本場フランスでミシュラン1つ星を獲得した北村啓太シェフが凱旋帰国、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー最上階にガストロノミーレストラン、アポテオーズがオープン

  • 文:岡野孝次
  • 写真:齋藤誠一
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アポテオーズ北村啓太シェフ。休日は、日本の食材の魅力を発見すべく全国に足を運ぶことも多いのだそう。

地下2階の飲食店街、T-MARKETなどが先行開業し、ついに2023年10月6日にオープンを果たした虎ノ門ヒルズ ステーションタワー。その最上階の49階で、11月21日ベールを脱ぐのが、フランス・パリでミシュラン1つ星を獲得したシェフ・北村啓太のガストロノミーレストラン、アポテオーズだ。いま、日本のみならず世界中から注目を浴びるこの場所で、彼が披露する料理やサービスとは? 北村啓太が放つ輝きの源泉に迫る。

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ディナーコースは25,000円〜。アミューズブッシュ「玉ねぎ」(上)と「カリフラワー」(下)。前者はパイ生地に玉ねぎのコンフィとキャラメリーゼピュレ、マッシュルームソテーとパウダーを添えて。コンテチーズに似た熟成感をともなった北海道・タカラ牧場のチーズ「タカラ」が風味に深みを与える。後者はタルト生地に生カリフラワーとそのクリーム、軽く火を通した落花生とディルをのせた一品。スパイスで華やかなフレーバーも加えている。

いま世界のフーディーが、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー最上階49階に開業する2軒のレストランに熱視線を注いでいる。

ひとつは、ケイ コレクション パリ(2024年春にオープン予定)。フランス版・ミシュランでアジア人初となる3つ星を獲得したシェフ・小林圭が立ち上げるガストロノミーグリルフランセーズ&バーだ。もうひとつが11月21日に開業する、北村啓太のアポテオーズ。虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの“ベストステージ”ともいうべきフロアに開業するレストランはこの2軒のみで、世界のフーディーが北村に注目している証ともいえよう。

アポテオーズをオープンするまでの北村の人生には、大きな転機がふたつある。ひとつは成澤由浩シェフとの出会いだ。フレンチガストロノミーの先駆けといわれる成澤が、フランス、スイス、イタリアで8年間の研鑽を積んだのちに開業した神奈川・小田原のラ・ナプール。このレストランに始まって、その後に移転した東京・青山のレ・クレアシヨン・ド・ナリサワに至るまで、北村は19歳からの8年間、成澤のもとで修業に励んだ。そして、さらなる転機が渡仏。15年間のパリ滞在が、現地でのミシュラン1つ星獲得という快挙を北村にもたらしたのである。

日本が誇る食材を活かしたガストロノミーを追求

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メインの後に出てくる「野菜」。シェリービネガーを効かせたサラダで、滋賀県・井入農園の甘辛くもコク深い当帰バターが味わいをまとめる。北海道の佐々木ファーム、シゼントトモニイキルコト ソガイ農園の季節野菜(おもに根菜)が15種ほどゴロゴロと入り、また上に飾った広島県・高掛農園のマイクロリーフは香りに加えて見た目も鮮やかだ。

「2017年にパリ2区で、エールというガストロノミーレストランをオープンして、19年にミシュラン1つ星に輝きました。日本酒や日本の食材を扱う、メゾン・デュ・サケに併設されたレストランだったので、積極的に和酒もペアリングに組み込んだんです。だから料理にも味噌を使ったり、他に“ヴァン・ジョーヌ”と呼ばれる黄色いワインとクリームで作ったソースには、あえてワインでなく日本酒の古酒を加えてみたり。いま振り返れば、フレンチの技法だけにこだわらない自由な表現も、評価を得た理由だと考えています」

マルシェがごく近くに存在するなど、食と人々との関わりが非常に近いフランス。そこにあふれる季節の食材を極上の味わいとして皿に表現すべく、エールで腕をふるう毎日だった。そんな時、ふと虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの最上階での出店の打診が北村のもとに舞い込んだという。

「実は当初、フランスから日本に帰るつもりはなかったんです。しかし、このお話を伺って、そのプロジェクトの大きさや年齢的なタイミング的にこのビッグチャンスをモノにしないといけないと思いました。自分のなかで、40代が1番脂がのっていて大事な10年であると考えてもいたので…。フランスでも『資本力=やりたい店を実現させる』という事も痛感していたので、総合的判断で本帰国してでもこの大きなチャンスを実現させないといけないと考え、オファーを受けました」

日本が誇る素晴らしい食材を、長い歴史のなかで磨かれてきたフレンチの技術と掛け合わせる。北村が日本各地を巡って五感で魅力を感じた食材を用い、最新のガストロノミーの技法に好奇心を掻き立てられる。自分が目指すべきレストランのかたちが見えたと感じて、15年ぶりに日本への本格的な帰国を決断したのだ。

コックコートに憧れて、料理人を志した幼少期

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最後の一皿に「米」。ビーツを練り込んだ生地で静岡の天城軍鶏の雄のもも肉を包んでラビオリに。香りが強く粘りと弾力に秀でたコシヒカリ、いのちのいち米を鶏とともに煮出して仕上げたブイヨンを食べる直前にサーブする。北海道産のニラ、北の華を使ったオイルも食欲をそそる。

こうして日本、東京でフレンチガストロノミーに注力することを決めた北村。その彼がフランス料理に興味を持ったきっかけは、意外にもテレビだったという。昭和から平成にかけて、一斉を風靡した料理バラエティ番組「料理天国」。出演するシェフのコックコートに憧れた。

「母は料理をするのがとても好きな人でした。料理人となったいまでも、その影響をおおいに受けていると思います」と、北村。幼少期は、母親と一緒にナイフとフォークを持って、レストランシュミレーションのような遊びをよくしていたという。

こうして自ずとシェフになることを心に決めた北村は高校卒業後、故郷の滋賀県を出て大阪へ下宿。辻エコールキュリネール大阪あべのに進学してフレンチとイタリアンの基礎を学んだ。

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プレデセールの「出来立てアイス」。赤粒胡椒のアイスに、りんごのクーリとチップを添えて。コースは肉料理なども含めて合計約12皿。アルコールペアリングにはワインや日本酒などが組み込まれる。

のちに成澤シェフと出会い、また2008年には渡仏することになるが、もちろん全てが順風満帆というわけではない。ラ・ナプールでの修業時代はできないことの連続で、毎日というほど自分を責めた日も。渡仏して最初に働いたビストロ、パリのオウ・ボン・アクーユでは、成澤のもとで積んだ経験がまったく生かせず、右往左往する日々だったと振り返っている。

「料理の質よりもスピードが重視され戸惑いました。でも日本ではあまり手がけることのなかったクラシックなテリーヌ、あと内臓系や煮込み料理などガストロノミーであまりやらなかった料理を習得することができたんです」

北村はのちに、このオウ・ボン・アクーユのシェフに就任することになる。こうして先入観なく何もかもを吸収できる器用さは、常に発見や驚きを求められるガストロノミーの世界に向いている証といえるだろう。

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最高の賞賛“アテオポーズ”を目指して

「パリのエールの営業を終了して、日本に帰国したのが6月末のこと。8月から全国の生産者を訪ね、またさまざまな方にご協力をいただきながら、ようやく開業の日を迎えました」

「アポテオーズがもっとも大切にするのが、季節感。フランスでは旬が終わればその食材は手に入らなくなりますが、日本ではハウス栽培や養殖で入手できてしまう。そういう食材に頼らずに、本当の意味での四季を皿の上に表現したいと考えています」と北村は続けた。

アポテオーズ開業にあたり、エール時代の同僚である、シェフ・パティシエの宮本景世、スーシェフの渡邊亮介、シェフソムリエのベルトラン ヴェルディエも来日。北村の新たな試みにともに挑戦することとなった。

「宮本、渡邊、ベルトランとともに精一杯の努力をしても、パリの『エール』では果たせなかった夢があるんです」

それはミシュランの3つ星に輝くという栄誉。けれども決して焦りはせず、まずはじっくりとお客や生産者に愛されるレストランを作っていきたいと北村は話す。彼の努力が結実して、その望みが叶う頃には――。きっと多くのフーディーが拍手喝采し、惜しむことなくアポテオーズ(最高の賞賛)を送るに違いないだろう。

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店内のデザインは、あのNomaの空間設計も手がけた、デンマーク・コペンハーゲンが拠点のデザイナーユニット、スペース・コペンハーゲンによるもの。空間を漂う柔らかな香りは、アロナチュラがプロデュース。土を踏む音や、竹林をかき分ける音、山の湧水が流れる音など、北村が食材選びの旅で出合った88種の音の素材をサウンドスタイリスト、SOUND CoUTURE がデザインしたBGMが、レストランに心地よい空気をもたらしてくれる。

 

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プロフィール
北村啓太(きたむらけいた)

1980年、滋賀県生まれ。99年に辻エコールキュリネール大阪あべのを卒業後、ラ・ナプール、レ・クレアシヨン・ド・ナリサワにて8年間成澤由浩シェフに師事。 2008年渡仏し、ピエール・ガニェール、シェ レザンジュなどの名店を経て、11年にオウ・ボン・アクーユでシェフに就任。17年からエールにてシェフを務め、19年より5年連続「ミシュランガイド フランス」にて1つ星を獲得。

 

 

 

apothéose(アポテオーズ)

東京都港区虎ノ門2-6-2虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 49F TOKYO NODE
営業時間:17:30~23:00(L.O.19:30)
定休日:日月
apotheose.jp