近年は自社のアーカイブにインスパイアされた復刻モデルのリリースが相次いでいる。なぜいま“復刻”なのか、その背景を時計ジャーナリストの並木浩一が解説する。
Pen最新号は『腕時計のデザインを語ろう』。腕時計の「デザイン」に焦点を当て、たどってきた歴史やディテールを振り返るとともに、プロダクトとしての魅力をひも解く。同時に、つくり手である人気ブランドのデザイナーにも話を訊いた。デザインの“本質”を知ることで、腕時計はもっと面白くなるはずだ。
『腕時計のデザインを語ろう』
Pen 2023年12月号 ¥950(税込)
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いま、復刻モデルが熱い。腕時計界を席巻したスポーツウォッチ・ブームの反対側ではロレックス「1908」の登場に象徴されるように、クラシックデザインが注目され、その分野でヒットを連発しているのが復刻モデルだ。
つくり手の側からすれば、復刻は最も“理のあるクラシック”である。自社のアーカイブだからこそデザインに正統性があり、人まねを疑われることは一切ない。しかも過去の名品のリバイバルはコレクションに幅をもたせ、多様な嗜好に対応するものだ。復刻モデルを通じてブランドの歴史、過去の魅力的なエピソードを再確認し、ブランドへのシンパシーを高めることも期待できる。そもそも復刻元のオリジナルが誕生した昔を知らない人間に対しては、復刻モデルは初見の新作としてプレゼンテーションできるのである。
求める側にも理由がある。復刻は、本来であればもはやヴィンテージ市場でしか手に入れる術のなかった名品のデザインを、新品として手に入れる貴重な機会である。その多くはブランドが自らにオマージュを捧げるものであり、とびきりの希少な品が、本数を絞ったリミテッドエディション、期間限定で登場する。これほどマニア心をくすぐる存在もない。
しかも復刻デザインは、人々を魅了した往時のモデルを、最新の技術で蘇らせる。単にタイムスリップしただけでなく、研磨や装飾の仕上げは最新のテクニック、中身のムーブメントも最新型。レプリカではなく、アップデートされているのだ。こんな楽しい復刻プロダクトは、腕時計以外では探すのも難しい。腕時計は過去を時代遅れとして置き去りにすることなく、デザインのすべてをいつか来る日のためにしまっておくのだ。
アール・ヌーヴォー、アールデコ、バウハウス、ミッドセンチュリーのデザインもすべて、倉庫に眠る埃をかぶった過去の遺物ではない。現代に蘇ることができるアーカイブの宝庫である。そう、腕時計における復刻モデルのデザインストックは豊穣なのだ。腕時計のデザインは、間違いなくタイムレスであることを、復刻モデルは証明してくれる。
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最新装備に換装した、ヴィンテージ・スポーツ
デザインはオールドテイストで性能は最新というのが、復刻スポーツウォッチ最大のアドバンテージだ。デザインが魅力的でヴィンテージ市場で人気のモデルでも、現代に置いてみるとスペック不足で、日常づかいには難のある品がスポーツウォッチ系では少なくない。防水性能の不足や、短いパワーリザーブ、割れやすいガラス、などなど。当時はそれ以上望めなかったスペックが、最新技術でアップデートされる。デザインのヴィンテージ感と現代的性能が同居する復刻は、前衛的ヴィンテージデザインなのである。
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オールドファッションの再評価
オリジナルに忠実な純然たる復刻として登場することで、そのデザインの「旧さの魅力」、フリーズドライされたデザインの魅力が解凍される。世の中には「古典」のまま、手をつけてはいけないタイプの「純粋な復刻腕時計」が存在する。誕生当時に、必ずしも正当な評価を受けない、あるいはメインストリームに乗らないまま時代に埋もれていった名作は1920年代から60年代に至るまで数多く、その後のクオーツ全盛時代にも多くの佳作が消えていった。オールドファッションもまたファッションであり、そんな腕時計の一群には捨てがたい魅力がある。
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レトロフューチャーなデザインの再検討
復刻デザインの中で最も面白いのが、過去の人間が思い描いた未来の腕時計像=レトロフューチャーかもしれない。数十年前、人々は未来にどんな腕時計の姿を夢見ていたのか。復刻モデルはフォルム、マテリアル、カラーパレット、テクスチャー、フォントなど、インスピレーション(想像)ではない本物のオリジナルを蘇らせる。21世紀のいま、過去の予想を答え合わせしていくと、当たっている腕時計にはその先見の明の魅力とともに同居するノスタルジックなテイストを愛でることができるし、たとえ外れたものであってもキッチュな“センス・オブ・ワンダー”を誘うのである。
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