時計の新たな可能性を育み、腕時計のさまざまな楽しさを体験できる発信拠点として2022年、東京・神宮前のWITH HARAJUKU 1Fにオープンした「Seiko Seed(セイコーシード)」。「時代とハートを動かすセイコー」のスローガンの元、技術とデザインを切り口としたイベントや企画展などが行われ、多くの来場者を集めてきた。そして現在、「機械式腕時計とAnimacy(生命感)の正体」と題し、セイコーウオッチ デザイン部のほか、参加クリエイターに、nomena(ノメナ)、siro(シロ)、TANGENT(タンジェント)の3組と、展覧会ディレクターに平瀬謙太朗を迎えた企画展、『からくりの森 2023』が開かれている。
nomenaの『連鎖するリズムのコラージュ』とは、セイコーの機械式腕時計が0秒を指した時を合図に動きはじめる作品だ。ムーブメントの力によって小さなレバーが押されると、その動きが初期の機械式時計に使われていた「棒テンプ+ピン歯車脱進機」や古い振り子時計に用いられていた「退却式アンクル脱進機」、それに現在の機械式腕時計に多く採用されている「クラブトゥース脱進機」などの7つの機構に連鎖。カチカチと音を立てながら、ゼンマイと重りの力を用いて、いつしかオーケストラを奏でるようにダイナミックな動きへと展開していく。まるで時計のムーブメントが心臓と化して、複数の機構を有機的に連動させていくようで、本来は無生物でありながらも確かな「生命感」が感じられる。
セイコーウオッチ デザイン部の『時のかけら』とは、普段、人目には触れないムーブメントそのものの美しさを表現したいという観点から作られている。大小2種類のムーブメントには、1グラムほどの小さな葉っぱや鳥の羽が細いワイヤーでつながっていて、ムーブメントの動きによって回転しながら、背後の白い壁に美しく可憐な影を映し出している。自然から贈られた素材が、時計機構に凝縮されていた力によって解放され、ムーブメントの奥に潜む自然の息吹を思わせるようなインスタレーションだ。このほか、siroによる水を使って時間を掴む装置の『時のかけら』や、石の彫刻にムーブメントを埋め込み、時間の普遍性の可視化を試みたTANGENTの『時の鼓動』も、時計から豊かなイメジネーションを引き出した作品といえる。
今回の展覧会の開催に先立ち、4組のクリエイターは一度時計を分解し、再度組み立てたことをきっかけに、共通するキーワード「Animacy(生命感)」が浮かび上がったという。700年以上の歴史を有する機械式腕時計のムーブメントは、歯車やアンクルなどの部品が作用し合いあい、電気を一切用いずに、その“からくり”によって時を刻みづける、時計の原点とも呼べる駆動機構だ。そしてサステナビリティの概念が世界的に重要とされる中、人が手で巻いたぜんまいの力によって動くという永続性も持ち得ている。必ずしもデザインされたわけではなく、機能を追求した結果、有機的なかたちを見せるムーブメントは、生命の存在とも共通しているといえる。『からくりの森 2023』にて、機械式腕時計に潜んだ生命感と、機能や技術を超えた多様な魅力を感じたい。
『からくりの森 2023 「機械式腕時計と Animacy( 生命感 ) の正体」』
開催期間:2023年10月13日(金)~12月24日(日)
開催場所:Seiko Seed(WITH HARAJUKU 1F)
https://www.seiko-seed.com