2000年代後半からAIやロボット工学などの急速な進歩により、その担い手としてハイブリッドな理系人材育成への期待が高まっている。いわゆるSTEAM教育だ。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術、リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの頭文字を組み合わせた教育概念である。変化が続く不確実な現代において、教育現場では理系や文系の枠を超えて学び、問題発見力と課題解決力を育む学習が求められている。
センス・オブ・ワンダーを養う科学体験
小中学生の学力に関する国際比較調査TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study:国際数学・理科教育動向調査)によれば、1995年の調査開始以来、日本は算数・数学・理科の分野でいずれも高い順位を獲得している。ところが同調査のアンケートで「理科は楽しい」と答えた日本の子どもの割合は小4の経年比較では直近の2019年の調査で最も高くなっているものの、中2では国際平均に対して10ポイント以上下回っている。その一因として、理科の勉強と自らの将来像との間につながりを感じにくくなっていることがあげられるだろう。
科学は宇宙や自然現象、天変地異、人体の構造や機能、鉱物の特性や分布、物体運動や力の作用、電気や磁石の物理現象など、私たちを取り巻くあらゆる現象を対象とする。これらを探求する好奇心こそがSTEAM教育の根幹にあるといえよう。周囲の自然環境を観察することによって物事を不思議に思う感覚、いわゆるセンス・オブ・ワンダーと呼ばれる体験を養うために科学の教育分野が注目されているのだ。
科学への探究心を誘う施設が誕生
2023年10月7日、IMAGINUS(以下イマジナス)は「未来をつくる杉並サイエンスラボ」をコンセプトに設立された。その場所として選ばれたのは100年近い歴史をもつ杉並区立杉並第四小学校。学校統廃合により2020年にその役割を終え、今回、官民共同プロジェクトによって科学を楽しむ施設として生まれ変わった。企画運営するのは、カンファレンスホールなどのMICE施設や文化施設を全国で90近く手がけるコングレ社。既存の体育館や教室、大階段などの基本設備を活かしながら、3フロアにわたって子どもから大人までが利用できる多目的な空間を目指した。
従来の科学館が、小学校低学年をメインターゲットにしているのに対し、イマジナスでは体験、思考、創造、発信という流れを意識し、幅広い世代が使いやすいように設計されている。小中学生はもちろん高校生、大学生、社会人、高齢者まで、思い思いの興味に応じて利用できる多彩なプログラムも魅力だ。今後は高円寺の閑静な住宅地というロケーションを活かし、地域コミュニティに開かれた運営にも注力していくという。
---fadeinPager---
ショーとワークショップの2部構成
イマジナスの主なコンテンツは、サイエンスショーとワークショップの2つで構成される。サイエンスショーには体験型科学プログラム、Nutty Scientists(ナッティ サイエンティスト)を導入。ヨーロッパやアジア、アメリカ、ラテンアメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界55カ国以上で展開され、年間1000万人以上の子どもたちが参加する実績をもつ。子どもはもちろん大人の想像力と好奇心をも刺激する、エンターテインメント性に富んだステージプログラムだ。
ワークショップでは、教室や廊下を回遊しながらさまざまな体験ができる。
また、実験室、ワークショップルームでは、実験教室や工作体験の他、3Dモデリングをはじめとした次世代型基礎教養、マネーリテラシー教育やプログラミング教育まで、「生きる力」につながる幅広いテーマを扱う予定だ。一方、ものづくりラボでは自らの手を使って想像したものをかたちにすることができる。3Dプリンターやレーザーカッターなど最新のデジタルファブリケーション機器をオンデマンドで使用し、ものづくりの楽しさを体験する場所だ。さらに映像スタジオでは、個人レベルでは実現が難しい撮影スペースと撮影機材を取り揃え、クオリティの高い動画制作をサポートする。
知識を実体化させ、社会に届けるところまで網羅
イマジナスが目指すのは、教科書で学ぶ知識を実体験を通して定着させ、科学的思考を礎に知識や興味を実体化させること。さらには実社会で活用できるコンテンツづくりまで、自らが考えかたちにしたものの価値を社会に届けるところまでを網羅する。科学という万人に開かれた世界を通じ、年齢やジャンルの垣根を超えて参加できる新しい施設といえるだろう。科学への扉はいつでも、誰にでも開かれているのだ。
IMAGINUS
東京都杉並区高円寺北2-14-13
www.imaginus-suginami.jp