サックス奏者・作曲家、松丸契のことをまだ知らない人は、ひとまずなにも読まずに彼が2022年にリリースした2ndアルバム『The Moon, Its Recollections Abstracted』を聴いてほしい。記録されている音、それ以上でも以下でもない、完璧な一つの世界が立ち上がるセンセーションをまっさらな状態で体験することは、他に代えのきかないものだ。
幼少期から高校卒業までをパプアニューギニアの山村で過ごし、アメリカ・バークリー音楽大学を卒業したのち、2018年から東京で活動を開始した松丸。R&Bやヒップ・ホップしか聴いてこなかった少年時代を経て、プロパーな音楽教育およびジャズのコンテクストを学びながらも、それにあえて“背を向ける”ことを選んだ彼がいま、シーンやジャンルを問わず多様なアーティストと共演し、マージナルで独創的な音楽家として注目を受ける、その理由とは。
普段、松丸がレコーディングに使用しているという池袋のスタジオ「STUDIO Dede」にて、映画『白鍵と黒鍵の間に』で俳優にも初挑戦した松丸の2023年を振り返ってもらいつつ、彼が考える新しい音楽の在処やクリエイティブの起点、芸術家としてのスタンスについて、じっくりと話を訊いた。
BREAKING by Pen CREATOR AWARDS 2023
確かな才能で存在感を強める、いま注目すべきクリエイターをいち早く紹介。アート、食、ファッションなど、各界のシーンで異彩を放つ彼らのクリエイションと、そのバックボーンに迫る。
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