定評のカメラが、0.5倍から5倍まで滑らかにズーム
ついに発売となったiPhone15年目の最新4モデルは、前々から噂のあったUSB-C端子の搭載に加え、カメラが大きく進化したのが特徴だ。特に最上位モデル、iPhone 15 Pro Maxのカメラの魅力は頭抜けている。
新発売となったのは6.1インチディスプレイを搭載した基本モデルのiPhone 15と、スペック、性能はほぼ同じながら一回り大きい6.7インチディスプレイを搭載したiPhone 15 Plus。最新技術を凝縮したProモデルで6.1ディスプレイのiPhone 15 Pro、6.7インチディスプレイのiPhone 15 Pro Maxの4モデル。
ProモデルとPro Maxは、画面サイズとバッテリー動作時間以外の違いがない年と、Maxのサイズを生かしてスペックが異なる年があるが、今回は望遠レンズの性能で大きな差がついた。
iPhone 15 Pro Maxは、その大きな本体サイズを活かし、レンズから入ってきた光線を本体内で4回連続して反射させることで距離を稼ぎ、35mm換算にして120mmという驚く望遠性能を実現している。レンズ交換式カメラを使ったことがある人なら120mmまで迫れるレンズとなれば、それなりに長く大きくなることをご存知だろう。iPhone 15 Pro Maxはこの望遠性能をポケットに収まる8.25mmの薄さに収めて実現してしまった。同様の技術を使って、さらにすごい望遠を実現しているスマートフォンもあるにはある。
だが、超広角13mm(0.5倍)から120mm(5倍)までをまるで1本のレンズであるかのように色や明るさの変化も感じさせず滑らかにズームできる使い勝手や、悪条件でもディテールを潰さずにしっかり描写するカメラ性能まで合わせたバランスの良さ。これを含めたものがiPhoneの魅力だろう。
ちなみにiPhone 15 Proも77mm(3倍)の望遠レンズを搭載しているが、さまざまなシチュエーションで撮り比べてみると、やはり120mmレンズの迫力には圧倒される。
今回のProシリーズ、Apple社は「7種類のプロ用レンズをポケットに」と宣伝している。実際にiPhone 15 Proシリーズが搭載しているレンズ/センサーは3つだけなのにどういうことか。
7つのレンズの1つ目は最近、iPhone写真の代名詞にもなりつつある13mm超広角のレンズだ。2つ目は28mmのメインカメラだ。iPhone Proの写真の基本解像度は2400万画素だが、実はこのメインカメラは最大4800万画素での高画質撮影が可能なセンサーを搭載している。Appleは、このセンサー情報の一部だけを取り出す形で3つ目となる1.2倍の28mmレンズ、4つ目となる1.5倍の35mmレンズでの2400万画素写真を撮影できる撮影モードを新たに追加している。さらに4つのセンサーを1つのセンサーとして機能させるQuad-Pixelという技術を使って5つ目の2倍48mmのレンズモードを追加。そこにiPhone 15 Proでは77mm(3倍)、iPhone 15 Pro Maxでは120mm(5倍)の望遠レンズが6つ目のレンズとして加わる。では7つ目は……? というと、超広角レンズが最短2cmまで被写体に近づけるマクロレンズとしても使えるつくりになっているのだ。
もちろん、0.5倍ズームから5倍(iPhone 15 Proの場合は3倍)までの途中の倍率でも、複数レンズの情報を元に自然なコンピュテーショナルフォト(合成写真)を描いてくれる。
これだけ異なる画角が選べると、写真を撮るのが一気に楽しくなる。
画角だけではない。暗所や逆光などの悪条件にも強く、3つのレンズで撮影した絵を合成して服の繊維の質感まで潰さず描きだす描写性能のすごさもiPhoneカメラの魅力だし、距離センサーで被写体と背景の境界を認識して背景だけデジタル処理でぼかすポートレート撮影機能も人気の機能だ。今回、このポートレートモードがさらに進化して、あえてポートレート撮影モードを選択せずとも、通常のカメラモードで撮影しても被写界深度情報が取れているマークが表示された状態なら、後からポートレート写真に切り替えることができる。さらに複数の人が写っている写真の場合、後から誰に焦点を合わせるかを切り替えることもできるように機能が進化している。
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薄くて軽いチタンボディーに驚異的な性能を凝縮
進化したのはスチルカメラの性能だけではない。背景をぼかして映画のような映像が撮れると人気のシネマティックモードが進化し、撮影中のズームの変更が可能になったりと、アマチュアが楽しめる機能も進化。一方で、外付けのSSDにProRes 4K60という高解像度高フレームレートで映像を記録する機能、後から色調調整しやすいLogフォーマットでの記録、さらには映画産業の色管理フォーマットACES規格にスマートフォンとして初めて対応するなど、映像のプロフェッショナルが十分業務で使える画質と撮影方法の柔軟性を備え始めている(そうしたことを意識してか、今回のiPhone発表会には映画監督を務めることも多い蜷川実花さんも招待されていた)。
iPhoneは既に日本でも『シン・仮面ライダー』をはじめ多くの映画でカメラとして採用され始めており、最近ではプロ用映像機器メーカーのBlackmagicがiPhone用の本格的ビデオ撮影アプリをリリースしたことも話題になっている。映像業務にも十分使える品質のカメラを、普段はただのスマートフォンとしてポケットの中に収めておくことができるというのはよく考えてみるとすごいことだ。
iPhone 15 ProとPro Maxにはもうひとつ、忘れてはならない映像撮影機能がある。10月以降に行われるiOSのアップグレードで提供予定の空間ビデオの撮影機能だ。2つのレンズを使って映像を立体的に記録する撮影モードのことで、iPhone上では平面の映像として表示されるが、来年米国で発売のApple Vision Proを通して見ると奥行きのある立体映像として再現される。
この進化したカメラを裏で支えているのが最新のA17 Proだ。グラフィック処理の性能やAI関連の処理の性能を大幅に向上させている。これまではプロセッサ性能があがっても、利用できるアプリも変わらないし、古いプロセッサとの差異を感じられることが少なかった。
だが今年のAppleは少し違う。ゲームメーカーにA17 Proの性能を存分に活かしたゲームの開発を呼びかけており、スマートフォン用ではない、専用ゲーム機でプレイしていたのと同じレベルの画質のゲームが続々とiPhoneに移植され始めている。手のひらに収まるサイズの端末ながら、テレビや大型ディスプレイに繋ぎ、ゲームコントローラを握って本格的なゲームが楽しめるのだ(こうしたゲームの多くはiPhone 15 Proシリーズ専用で、以前のプロセッサのiPhoneでは動かない)。
製品デザインも大きく進化した。最大の変化は、本体側面を覆う金属が軽くて頑丈、金属アレルギーも起きにくいことでも知られるチタンに変更されたことだ。
このチタンの頑丈さを生かして本体を覆うベゼルはiPhone史上最薄となっており、それにより本体サイズも少しだけ小さくなった。またこれまでのiPhoneの重さをイメージして手にすると、その軽さに驚かされる。
3種類のカラーバリエーションに加え、今回、チタンの無垢の色を活かしたナチュラル・チタンという無彩色モデルが用意されているが、こちらの質感も良い。
これだけ大きな進化を果たしながら、米国での価格は変わっていない。残念なことに円安の影響で日本ではそれなりに高価になってしまっているがプロ品質でありながらポケットに収まる機動性を持つカメラと考えると、むしろ良い買い物にすら思えてくる。
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標準モデルも負けない勢いで進化
Proシリーズの進化があまりにも大きいので、まずはそちらからの紹介になったが、実は標準モデルのiPhone 15も大きく進化している。カメラもProシリーズと同じ4800万画素のセンサーが搭載され、この画質での撮影が可能になった。望遠撮影をする3つ目のレンズは搭載しない2レンズ仕様だが、Quad-Pixel技術を使って、標準の2倍の48mm撮影は可能だ。また標準のカメラモードで撮影した写真を後からポートレート写真として編集できる次世代ポートレート撮影やシネマティックモードでの映像撮影中にズームを変更する機能にも対応している。
製品の見た目上の最大の特徴はDynamic Islandの採用だろう。前モデルのiPhone 14は縁いっぱいまで広がった画面の上端に、自撮り用のTrueDepthカメラや顔認証用のセンサーなどが隠されたノッチと呼ばれる黒い領域があったが、iPhone 14 Proから、このセンサー部が画面の上端から切り離され画面上に浮かぶ小島のようなDynamic Islandに仕様変更された。
Appleは、影ができてしまい画面としての使い勝手が落ちるDynamic Island部分に、再生中の音楽の情報や経路案内情報、タイマーの残り時間や着信情報などのバックグラウンドで実行中のアプリの状態を示すという新しい役割を加え、製品の強みに変えてしまった。つまり、iPhone 15では、前モデルのiPhone 14ではただの黒い領域として無駄になっていたエリアまで、操作アニメーションの楽しいDynamic Islandとして活用できるのだ。
こちらの本体は従来通りのアルミとガラスの組み合わせだが、超微細な金属イオンによって、ガラスに色を浸透させるInfused Glassという技術を使い、レンズした部分の隆起したガラスを本体色に彩色するなど、より美しい製品に仕上げる努力は怠っていない。
問い合わせ先/アップル
www.apple.com
ITジャーナリスト
1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。
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1990年から最先端の未来を取材・発信するジャーナリストとして活動を開始。アップルやグーグルなどIT大手に関する著書を多数執筆。最近は未来をつくるのはテクノロジー企業ではないと良いデザインやコンテンポラリーアートの取材に注力。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学客員教授。
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