ウクライナの伝統を、新たなデザインに託す

  • 文:河内秀子
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ウクライナの手仕事で製作される「グーニャプロジェクト」。ロシアとの戦争が長引きウクライナの文化に注目が集まるいま、ブランドを立ち上げた理由を創設者のふたりが語る。

Pen最新号は『デザインと手仕事』。テクノロジーの進化が目覚ましい現代において、いま改めて人々は、手仕事に魅了されている。しかもそれを、使い手である私たちだけではなく、つくり手であるデザイナーや建築家たちこそが感じている。手仕事に惹かれるのは、手の温もりを感じられるから──そんなひと言にとどまらない答えが、ここにある。

『デザインと手仕事』
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ウクライナの文化や歴史を伝える手仕事の魅力を、デザインの力で世界中に伝えたい―そんな想いから、2019年に立ち上げられた「グーニャプロジェクト」。仕掛け人はキーウ在住のふたり、マリア・ガヴリリュクとナターシャ・カメンスカだ。

建築家の両親のもとで世界各国の手仕事に囲まれて育ったというマリア。民族博物館とアンティークが好きだというナターシャ。ふたりは10年前、キーウのファッションブランド「レイク・スタジオ」のクリエイティブ・ディレクターとアシスタントとして出会った。競争が激しい業界に疲れたふたりは17年にブランドを離れ、カルパティア山脈へと熟練の職人を探す旅に出る。

「最初はウクライナの手仕事だけにフォーカスを当てるつもりはなかったのですが、この旅を通じて自分の国には素晴らしい文化があると知りました。そしてソ連がつくり上げたステレオタイプの考え方が、私たちのウクライナ文化に対する認識にどんなに影響を与えているのかも思い知ったのです」

 

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最新コレクション「マーメイド」より。切り紙細工のような刺繍からヴィチナンカ(伝統的な民芸である切り絵細工)と名付けられたエプロン。刺繍の人魚のひとりは指を3本あげる抵抗と団結の印を見せている。610ドル(特注)

 

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伝統的なビーズ織りの首飾り「ヘルダン」もモダンに。95ドル/ともにグーニャプロジェクト https://guniaproject.com

 

このことが、ウクライナの伝統的な文化や手仕事を研究し、世界に知らしめたいという思いに火をつけた。彼女たちが初めてつくったのは、カルパティア山脈の羊飼いが着るウールコート「グーニャ」。そして19年、グーニャプロジェクトがスタートした。

 

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デザイン・ユニット
グーニャプロジェクト

2019年、マリア・ガヴリリュク(右)とナターシャ・カメンスカ(左)が立ち上げた。コートやスカーフ、ベルトといったファッションアイテムをはじめ、陶器やガラス、ジュエリーまで、ウクライナの伝統的な手工芸を活かしたさまざまなアイテムを展開し続ける。ウクライナ大統領夫人オレナ・ゼレンスカが公式の場で着用していることでも話題に。photo: Anton Kulakovsky

 

 

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キエフ大公国の時代からウクライナに伝わる吹きガラスの手法「グッタグラス」のゴブレットはやわらかい透明感が特徴。3色展開、2個セット130ドル(特注)/グーニャプロジェクト

現在プロジェクトには20人以上のスタッフが関わっている。その仕事は民俗学的なアプローチから始まる。歴史や技法、文化的背景を綿密にリサーチし、学者からもアドバイスを受ける。そこからデザイナーがプロトタイプやスケッチをつくり、かたちにできる職人を探していくのだ。職人のアイデアで大きくかたちが変わることもある。陶器は自社工房もあり、生産から販売まで自分たちで行う。

最新のコレクション「マーメイド」は、神話の人魚を通じてウクライナの一部であるクリミアを連想させようと試みている。

「強い政治的なスローガンではなく、たとえばクリミア半島の浜辺によく見られるイチジクの実や、バフチサライ(クリミアの都市)の宮殿の装飾をイメージした模様。海岸の向こうに見えるベア・マウンテン……わかる人だけに見える小さなディテールをちりばめています」

 

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温かみがあって土着的で美しいもの─グーニャプロジェクトの中でも、重要な位置を占めるのが陶器だ。ウクライナでは独自のデザインの陶器をつくるのが難しいという背景から、自社工房を設立して生産を開始。職人が手で絵付けする。オーダーに応じて徐々に拡大、現在は20人以上が働く。

 

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一点ずつ描かれる、陶器の新作

「マーメイド」の陶器シリーズ。手で絵付けをしているため特注のみ。反対側にイチジクが描かれたフルーツボウル130ドル

 

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オーバル型プレート105ドル

 

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17世紀の絵画にインスピレーションを得た人魚の像と浜辺の少女が描かれているカラフェ115ドル

 

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大皿の幾何学模様は宮殿の装飾から発想。220ドル/すべてグーニャプロジェクト

また陶器だけでなく、最近はガラス職人とのコラボレーションにも取り組んでいる。その歴史は中世にまで遡る吹きガラスの技法、グッタ。技術を知る職人はもうほとんどいないが、そのうちのひとりと制作を続けている。

昨年始まった戦争で、多くの人が「ウクライナとはなにか」ということに興味をもち、グーニャプロジェクトの目標と使命はより強固になったと感じている。「手仕事は私たちの国の記憶の一部。ここから発想を得て、未来を創る」という彼女たちのスローガンが、いま心に響く。

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