前作の発表から1年、待望のウブロとサミュエル・ロスのコラボレーション第2弾が発表された。前回は発表とともに即完売した、英国出身のデザイナー・クリエイティブディレクターのロスとのコラボモデル。再び熱い注目が注がれているが、登場した新作はプロダクトデザインの原点に立ち戻り、現代から未来へと時を進ませる存在だ。
ウブロとの共通点は「工業的なデザイン」
――ウブロとのコラボレーションは、どのような制作プロセスで進め、ご自身のクリエイティビティをどう反映させましたか?
私のバックラウンドは工業デザイナーであり、ウブロも素材開発をはじめ、同様のアプローチをする革新性のあるブランドです。そういった意味では非常に整合性があり、相性のよさを感じました。いわゆる工業デザインですから、単なる思いつきということではなく、プロセスを経ながらデザインをしていく。素材から開発に着手し、それをファッションの視点を通して表現するということにトライしました。
もうひとつ忘れてはいけないのは、ウブロにはアスレティズムという、いわゆるスポーツに関連する意識が高いことです。加速感やテンションにあふれ、ウブロの知財に根差したファッション性、デザイン性と私自身のスタイルが一致するとともに、「売れるものをつくる」というリテールとしてのコンセプトを開発に結び付けた結果が、この時計になったわけです。
――「工業デザイン」という共通言語がある中で、今回のコラボレーションはとてもスムーズに進んだということですが、その中でも特に優れたケミストリーはありましたか?
私は以前からラバーストラップの腕時計が大好きで、機能を伴う工業的なデザインや美しさに魅せられてきました。1980年代にラグジュアリーブランドとして時計に初採用したのがウブロでした。私にとって極めて有機的な出合いであり、軽量なラバーストラップが私とウブロをつないでくれたのです。
ウブロは時計業界におけるサードウェーブだと思います。現代はグローバルサウスとグローバルノースの間を行き来し、旅するような、そういう時代に入ってきていると思います。その中でさまざまなセクターが従来の垣根を越えて新しいものが生まれ、時計もこれまでのカテゴリーに縛られなくなっている。
ヴァージル・アブローやマシュー・ウィリアムズも言っていますが、まずはビジュアルによるコミュニケーションを行い、メタデータに基づいて新しい社会の見方というものを表現していく。私も本当にそう思っています。そういったセンスをもった世代に対して働きかける、その中でも大事な役割を担っているのが時計でしょう。
なぜかというと時間がこれまで以上に早く進んでいるからです。その加速する時を刻む時計という存在でも、多国籍でカタリスト的な役割を果たし、しかも商業的な意味合いをもって表現をするのがウブロだと思います。
――コラボレーションの第2弾となる新作では、ライムグリーンカラーを採用しました。その理由はなんでしょう? そしてストラップのカラーバリエーションを設定しましたが、時計におけるカラーの可能性についてどうお考えですか?
今回、リスクにチャレンジしたことにとてもエキサイトしています。カラーの強烈さ、激しさをどうしてもメンズラグジュアリーの世界に導入したかったのです。それもマスキュリンで伝統的なラグジュアリーグッズである腕時計にエキセントリックなカラーを使うことによって、一歩先に進むというウブロのキャラクターを表現したいと考えました。同時にそれは、男性のステータスの確認にもなります。自分のもつ富や自信を、オリジナリティのあるカラーを使ってポジティブに表現できる。
特にライムグリーンというのはネオンのような印象もあり、前回のオレンジから一歩進み、エッジィに表現できたのではないでしょうか。さらにストラップのカラーバリエーションを提供することで、異なるシナリオやシーンで身につけられ、幅広い個性が楽しめます。時計そのものは限定数がありますが、そのカラーの数だけ表現の多様性をもたせたかったのです。今回ケースをオールチタンにしたことで、異なるカラーのストラップに対応するとともに、よりラグジュアリー感も増しました。
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コラボで大切なのは「ブランドのシグネチャー」
――コラボレーションではハニカムパターンがひとつの特徴だと思います。採用の理由と、そこに込められた意味や象徴するものというのはなんでしょう。
私はブランドと仕事をさせていただく際は、必ずシグネチャーというものを考えるようにしています。そのブランドで代表的な表現とはなにか。ウブロがウブロであるということ対して、リスペクトを払うことにこだわった。それが私自身のコミュニケーションの手法だと考えたからです。
私の彫刻や家具、ファッションにおいては、あまりパターンを採用することはありません。それでもハニカムを採用したのは、そのデザイン性というよりも、ハニカムのもたらすベネフィットに注目したからです。剛性や強度を損なわず、容量を減らすことで重量を分散できる。そこにチタンを使って軽量性を追求しました。軽量ならではの心地よさと、隙間による速乾効果もあります。個人的に私は重い時計が大嫌いで、しかも安定感がないものが好きじゃないんです。フィット感がありながらも、着けている感触が少ないことも重要でした。
そしてスケルトンも大好きなんです。特にトゥールビヨンという美しい機構の動きを見るためにも、スケルトンは非常に大事だったのですが、世の中にはスケルトンの時計は沢山あります。そこで、新しい表現でありながら、ウブロのシグネチャーという要素をどういったかたちで付け加えるかを考えた結果、ハニカムデザインを用いたのです。
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一過性のコラボレーションは好きじゃない
――ウォッチデザインの醍醐味はどこにありますか? 一方で難しさはどこに感じられますか?
最初にコラボレーションした時は30歳で、現在32歳になりましたが、正直に言うとこの価格帯のラグジュアリーウォッチをデザインするには、私はまだ若年だと思っています。ゲストデザイナーとしてそのような機会をいただいたことは大変光栄に感じています。ヴァージルもよく言っていたんですが、デザインの未来を考えるには、やはり経験し、まさにそのデザインの中に身を置くということが大切です。
ウブロは、そういった意味での工業デザインの進化や、私たちが目指し、非常に関心をもっていることを見事に表現しています。先進的でありながらもディストラクション(破壊)じゃない。つまり、いままであったものを壊すのではなく、あくまでも伝統の上に築き、さらに新しい観点を付加していく。とても外交的なアプローチだと思いますし、私もそれが本当の意味の変革をもたらすものだと考えています。これまでと違った分野で仕事をさせていただくというのは、自身のエゴを表現する場ではなく、デザインの対象となるものやブランドの価値を理解し、そこになにか新しい要素を加えていくという楽しさであり、それが醍醐味です。
難しさというよりは、健全な緊張感がありましたね。私は一過性のコラボレーションはあまり好きではないんです。それでは充分な表現もできませんし、本当の意味でパートナーシップと呼べるものではない。しかし時計の場合、デザインに2、3年かかりますから、お互いを十分に知り合う時間を経た上で、まるでパートナーと付き合うように徐々に互いを知り合い、その成果としてなにかをつくり出す。そんなとてもいい仕事だったと思っています。
いまという時代を見据え、アーティストであり、工業デザイナーである自分になにができるのか。完成した時計には、その謙虚さと相手を重んじ敬意を表して創作に取り組む姿勢が存分に注がれる。ウブロとの邂逅も必然でもあり、まさに現代の時を象徴する。そのアートピースの誕生に立ち合えるのも幸甚といえるだろう。
LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ
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