションを行い、KIGIからアドバイスを受けた。そして2回目のワークショップでブラッシュアップした作品を再度プレゼンテーション、最優秀賞1点が選ばれた。最優秀賞には、実際に印刷されるだけでなく、賞金10万円も贈られる。
KIGIのふたりは、クラフトビールのパッケージデザインについてこう語る。「クラフトビールは、ほかのデザインと少しモードが変わります。それはおそらく長い間、大手ビールメーカーのいわゆる「ビールらしさ」を大事とする、または「マーケティングに基づいたデザイン」に見慣れてしまっていたからなのかもしれません。また、我々の経験からも苦戦した記憶が蘇ります。だから少しでも変わった表現を見ると、ワクワクしてしまうのでしょう。昨今、ビール市場が開放されたと同時にデザイン表現も面白いものが増えてきました。クラフトビールの存在がビール市場のデザインを解放させたと言えるのかもしれません」
ビールは、Tokyo Aleworks の「Center Gai-IPA(センター街IPA)」。IPA独特のしっかりとしたホップの味わいがありながら、フルーティな爽やさも兼ね備えたビールは、渋谷のセンター街にかけて名付けられている。このビールの名前にある「Center Gai=センター街」は、偶然だがクリエイターが集まる場というコンセプトにもピッタリだ。
なによりもこの味わいが気に入ったというKIGIは、今回の審査のポイントについてこう振り返る。「名前のもつ雰囲気、ビールの味わい、飲んでみたいと思わせる魅力などを選考のポイントにしました。とくに重要なのは、キャラクター(存在感)。それはもしかしたらアンディーウォーホルのキャンベルスープ缶然り、「缶」そのものがポップな存在だからなのかもしれません。そしてもうひとつ重要なのは、フレーバーのイメージが反映されているかどうか。これは大事な商材を預かっているデザイナーとして当然の責務です」
ではワークショップに参加した6人の作品を紹介しよう。
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複数並んでも面白い、あえて中心にロゴを置かないデザイン
商品名から「センター街」をイメージしたデザインを考えた佐藤雄の作品。カラフルな看板でビールのフルーティーさを表現している。 また、商品名をあえて中心に配置しないことで、同じ缶が複数並んだときの見え方も考えられている。
ポップでどこか懐かしい80年代風の「街っぽさ」があるデザインや、あえて缶の正面に商品名を置かないデザインも評価された。応募時にあまり時間をかけられなかった……という佐藤。最終的な提出時には要素を少し減らすなど、ディテールをブラッシュアップさせた作品を発表した。
抽象画のようなイラストで魅せる、クリエイターが集まる場
イベントでさまざまななクリエイターが集まり“何かが起こりそう”な雰囲気を抽象画のようなイラストで表現した佐藤隆広。飲み終わったあとも飾れるようなアート的な側面も考えて、抽象的でシンプルな色味で仕上げた。
文字まわりを中心にブラッシュアップした最終案では、中心にTokyo Aleworks のロゴを配置し「クリエイターアワードにセンターガイIPAが出席する」イメージに。金色を使い華やかさも加わった。
どこか懐かしさもある、素直な表現
ビールの味わいであるフルーティーな香りを虹のようなモチーフで表現した丹後一紀。この虹はクリエイターの懸け橋となるという意味も込めているという。
KIGIや参加者とのディスカッションでは、ビールよりもソーダのような色合いであることに疑問もあがったが、懐かしさや素直なデザインが評価され、「アドバイスするところがない」とまで言われてた作品。見れば見るほどよくできているとKIGIを感心させた。
iPadで描く、センター街の朝焼け
最初に提出した作品で、油彩画のようなタッチのイラストが評価された畠山晃一。ブラッシュアップした2回目の作品では渋谷のセンター街の風景を油彩画風に描いた。かつてセンター街で遊んでいた若者が、大人になって朝帰りで観た朝焼けの風景を思い出すというストーリー。華やかなセンター街を独自の視点で表現している。
「今回の作品のなかで、いちばんおいしそうに見えるよね」と評価された作品。ただ、建物のディテールなどがもう少し描いてほしかったというコメントも。
特殊な印刷で浮かび上がる模様に注目
応募時に2案を提出しどちらも選ばれた野村岳の作品。黒字にイナズマが描かれた作品はエールであることを示す「泡」、刺激を示す「稲妻」の図柄を組み合わせたシンプルなグラフィック。特殊加工の印刷が施されており、フラッシュをたいて写真を撮ると模様が浮かび上がる仕組みだ。
もうひとつの案が黄色の背景に「Let it beer」と描かれたパッケージ。ビートルズの名曲「Let it be(あるがまま)」にかけて、「Let it beer(ビールにしよう)」というコピーをグラフィックにしたアイデア。「Let it beの曲が流れるCMもつくれそうだよね」と高評価を得た。
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最優秀賞に選ばれたのは……?
最優秀賞に選ばれたのは、浅子唯のデザイン。ただ、ブラッシュアップした案よりも最初の案の方がよかった……とKIGIはコメント。
「自由度の高いクラフトビールというジャンルだからこそできるデザインであり、「センター街IPA」のキャラクターを最も魅力的に引き出していました。タイポグラフィの中にモンスターが隠されているという演出も粋で面白く、センター街のどこかにモンスターがいるかもしれない、そんな想像力を掻き立てられました。3Dソフトとドローイングを組み合わせてつくったデザインのプロセスも興味深く、方法論のオリジナリティから魅力を導き出すというテクニックは、難易度が非常に高いと思います」
最後に、今回出揃った作品に対してもコメントをもらった。
「今回並んだグランプリをはじめとした7作品は、バラエティに富み、それぞれ作者の世界観を通して「センター街IPA」のイメージを昇華させる作品が出揃ったと思います。どの作品も食事のシーンで愛されるキャラクターになり得るものとなったのではないでしょうか」
想像以上に自由で楽しいデザインが揃った今回の取り組み。浅子唯がデザインした特別パッケージのセンター街IPAは、本数限定でKIGIが営むOFS.TOKYOでの販売も予定している。詳細はOFS.TOKYOのSNSをチェックしてほしい。
Pen CREATOR WEEK
開催期間:2023/12/1~7
開催場所:代官山蔦屋書 シェアラウンジ
東京都渋谷区猿楽町17−5 代官山 T-SITE 蔦屋書店 3号館 2階
OFS.TOKYO
●東京都世田谷区池尻3-7-3
TEL:03-6677-0575
営業時間:12時〜20時
定休日:火・水
ofs.tokyo