家賃10万円でシングルベッドと同等の広さの“ポッド”に住む若者たちが話題に…サンフランシスコの高騰する家賃事情とは?

  • 文:青葉やまと
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f11photo-shutterstock ※画像はイメージです

家賃高騰のサンフランシスコで、2段ベッドまたはカプセルホテルのような狭い寝台スペースが月700ドル(約10万円)で貸し出され、家賃高騰の象徴として物議を醸している。

AIスタートアップ「Spellcraft(スペルクラフト)」の創業者であるクリスチャン・ルイス氏が、この「ポッド」(ベッドサイズの小部屋)に住む生活をソーシャルメディアで公開したところ、米ニュース各局が報じて注目を集めた。ポッド自体は数年前から提供されているが、近年の家賃高騰に伴って注目度が増しているようだ。

ルイス氏はサンフランシスコでの生活費を抑えつつ、AIの中心地であるこの都市で活動するため、ポッドを選んだという。1LDKで月の平均家賃が約3000ドル(約45万円)と高騰するサンフランシスコにあって、狭いとはいえポッドなら4分の1以下でプライベートスペースが確保できる利点がある。光熱費も家賃に含まれている。

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起業家やアーティストたちが共同生活

ポッドは、スタートアップ企業の野心溢れる創業者やプログラマー、学生にアーティストなどを引き寄せ、現在約20人が居住している。

ポッドの1室はシングルベッドと同等のサイズで、幅1m × 奥行2mほどだ。高さは1.2mほどで、やっと座れる程度。カプセルホテルの1区画をイメージすると、かなり近いだろう。この空間に簡素なマットレスが敷かれている。ドアはなく、カーテンで仕切るのみだ。

自分専用のスペースは、寝るのが精一杯のこのポッドに限られる。共有スペースにはバスルームが備わる一方で、いわゆるゲストハウス(格安宿)とは異なり、本格的なキッチンやランドリーはない。ランドロマット(コインランドリー)を見つけるなど、各自工夫して生活する必要がありそうだ。

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人との交流が魅力、「最も賢い人たちに出会えた」

もっとも、700ドルの家賃には、快適なソファが揃うラウンジへのアクセスが含まれている。見知らぬ人々と集い、業界の知見を交換するには良い機会かもしれない。

少なくとも30日間滞在すると宣言したルイス氏は、米ABCニュース・ベイエリアの取材に対し、「これまでの人生で出会った中で最も賢いといえる人たち」にすでに巡り会えたと語る。「ここにいる利点はあまりにも大きい」「お金が尽きるまでいることにしたよ」と満足げだ。

同局のキャスターたちは、「未来のためにぜいたくを諦めている」と述べ、成功のための一時的な苦心であるとの見方を示した。キャスターのルース・ペナ氏は、月3000ドルかかる家賃を節減して、自分たちが立ち上げようとしている会社に投じているのです——と解説している。

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簡易な施設だが人気は高い

同局による動画では、ポッド内部の写真が公開されている。最低限寝られるスペースはあり、ある程度清潔で、簡易的な換気用のファンも設けられている。ただしカプセルホテルと同様、防音はあまり期待できそうにない。数泊程度の滞在ならば問題ないが、長期的にストレスなく住めるかどうかは人によりそうだ。

簡易な寝床となっているが、ポッドへの需要は高い。運営会社でスタートアップ企業でもあるブラウンストーン社は、ルイス氏が利用するサンフランシスコ市街のソーマ地区に加え、シリコンバレー内のパロアルトやサンノゼ、そしてロサンゼルス寄りのベイカーズフィールドにもポッド型宿泊施設を設けている。

地元ニュースサイトのSFゲートによるとソーマ地区の施設は、28あるポッドがすべて今月内に埋まってしまいそうなほどの人気だという。

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成功前夜の倹約生活

地元メディアのサンフランシスコ・スタンダードは、「成功したハイテク企業の創業者の生活は、しばしば豪華で、リッチにさえ感じられる」としたうえで、「しかし、数百万ドルのIPOによる報酬、メガヨット、シリコンバレーの豪邸を手に入れる前には、スタートアップの苦行が待っている」と紹介している。

サンフランシスコは従来、テック企業が多く立地してきた。こうした企業がリモートワークを積極的に推進したことで、パンデミック後の現在、空きオフィスの増加と治安の急激な悪化が問題となっている。

一方で市はAI企業の誘致に力を入れており、ちょうどコンピュータ産業の黎明期を支えたシリコンバレーのように、まだまだ夢のある土地でもある。現在、ChatGPTのOpenAIほか、Anthropic、ScaleAIなどAI分野の注目株がサンフランシスコ市街に集まっている。

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ソーシャルメディアの反応はさまざま

夢を追ってサンフランシスコに飛び込み、ポッドでの生活を選ぶ若者に対し、さまざまな声が上がっているようだ。サンフランシスコ・スタンダード紙は否定的な意見として、「犬のように木箱で暮らすため、月700ドルも払っているのか」との声を紹介。

一方でX(Twitter)ユーザーからは、「カリフォルニアのゴールドラッシュはサンフランシスコ特有の文化であり、絶えることがない」との声も出ているという。倹約生活が結実し、AI版ゴールドラッシュを掴む若者たちがポッドから生まれてゆくのかもしれない。

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ポッド内部のスペースは最小限。それでもルイス氏は「利点はあまりにも大きい」と語る。

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家賃を節減して起業に充てているのだ、とキャスターたちは解説した。

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