飛行機を自動操縦するロボ「PIBOT」の開発が進んでいる。操縦マニュアルを読み込ませ、操縦席に設置すると、操縦桿や各種スイッチを物理的に操作して操縦する。
人間向けに自然言語で書かれたマニュアルを参照し、ChatGPTでも使われている大規模言語モデルを使ってマニュアルの内容を把握する。さらに、計器を読み、ロボットアームで物理的に操作して操縦をこなす。飛行機側を改修することなく、どんな機材にも対応できるのが強みだ。
ロボットは身長160cm・体重65kgと、ほぼ人間ほどのサイズだ。開発に当たっているのは、韓国科学技術院(KAIST)の研究チームだ。科学技術メディアのニュー・アトラスは、「世界初のヒューマノイド(人型)ロボット・パイロット」として報じている。
パイロット不足の解消なるか
航空業界での人材不足が叫ばれるいま、実用化されれば、パイロットの人手不足にも有効な一手となるかもしれない。KAISTで本プロジェクトのリーダーを務め、電気工学を専門としているデイヴィッド・シム准教授は、欧州ニュースメディアのユーロ・ニュースに対し、操作方法が異なる別の機材にも柔軟に対応ができると説明している。
「人間は多くの(種類の)飛行機を操縦することができますが、(特定の機種で覚えた)習慣が染みついています」「クセが頭に残っているため、容易には乗り換えることができないのです」
PIBOTはまた、膨大な情報量の航空地図(フライトチャート)を丸ごと暗記可能だ。合成音声を使った発話も可能となっており、管制塔や他の航空機のパイロットともコミュニケーションをとることができる。
2026年までの実用化目指す
チームは2016年にロボット型のパイロットの初期版を制作したものの、当時はAI技術が現在ほど進展していなかった。大規模言語モデルの進展に伴い、大幅な進化が可能となったとチームは説明している。具体的にはChatGPTを独自にカスタマイズして利用しているという。
現時点ではシミュレーターを用い、タキシング(地上走行)、離陸、巡航、着陸の試験が行われている。研究チームは今後、実際の機体でのテスト飛行を経て、2026年までに開発を完了したい計画だ。
シム氏はニュー・アトラスに対し、「ヒューマノイド・ロボットは既存の航空機を改造する必要がなく、自動飛行にすぐに応用できます」と利点を語っている。
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安全性はむしろ人間よりも優れる?
気になるのは安全性だが、人間のパイロットよりもむしろ正確な操縦が可能なのだという。ユーロ・ニュースは「航空機の操縦マニュアルや緊急マニュアル(QRH:飛行中に問題が発生した場合に乗務員が参照するコックピット内のマニュアル)を記憶し、即座に対応することができる」と報じている。
プロのパイロットは緊急対応の初期手順を暗記しているが、その先の詳細は緊急事態に対処しながら必要に応じてQRHマニュアルを参照する。一方、ロボットのパイロットであれば記憶力はほぼ無尽蔵であり、あらかじめ読み込んでおけば有事の際にマニュアルを読み始める必要はない。
シム氏はまた、「(人間の)パイロットが直面するような多くの問題を(PIBOTなら)避けて飛行機を飛ばすことができます」と語る。「人間の体力は限られていて、特定の時間しか操縦することができません。疲労を覚えます。しかしロボットのパイロットならば、電力が安定している限り飛ばし続けることが可能です」
さらにニュー・アトラスは、「PIBOTは人型ロボットであるため、激しい乱気流のなかでも飛行機のコックピットのスイッチ類を正確に操作できる」と利点を挙げる。
「安心して乗れるか」が課題に
ただし、仮に旅客機を操縦するとなれば、抵抗感を覚える乗客もあるだろう。米テクノロジー専門サイトのテック・スポットは、「問題は、ロボット・パイロットが操縦していても安心できるかどうかだ」と指摘する。
同記事のコメント欄では、賛否両論が巻き起こっている。ある読者は、「イーロンが嫉妬するだろう!」と述べ、地上での自動運転技術が計画通りに進んでいないTesla社と比較した。
一方で現役パイロットからは不安の声も聞かれる。「30年来の小型機パイロットとして、確実に墜落を招くと断言できる。システムの不具合や、どんなに優れた計器からの情報であっても誤解を招くことがあることを考えれば、たとえ『完璧』の保証はないとしても、人間による判断の方が優れている」
ロボットが飛行機を飛ばす時代が来るかどうかは、新技術の完成度次第となりそうだ。
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