マセラティのミドサイズSUVである「グレカーレ」に乗るのは正直、気が進まなかった。マセラティらしさといえばロングドライブで差をつけるGT(グラントゥーリズモ)が代名詞であり、SUVは「レヴァンテ」がその役目を充分に果たしている。そもそもミドサイズSUVは街乗りメインの都市型コミューターであり、きびきび走り、ワインディングはスポーツカーのように軽快に駆け抜けて欲しい。そうね、ポルシェのマカンのように(笑)。
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完成度が円熟を過ぎて爛熟の極みに達したといえるマカン以外にも、世界中のライバル達がしのぎを削るカテゴリーに参入するのは悪手におもえたし、例えていうならイタリアの人気カンツォーネ歌手が全米デビュー曲でいきなりBTSに挑戦状を叩きつけるような感じかな(笑)。このカテゴリーはいっそ同じグループのアルファロメオ・ステルヴィオに任せておけばいいのに、と思っていたんだ。
とはいえ、このグレカーレ・トロフェオに搭載されたマセラティ謹製V6エンジン、ネットゥーノはヤバいエンジンですよ(笑)。先だって試乗したマセラティのスーパースポーツMC20に搭載されたネットゥーノは爆発的なトルクを見せつけつつも、街中では品のよい加速をするターボの特性を活かした変幻自在なエンジンだった。なにより低音のバイブスがいいし、このエンジンがSUVに搭載されたら「面白いかも」と思った訳。
530馬力にデチューンされているものの、エンジンをかければ遠くで起こった砂嵐のような不穏な排気音で、まぎれもないネットゥーノの音。走り出せば剛性の高いモノコックフレームがきいて、釈迦のてのひらにのせられているような包まれ感がある。なるほど、きびきび走る気まんまん。ぐっとアクセルも踏みたくなるね。
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これがいいんですよ。いいエンジンを積んでる“おマセなSUV”としてキャラが立ってる(笑)。MC20ではドライブモード次第で荒れ狂うエーゲ海になったり、静かに凪ぐ海面のような穏やかなグラントゥーリズモになったりもしたけど、グレカーレ・トロフェオの場合、サーキット用モードである「コルサ」を使えばアクセルの踏み方次第で、荒れもすれば凪ぎもするといった具合にキャラクターが変幻自在に操れる。
ステアリングの剛性と解像度は高くなり、峠に持ち込めばリアのEデフがきびきびとした挙動を実現。速度を上げてもフレームはもちろん足回りやステアリングにも余裕。もっとテンション高く、峠やサーキットを攻めたいならパドルシフトを使えばいいんだけど、そこまでやる気は起きない。ここがすごく大事なんだ。
なぜならマセラティだからですよ。「やりこみたいならマカンを買えばいい」とグレカーレは自信たっぷりに言うんですよ(笑)。思えば乗った瞬間から、そう言われていたかも知れない(笑)。シートやダッシュボード、ドアにいたるまで、上質で柔らかなワックスレザーに取り囲まれたコックピットはシンプルに色気があっていい感じ。オーセンティックなデザインだけど経年変化さえ歓迎している。いかにもイタリアの上流嗜好って感じでね(笑)。イタリア車が好きなら、「毎日ここに座りたい」って思うはず。
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このクルマは、街乗りから峠まで「コルサ」で乗りたいSUV。懐の深い足回りとエアサスの硬めの味つけが凛としたアクセントをつける。たとえサーキット用のモードでも普段は静かで、アクセルに応じてエンジンが咆哮するから街乗りのリズムが心地よい。街を「コルサ」で走るってずいぶん贅沢な使い方なんだけど(笑)、このクルマは特別。ライバルの高級メーカーにここまでキャラクターの濃いエンジンが搭載されたSUVはないんですよ。
差別化するためのマーケティング的な考え方というよりは、多くのドライバーにこのエンジンを味わって欲しいことだと思う。この先は電動化の道を歩むにせよ、自分たちの世界観でエンジンをつくったことがいかに慧眼だったか、未来に評価されるための企みにすら思える。そう、グレカーレ・トロフェオの魅力をこのエンジンが証明しているんだ。
マセラティ・グレカーレ トロフェオ
サイズ(全長×全幅×全高):4860×1980×1660㎜
エンジン形式:V型6気筒ツインターボ
排気量:2992c
最高出力:530ps/6500rpm
最大トルク:620Nm/2750rpm
駆動方式:AWD(フロントエンジン四輪駆動)
車両価格:¥16,040,000(税込)~
問い合わせ先/マセラティ コールセンター
TEL:0120-965-120
www.maserati.com/jp