純米酒の燗酒フリークを唸らせる、口伝で受け継いできた500年の味【プロの自腹酒 vol.11】

  • 文:山内聖子
  • 写真:榊 水麗
  • イラスト:阿部伸二
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剣菱酒造/剣菱

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創業500年を超える剣菱酒造の最もスタンダードな一本。未だに酒づくりのレシピはデータ化せず、口伝のみの伝統製法で醸されたこの酒は、まろやかで深い旨味と後口のキレが秀逸。常温や燗酒でじっくり飲みたくなる。「度数が高いと感じる場合は、少しだけ水を入れてお燗にする、『割り水燗』もお薦め」と高谷さん。常温放置が可能で保存が楽な上に、値段も手頃。日常酒として最適だ。1800㎖¥2,370/剣菱酒造 TEL:078-451-2501

小さい酒蔵が醸す純米酒の燗酒フリークである「にほん酒や」の店主・高谷謙一さんが、老舗の大手酒造、剣菱に目覚めたのは約4年前。出合いの場所は、なんとパリだった。

「きっかけは、ヨーロッパでの日本酒の交流イベント“サロン・デュ・サケ”です。初めて剣菱の燗酒を飲んだのですが、しっかりと熟成していてコクがあり純粋に旨い酒だと感じました」

かつては、小さい酒蔵を応援したい気持ちもあり、大手蔵の日本酒を積極的に飲むことはなかった。しかし剣菱と出合い、大手蔵に対するイメージが一変。さらに、さまざまな縁がつながり、イベントの3カ月後には剣菱の酒蔵に行く機会にも恵まれた。

「衝撃でした。製造現場を見せてもらったのですが、蔵人さんの数が多く、代々受け継ぐ味を変えないための手間暇が尋常じゃないんです。小さい酒蔵と同じどころか、もっと手間をかけている印象を受けました」

それ以来、剣菱は晴れて「にほん酒や」の燗酒メニューに加わり、プライベートでも愛飲するようになったと教えてくれた。

「スーパーやコンビニなどでも買えるのが魅力で、ひとりでも友人たちともよく飲みますね。常温でもいいし、どんな料理にも合うので、一升瓶を携えてゆるゆる飲むのが最高なんです」

お気に入りのおともは、高谷さんの故郷である青森でも昔から親しまれてきた日本民謡。特に、近年の売るためにつくられた楽曲よりも、江戸時代から昭和初期まで労働者の作業歌として歌われてきた、牧歌的な民謡を好んでいる。

「飾り気のないミニマルな民謡と、昔ながらの味を貫く剣菱はどこか親和性があります」

剣菱と民謡のふたつが重なると「身体がほぐれて気持ちがよくなるだけでなく、新しい発想も浮かぶ」と高谷さんはうれしそうに語った。

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酒が身体に染みる、日本人の魂に響く音楽

全国に残る日本民謡を収集し、民謡の魅力を発信するふたりのDJユニット「俚謡山脈」のミックス音源が高谷さんのお気に入り。世界のダンスミュージックと並行して聴くと楽しい。

高谷謙一

1979年、青森県生まれ。2009年に開店した「にほん酒や」の主力は燗酒で、酒がさらに旨くなる気の利いた肴が揃う。日本酒愛好家だけではなく初心者にも人気。

にほん酒や

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-7-13レディーバードビル 1F 
TEL:0422-20-1722

※この記事はPen 2023年10月号より再編集した記事です。