豊かな自然と歴史文化が息づく兵庫県。ブックディレクター・深井航が考える「兵庫の旅」は、城崎温泉で湯と文学に浸り、神戸で至高の洋食を味わうプラン。それぞれの土地が育んだ多彩なテロワール(土地の個性)を堪能する旅である。
深井 航
Wataru Fukai
1995年、埼玉県生まれ。ホテル「箱根本箱」のブックディレクションのほか、温泉旅館初の文学賞「三服文学賞」や「文喫 六本木」のイベントなど、本を中心に構成した「場」と「企画」を多数手がけている。
日本各地に温泉地は数あれど、兵庫県の城崎温泉ほどに文学の薫りを放つ土地はないだろう。『城の崎にて』を残した志賀直哉の他にも多くの文人がこの地を愛した。
「『城の崎にて』にも描写がありますが、流れる川をのぞき込むと鮎や蟹が居て、100年前に城崎を訪れた志賀直哉もこの景色を目にしていたんだろうな、とふと気付き不思議な感動を覚えました。日本人が心に抱いている温泉街の原風景は城崎温泉みたいなものだったんだと腹に落ちました」
そう深井さんが話すように、日本の温泉街の原風景と呼ぶにふさわしい街並みを構成しているのは、7つある外湯と老舗旅館の風情だろう。なかでも300年の歴史を守りつつ、23年にリノベーションしたばかりの「小林屋」を訪ねた。階段や梁などは当時のまま残しつつ、現代的な感覚を用いて動線を変え、和紙を壁紙に使うなど、見どころが多い館内には心地よい空気が漂っている。
「旅館を改修するのでなくて、日本文化をアップデートするという気持ちで取り組みました」
アーティストでもある11代目当主の永本冬森(ともり)さんのセンスと宿の歴史が融合して唯一無二の空間となっている。
「城崎の自然と食の豊かさ、外湯文化の華やかさは財産です」と永本さん。五感を使って城崎のテロワールを味わい尽くせる宿なのだ。
志賀直哉が求めた癒やしは、いまもこの場所に残っている
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本と洋食……神戸でしか体験できない濃密な空間
神戸は深井さんにとって村上春樹が海外文学に触れるきっかけになったハイソな街という印象があるという。やはり神戸と文学というのも相性がよい。
「神戸文学館」で神戸ゆかりの作家の面影に触れた後に向かったのは「こども本の森 神戸」。
「本に囲まれる高揚感は子どもも大人も変わらないですね。ラインアップも『動物』の棚にロニ・ホーンの鳥の写真集があったりして、大人目線の押しつけがなくていいなと思いました」
本に触れた後は、神戸の洋食文化を牽引する「欧風料理 もん」に向かった。日常的にレトロな喫茶店や洋食店を巡るなど、古いものに興味をもつ深井さん。本には過去に生きた人々や時代を切り取っていまに伝えていく役割もある。古いものと同じような存在なのだそう。
「時の経過から生まれた価値はテクノロジーでつくり出せない唯一の価値だと思いますし、その流れの中に自分も身を置いていると考えると独特の安心感があります。神戸を歩くと、感じのよい老舗の喫茶店がいくつもあって、ジャズが流れている。本を読む人にとっては最高の居心地ですよね。街並みを見てもていねいに時間が受け継がれていると感じました」
本と洋食をキーワードにした神戸のテロワールを深井さんは教えてくれた。
●兵庫テロワール旅 www.hyogo-tourism.jp/terroir
※代官山T-SITEにてブックディレクター、深井さんの視点を再現した「兵庫テロワールオリジナルコーナー」を11月20日(月)〜12月4日(月)まで設置。ぜひ一度、足をお運びください。