ニッポン製の服は縫製が丁寧で、仕上げもかっちり。家電にも通じる生真面目なモノづくりである。ただし服は柔らかな布であり、工業的に整えることが必ずしも正解とは限らない。例えばイタリアの手縫いジャケットは一見ペラッと頼りなさそうだが、着ると立体的に美しく身体も動かしやすいものだ。優れた服とは素材と仕立てとがバランスよく調和したものを指すのだろう。
そのバランスの面で近頃気になるアイテムが、我が国の工場発信ブランド(ファクトリーブランド)のニット。正確無比に仕立てられ、確かな品格がある。ニットらしいリラックスした着心地で顔つきは端正な、まさしくバランスがいい服だ。ビシッと着込みたくなるニッポンのニットが、オーバーサイズのゆるい服装の時代に新鮮な感覚を呼び起こす。
ここではセレクトショップでも大評判のコーヘン、バトナー、さらにTシャツのKUME.JPをクローズアップ。前者2ブランドは山形に自社工場を持ち、後者は東京発信で千葉に縫製工場を持つ。すべて直営の実店舗があり、ネット購入も可能。長く付き合う自分定番になるパーソナルなブランドだ。
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装飾で彩るCOOHEM
特殊な糸や布を織り込み、刺繍のように立体的に仕上げた造形。コーヘンにはモードブランドに近いファッション性がある。配色もモダンに洗練された都会的なもの。ベーシックなニットを一通り着てきた大人が、次なるお洒落にステップアップできる逸品が揃っている。
お薦めのモデルは、ここに掲載する3型とも共通する太い糸のローゲージ。密度が濃く編まれ肉厚で、だらしなさを避けたい大人にちょうどいい風合いだ。ローゲージはコーヘンを手掛ける米富繊維の得意技でもある。山形の自社工場にてローゲージ用の全自動横編機を駆使して編まれている。高度な技術と旬の感性とを結びつけるセンスが、コーヘンがエッジーな人たちに愛される大きな理由に違いない。
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ラインアップ豊富なBATONER
最上級の“かっちりニット”を望むなら、バトナーが最良の選択肢のひとつになるだろう。ブレなく整えられたフォルム、天然素材と思えないほどのシャープな糸。派手さを抑えつつも明確に凝ったディテール。さらにパターンは骨格の細いアジア人体型がベースだ。ひとたび気に入ればリピートしたくなる魅惑のブランドである。
創業70年以上の奥山メリヤスが、自社工場発信のバトナーを立ち上げて10年。2021年には東京・青山に旗艦店を設けた。店に行くときはここにピックアップしたミドルゲージ、ローゲージはもちろん、ハイゲージやTシャツもチェックしよう。どの製品も服好きをうならせる追求心に満ち、凡庸な服は一着もない。セレクトショップ人気が高く別注品も多いバトナーだが、まずはラインアップ豊富な通常ラインに袖を通して実力を味わってはいかがだろうか。
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東京発信TシャツのKUME.JP
Tシャツやスエットシャツの生地は、編まれたニット。その生地を布として裁断(カット)し、縫い合わせる(ソーイング)制作工程から総称して「カットソー(カット&ソー)」と呼ばれる。そのカットソーを創業以来80年以上つくり続けてきた縫製工場の久米繊維工業が拠点にするのは、東京・墨田区。オリジナルブランドのKUME.JPは価格がリーズナブルで、気軽に入手して毎日着られる。生地、縫製、シルエット、着心地はすべてニッポンクオリティ。カットソーに特化したモノづくりゆえのこだわりに満ちている。
1970〜80年代開発当時のままのレトロモデルがつくられ続けているのもKUME.JPの楽しさのひとつ。オーバーサイズが流行する昨今に、探しにくくなったタイトフィットのTシャツもここでなら見つかる。“ファッション”を飛び越えた、着る人の個性をサポートするラインアップが冴え渡る。
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今回のファッション連載「着る/知る」がお届けした、ニッポンのモノづくり精神が生み出すニットはいかがだっただろうか。コロナ禍以降にモノを大切にする機運が高まり、パーソナルに愛する“自分ブランド”を望む人が増えたとされる。そのなかでつくり手の顔(または心)が見えるファッションアイテムがより一層輝きを放っている。材料費高騰といった影響もあり多くのニッポン製が輸入ブランドと差がないほど値上がりしているなかで、なにを基準に服を選ぶかは考え方しだい。本場ヨーロッパの優雅なニットももちろん素晴らしいが、我が国のフィルターを通した個性的なニットもどうぞお忘れなく!
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【画像】1着はほしい!ニッポンのニット工場ブランド<コーヘン、バトナー、KUME.JP>【着る/知る Vol.161】
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