スイスが誇る高級時計ブランドのオーデマ ピゲと、マシュー・ウィリアムズ率いる1017 ALYX 9SMによるコラボレーションが、8月にベールを脱いだ。1972年の誕生以来、モダンウォッチの揺るぎないアイコンとして、世界中で愛され続けている「ロイヤル オーク」をテーマにしたこの注目のコラボレーションについて、ウィリアムズは自身のルーツにあるストーリーとともに思いを語った。
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――ロイヤル オークは元々ご自身でも愛用されていたようですが、このコラボレーションはどのようなきっかけで始まったのですか?
「26歳か27歳の時に初めて手にして以来、ロイヤル オークは常に私のフェイバリットウォッチだから、私自身のブランドでも何かをやりたいと考えて、実際にロイヤルオークを買ってきて、自分たちの手でカスタマイズしました。そのプロジェクトが反響を呼んだおかげで、オーデマ ピゲのフランソワ-アンリ・ベナミアスCEOに出会い、正式なコラボレーションについて話し合うことができたんです。それは最高にアメージングなこと。既存のモデルをカスタマイズするのと、オーデマ ピゲと新しいモデルを一からつくり上げるのとでは、まったくワケが違います」
――時計に対する関心はいつ頃芽生えたのでしょうか?
「私の父の親友がヴィンテージウォッチのバイヤーで、自身で販売もする人だったので、昔から彼の家で時計を見せてもらったり、時計のことについて教えてもらったりしていました。彼はマイケルというのですが、実は、私のミドルネームは彼の名前にちなんで名付けられたものなんです。彼とは本当に長い時間をともに過ごしました。一緒に旅行もしたし、スポーツもしたし、彼の家に泊まって彼のウォッチコレクションを眺めたりもしました。家族に一番近い友人で、彼の家を訪れるたびに、私は新しい時計のことを学びました。それが、私がしっかりと時計と向き合った初めての経験でした」
「そんな中で、私が高校を卒業した時に、父親がマイケルから買い取った時計をプレゼントしてくれたんです。それは、卒業や実家を離れるという門出の時を象徴するシンボルであり、素晴らしいギフトとなりました。そこから何年もかけて、その時に私が使っている時計と、欲しいと思う時計を交換するかたちで、どんどんアップグレードさせてくたんです。それを10年ぐらい続けた後に、私のファースト・オーデマ ピゲに出会うことができました。時計をたくさんコレクションしたい人も多いと思いますが、私の場合はこのオーデマ ピゲの腕時計だけを長年愛用してきました」
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――その経験は、現在のご自身のクリエーションにも影響を与えていると思いますか?
「マイケルが持っていたコレクションは、私には高すぎて買うことができませんでしたが、その代わりにいい時計を眺める機会には恵まれていました。それは洋服にも同じことが言えます。私は何年も、自分が買うことのできないような洋服を観察し続けきました。実際に触って、感じて、制作のプロセスや、裏にあるストーリーを知り、何がその時計を特別なものにしているのかを理解するということは、まさしく洋服の製作にも通じていて、その経験こそが、私をプロダクトやブランドというものに結びつけてくれています。だから、父親のベストフレンドのビジネスが時計関連で、それに幼少期からふれることができ、さらにいい時計を手にして、だんだんとアップグレードできたということは、非常に幸運な経験でした」
――コラボレーションのプロセスはどのように進んでいきましたか?
「ファッションのデザインプロセスにおいて、なにかのアイデアを服やアクセサリーに落とし込む際には、ほとんどの場合、素材の選定から作業を始めます。生地の専門家と協力して、自分が存在してほしいと思うものを形にしていきます。オーデマ ピゲとのコラボレーションにおいてもそれは同じで、ベナミアスCEOや制作チームとあらゆる可能性を模索する中で、少しずつデザインを形にしていきました。ロイヤル オークという時計を進化させるということは非常にチャレンジングな試みですが、エキスパートとの対話を重ねることで、それは実現できると確信していました」
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――ロイヤル オークを進化させる手段として、どんな手法を取られましたか?
「ロイヤル オークのデザインはすでに完成されていて、とてもタイムレスなものです。こんなにアイコニックな物を題材にすると、私が手を加えるべきところは、とてもわずかなポイントに限られています。以前にナイキのエアフォースワンというとてもアイコニックなシューズを題材にした時も、パネルのレイヤーを少しだけ組み換えることで、一見なにが違うのかわからないけれども、確かになにかが違うというようなデザインを考えました。ロイヤル オークも従来のクリーンなデザインにはできるだけ手を加えずに、金属の磨きかたを少しだけ変化させました。些細なアレンジを加えるだけで、これまでにないフィーリングを感じられるようになるんです。なぜなら、光りの印象を変化させているから。マットとシャイン、異なる磨きによって反射のしかたが変わり、見えかたも変わります。目に見える大きな変化を加える必要はありません。ダイヤルや回転錘にはブランドロゴを刻印しました」
――オーデマ ピゲのスペシャリストと開発を行ったことで、新たな気づきはありましたか?
「スイスにあるオーデマ ピゲの本社に初めて訪れて、ウォッチメイカーたちの仕事を見たことはとても大きな刺激となりました。数百年前のパーツを使うこともあれば、自分たちで一からつくることもある。彼らはオーデマ ピゲがこれまでに生み出したものであれば、なんでも直すことができる技術をもっています。彼らの仕事に対する熱量や愛情、正確さや献身性の高さを目の当たりにしましたが、時計の仕事は10代の頃に選択するもので、数十年後にようやく完全なものになるかもしれないという厳しい道であり、それは文字通り人生をかけた決断だと言えます」
「彼らの仕事は、信じられないほど発展した先進技術と、炎でパーツを炙ったり、手彫りでパーツ同士を繋げたりするような、原始的な技術をかけ合わせたようなものでした。実際はすべてを人の手でつくっているわけではなく、機械でつくるわけですが、その裏側には、数え切れないほどの手仕事があるということに気づかされました。セラミックに代表される素材開発に関しても、原材料を特別なものへと変え、時計へと組み込んでいく彼らの仕事を見ることは特別な経験でした」
「また、“時間”へのコミットメントのレベルの高さにも注目すべきです。彼らがつくるものはすべて生涯を通して愛用できるものですし、新商品や素材の開発に際して、自分たちが納得できるまで、とても長い年月をリサーチや制作に費やします。そういう高いクオリティのものづくりを目にすることは、とても刺激になります」
自身のルーツにあるアイコニックな時計のデザインに最大限の敬意を払いながら、その要素をミニマルに削ぎ落としていくことによって、真髄にあるタイムレスな魅力をくっきりと浮き彫りにしたウィリアムズ。自身のもてるセンスや先進性を誇示することなく、颯爽と、しかし確実に、いま時代が求める表現を具現化していく彼の手腕に、稀代のデザイナーとしての真価がある。
オーデマ ピゲ ジャパン
TEL:03-6830-0000