神経系と骨格系を統合した最先端の“ロボット義手”を着けた初の成功例となる女性、体験談を語る

  • 文:美矢川ゆき
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スウェーデン人のカリンさん(50歳)は、20年前に農作業中の事故で右手を失った。2019年から、神経系と骨格系を統合したロボット義手を装着。Science Roboticsに発表によると、このロボット義手の使用を開始して以来、カリンさんは、手を失う前に行っていた作業の80%をこなせるようになったことが証明された。この手術が行われてから数年経つが、その成功例ということで、いま注目を集めている。

ロボット義手と出合う前は、カリンさんは幻肢痛に何年も耐え、安らぐことがなかったそうだ。幻肢痛とは、失われた手があるように感じ、その幻の手が激しい痛みを感じる現象だ。「常に肉挽き機に手を突っ込んでいるような痛みでストレスがたまり、さまざまな鎮痛剤を大量に服用しなければなりませんでした」とEurekAlert!に語っている。

ロボットの義手が幻肢痛を和らげ、人生を変えてくれたというカリンさん。「いまでは義肢をうまくコントロールできるようになりました。なによりも痛みが減って薬の量も減り、生活の質が高くなったのです」

手足を失って苦しんでいる人々の助けに

Peopleによると、スウェーデン、オーストラリア、イタリアのエンジニアと外科医の共同チームは、カリンさんの高度なロボット義肢を製作するために、外科的技術、インプラント、AIを融合させ、手足を失った人たちのための画期的な改善策を開発した。

カリンさんの義肢は、骨に固定された2本のチタン製ロッドを使い、腕と義肢をつなぐ役割を果たす。オッセオインテグレーション(Osseointegration)と呼ばれるこの手術法は、イタリアの義肢装具会社であるプレンシリアが開発した新しいバイオニック技術の基礎となっているそうだ。これにより、切断者の手足と義肢をつなぐソケットが不要となり、不快感や装着感の悪さ、着脱の難しさといった問題に対処できると考えている。

切断された神経と腕の筋肉に電極を埋め込み、義肢に接続。その結果、義肢装具は、カリンさんの身体を動かす運動信号を受け取ることができるようになる。

イタリアのピサにあるサンタンナ高等学校のバイオロボティクス研究所のChristian Cipriani教授は、EurekAlert!で、カリンさんのロボット義手は「最先端の義肢装具技術とロボット技術の融合」であり「個人の生活に大きな影響を与える可能性を秘めている 」と語った。オーストラリアのバイオニクス研究所の神経義肢研究責任者であり、スウェーデンのバイオニクス・疼痛研究センターの創設者であるMax Ortiz Catalan教授は、「カリンさんは、日常生活で使用できるロボット義手を手にした最初の人です」と説明している。カリンさんの成功体験から、研究者たちは、手足を失って苦しんでいる人々を助けることができると考えている

SNS上では、「手足を失って苦しんでいる人みんなが使えるように、普及して欲しい」「SFの世界が現実になった」といった声があがっている。

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