1960年代より日本を代表するアーティストとして活動してきた田名網敬一(たなあみ・けいいち)。武蔵野美術大学デザイン科を卒業後、博報堂の制作部に勤めると、約2年にて独立を果たし、その後は絵画、コラージュ、グラフィックイラストレーション、映画、彫刻といったさまざまな領域を横断しながら創作を続けている。ポップアートとサイケデリアと結びつけられるその作品は、日本文化の引用や18〜19世紀の絵画、それに近年の漫画やアニメなども取り入られ、自らが「最高に楽しい創造の遊び」とするコラージュの技法が用いられている。現在のスーパーフラットムーブメントの創始者としても重要な存在だ。
プラダ 青山店5階で開催中の『PARAVENTI:KEIICHITANAAMI -パラヴェンティ:田名網 敬一』では、PARAVENTI、つまり屏風がテーマとなっている。そもそも同展は、広く浸透しているデジタル体験がいま、屏風にどのような影響を与えているのかをテーマとした、アートコミッションを紹介するミラノの展覧会の派生として企画されたもの。ミラノの会場では、17世紀から現在に至る屏風の歴史を解釈しつつ、現代のアートと社会を踏まえて屏風を再考した17名のアーティストによる作品が公開されているが、ここ東京では、田名網がミラノの展覧会のために制作した屏風のコンセプトを発展させたインスタレーションなどを展示している。
ひと際目立っているのが、『赤い陰影』と題したデジタルアニメーションだ。これは動くことを前提に描かれた絵画をベースに作られた作品で、80のシーンで構成される作品よりセレクトされた映像が映されており、その画面が全部で16面、まさに屏風のように折れ曲がって並んでいる。そこには魑魅魍魎(ちみもうりょう)な生き物やさまざまな植物、さらに寺社を思わせる建築やUFOのような乗り物がひたすら動き続けており、鮮やかな色彩によって見る者の感覚を過激なまでに揺さぶってくる。またキャンバスを用いた屏風のコラージュの『記憶は嘘をつく』や、本のかたちをしたスクリーンにプロジェクションマッピングを投影した『光の旅路』といった本展のための新作も見どころといえる。
このほかにも室町時代後期の画家、式部輝忠(しきぶてるただ)の『梅竹叭々鳥図屏風』を公開。岩を白抜きに描き、伸びゆく梅の枝によって空間の広がりを簡素に表した屏風と、極彩色に染まり複雑なテクスチャーを有する田名網との作品とのコントラストを楽しむことができる。「日本では、屏風は間仕切りとして機能する家具というだけでなく、空間を非日常なものへと変容させる力をもった道具でもあります。」とする田名網。古代中国に起源し、日本へと渡り、西洋にもたらされた屏風は、19世紀から現代においても多くのアーティストや建築家らにインスピレーションを与えている素材だ。田名網が屏風の概念を掘り下げ、その意味を探究して制作した新たな作品を、プラダ 青山店にて目の当たりにしたい。
『PARAVENTI:KEIICHITANAAMI -パラヴェンティ:田名網 敬一』
開催期間:開催中~2024年1月29日(月)
開催場所:プラダ 青山店5F
東京都港区南青山5-2-6
www.prada.com/jp/ja/pradasphere/special-projects/2023/paraventi-prada-aoyama.html