剣菱酒造/剣菱
小さい酒蔵が醸す純米酒の燗酒フリークである「にほん酒や」の店主・高谷謙一さんが、老舗の大手酒造、剣菱に目覚めたのは約4年前。出合いの場所は、なんとパリだった。
「きっかけは、ヨーロッパでの日本酒の交流イベント“サロン・デュ・サケ”です。初めて剣菱の燗酒を飲んだのですが、しっかりと熟成していてコクがあり純粋に旨い酒だと感じました」
かつては、小さい酒蔵を応援したい気持ちもあり、大手蔵の日本酒を積極的に飲むことはなかった。しかし剣菱と出合い、大手蔵に対するイメージが一変。さらに、さまざまな縁がつながり、イベントの3カ月後には剣菱の酒蔵に行く機会にも恵まれた。
「衝撃でした。製造現場を見せてもらったのですが、蔵人さんの数が多く、代々受け継ぐ味を変えないための手間暇が尋常じゃないんです。小さい酒蔵と同じどころか、もっと手間をかけている印象を受けました」
それ以来、剣菱は晴れて「にほん酒や」の燗酒メニューに加わり、プライベートでも愛飲するようになったと教えてくれた。
「スーパーやコンビニなどでも買えるのが魅力で、ひとりでも友人たちともよく飲みますね。常温でもいいし、どんな料理にも合うので、一升瓶を携えてゆるゆる飲むのが最高なんです」
お気に入りのおともは、高谷さんの故郷である青森でも昔から親しまれてきた日本民謡。特に、近年の売るためにつくられた楽曲よりも、江戸時代から昭和初期まで労働者の作業歌として歌われてきた、牧歌的な民謡を好んでいる。
「飾り気のないミニマルな民謡と、昔ながらの味を貫く剣菱はどこか親和性があります」
剣菱と民謡のふたつが重なると「身体がほぐれて気持ちがよくなるだけでなく、新しい発想も浮かぶ」と高谷さんはうれしそうに語った。
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全国に残る日本民謡を収集し、民謡の魅力を発信するふたりのDJユニット「俚謡山脈」のミックス音源が高谷さんのお気に入り。世界のダンスミュージックと並行して聴くと楽しい。
高谷謙一
1979年、青森県生まれ。2009年に開店した「にほん酒や」の主力は燗酒で、酒がさらに旨くなる気の利いた肴が揃う。日本酒愛好家だけではなく初心者にも人気。
にほん酒や
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-7-13レディーバードビル 1F
TEL:0422-20-1722
※この記事はPen 2023年10月号より再編集した記事です。