「大人の名品図鑑」英国靴 #2
靴はファッションの“要”とよく言われるが、ここ十数年続いたスニーカーブームも落ち着きを見せ、次に履く靴を探している人も多いはず。時代のムード考えると、何年も流行に関係なく履ける本格的な革靴を手に入れたいと考えている人もいるだろう。そんな革靴の代表として、英国で生まれ、今も英国で製作され続ける名靴を取り上げる。
英国スタイルに詳しいファッション評論家の林勝太郎は、『英国の流儀Ⅱ』(朝日文庫』)で、「紳士と言われている人たちは一般的に二着のスーツしか持たない」と書く。二着のスーツとは保守的なダークスーツと、パーティなどに出向く時のためのディナースーツ。サヴィルロウで誂えたこれらのスーツを修理しながら何十年も着る、これが英国紳士の本流のスタイルだ。それ以外で彼ら揃えている服がカントリーハウスで過ごすための衣料。ツイードのジャケットやフィッシング用のジャケット、乗馬用のハッキングジャケットなど、その場に相応しいスタイルを選ぶ、これも英国紳士の嗜みだと林は同書で書いている。
今回取り上げるトリッカーズのカントリーブーツもそうした英国紳士の余暇のカントリーライフを想定してデザインされた革靴と見て間違いないだろう。
トリッカーズはノーサンプトンの靴づくりの名人と言われたジョセフ・トリッカーズ氏によって1829年に創業された靴メーカー。現存するノーサンプトンの中では最古のブランドで、ビスポークでは現在でも一人の職人が、最初から最後まで一足の靴を手掛ける「ベンチメイド」を守り続けている。
トリッカーズはチャールズ国王から御用達を得ているブランドとして知られているが、そのきっかけをつくったのは故ダイアナ妃。彼女の実家スペンサー家が代々使っていたのが、トリッカーズのルームシューズ。皇太子時代のチャールズ国王にこの靴をダイアナ妃が薦め、国王がトリッカーズを履くようになったらしい。現在では国王はルームシューズだけでなく、ドレスや今回紹介するカントリーブーツも愛用していると聞く。
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トリッカーズの工場が登場する映画も
トリッカーズのカントリーブーツから今回取り上げるのが「ストウ」というモデルだ。これは「モールトン」と並ぶ同ブランドのカントリーブーツの代表作。両者は同じデザインだが、ウィズやソールだけが違うだけの兄弟モデルだ。どちらもつま先などに装飾が施された「フルブローグ」の外羽根のデザインで、足首などをサポートするブーツタイプになっている。
この「ストウ」に使われている素材は通常のカーフとは異なる鞣し方をした「Gorse leather」で、水や汚れにも強く、傷が付きにくい特徴を持つ。製法はもちろん伝統的なグッドイヤーウェルト製法を用いているが、アッパーとソールの結合部にはL字型のウェルトを採用し、雨や泥などが入り込むことを防ぐ「ストームウェルト」の仕様で仕上げられている。このモデルは創業者の息子、ウォルター・ジェームス・バールトロップ氏がわずか7歳の時につくったブーツが原型になっているという説もあるが、重厚なその佇まいは英国人のライフスタイルを象徴する逸品だと言えるだろう。
余談になるが、ノーサンプトンのトリッカーズの工場がロケ場所として使われた映画がある。2005年に製作された『キンキーブーツ』という作品だ。ノーサンプトンのとある靴工場が経営不振に陥り、その危機をドラァグクイーンのローラ(キウェテル・イジョイフォー)がデザイナーとして参画し、その危機を救うといういわばサクセス・ストーリー。実はノーサンプトンにある実在の会社の話が元になった作品で、「キンキーブーツ」とは「危険でセクシーな女物の紳士靴」という意味らいい。
この映画では工場で靴が製作されている場面がたくさん出てくるだけでなく、ノーサンプトンの街の様子までわかる作品だ。ノーサンプトンの靴づくりに興味がある方は、見逃してはならない一本だろう。
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トリッカーズ 青山店 TEL:03-6805-1930
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