陶芸家と建築家という二足のワラジを履く奈良祐希による建築「NODE KANAZAWA(ノード金沢)」が、石川県の金沢市問屋町に誕生した。注文住宅や商業施設の設計、施工、販売などを手掛ける、株式会社家元の本社機能を備えたこの建物は、1階にカフェレストランやギャラリーも入居する複合施設として設計された。
このプロジェクトが立ち上がったのは、コロナ禍以前の2019年。当初は都市中心部に象徴的な新社屋を建てる構想のもと進んでいた計画だが、世界的なパンデミックを機にリモートワークをはじめとする新しい働き方へのシフトチェンジが加速する中で、郊外に立地しながら、周辺環境を引き込む低層の社屋という新しいコンセプトへと大きく方向転換した。
周囲の景観に溶け込むように配慮された2階建のノード金沢は、東西に建物を貫通する「緑のミチ」と、南北に走る「街のミチ」という十字状の「路(みち)」によって大きく4つのパートに分けられている。「緑のミチ」はパブリックスペースとして地域社会に貢献し、オアシスとしての役割を担う一方で、「街のミチ」は都市街路の延長として機能し、街と建物の境界をさらに曖昧にしていく。この「ミチ」の交わる点が人や社会とつながるNode(結節点)を形成することで、コミュニティのハブとして機能していくことが期待されている。
なによりもこの建築を特徴づけるのは、地域に古くから伝わる武家屋敷の土塀を連想させる左官仕上げの土壁ファサードと、問屋町で多くみられる「キャンティレバー構造」だ。土壁に用いた土は、敷地の残土、県内を流れる手取川の砂利、大樋土の陶土などを混ぜ込み、粒度試験を重ねて独自に配合したもの。陶芸の制作プロセスを建築に転用するという、奈良らしい発想が具現化されている。木造ながら5mにおよぶ片持ちを実現したキャンティレバー構造は、その下に現れた空間に、マルシェやイベントといった街のアクティビティを引き込むことを可能にした。
奈良は陶芸と建築の要素を掛け合わせた、独自の設計手法について説明した。「陶芸と同じく、感情的かつ土着的な『無意識』を司る土を用いた形態スタディを繰り返しながら、陰影を内包した“いびつな土のかたまり”を、設計という『意識』的な所作によって具現化しました」
ノード金沢の植栽を担当したのは、国内外で注目されるプラントハンターの西畠清順。植え床の狭さ、陽当たりの悪さ、水捌けの悪さといったマイナス条件に対して、高い適応力をもつ広葉樹のシャラノキを採用した。春には爽やかな新緑が生い茂り、夏には地表に花が落ち、秋には紅葉が目を楽しませ、冬の落葉時には暖かい陽光を建物内へと導くなど、四季折々異なる表情を見せる。地被には数種の苔を混植し、飛び石には兼六園や金沢城でも使用される戸室石という地域とゆかりの深い素材を使用した。
構造設計を担当した大野博史は、多雪地域における広い内部空間やキャンティバレー構造を、木造の技術力によって実現した。「緑のミチ」と「街のミチ」によって建物のボリュームが4つに分けられたノード金沢においては、ひとつのボリュームだけで耐震要素を計画すると、四周に壁が必要になってしまい、「ミチ」側に閉塞感が生まれてしまう。それを避けるため、中空に各ボリュームをつなぐ3 つのブリッジを水平剛性として利用し、主な耐震要素は外周道路に面する土壁部分に配置した。さらに、木製トラス架構を各所に配置することで、問屋町の建築エレメントとして最大の特徴である5mの「キャンティレバー」を実現した。
本格的な建築作品としては奈良の処女作となったノード金沢だが、350年以上続く茶陶の後継者である自身の出自や、地元金沢の文化や産物が違和感なく建築のフォーマットへと落とし込まれており、すでにシグネチャースタイルと呼べるような、オリジナリティあふれる表現に帰結している。ここから第2作、第3作と続いていく奈良のキャリアがどのような発展を見せていくのか、大いに期待させる印象的な第一歩が刻まれた。
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奈良祐希
1989年金沢市生まれ。茶陶の名窯「大樋焼」の次期12代目当主。東京藝術大学で建築、多治見市陶磁器意匠研究所で陶芸を学び、東京藝術大学大学院修了後に北川原温のもとで学んだのちに独立。2021年、「EARTHEN」を設立。
EARTHEN
石川県金沢市問屋町1-27-1
https://earthen.jp