ウクライナの手仕事で製作される「グーニャプロジェクト」。ロシアとの戦争が長引きウクライナの文化に注目が集まるいま、ブランドを立ち上げた理由を創設者のふたりが語る。
Pen最新号は『デザインと手仕事』。テクノロジーの進化が目覚ましい現代において、いま改めて人々は、手仕事に魅了されている。しかもそれを、使い手である私たちだけではなく、つくり手であるデザイナーや建築家たちこそが感じている。手仕事に惹かれるのは、手の温もりを感じられるから──そんなひと言にとどまらない答えが、ここにある。
『デザインと手仕事』
Pen 2023年10月号 ¥880(税込)
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ウクライナの文化や歴史を伝える手仕事の魅力を、デザインの力で世界中に伝えたい―そんな想いから、2019年に立ち上げられた「グーニャプロジェクト」。仕掛け人はキーウ在住のふたり、マリア・ガヴリリュクとナターシャ・カメンスカだ。
建築家の両親のもとで世界各国の手仕事に囲まれて育ったというマリア。民族博物館とアンティークが好きだというナターシャ。ふたりは10年前、キーウのファッションブランド「レイク・スタジオ」のクリエイティブ・ディレクターとアシスタントとして出会った。競争が激しい業界に疲れたふたりは17年にブランドを離れ、カルパティア山脈へと熟練の職人を探す旅に出る。
「最初はウクライナの手仕事だけにフォーカスを当てるつもりはなかったのですが、この旅を通じて自分の国には素晴らしい文化があると知りました。そしてソ連がつくり上げたステレオタイプの考え方が、私たちのウクライナ文化に対する認識にどんなに影響を与えているのかも思い知ったのです」
このことが、ウクライナの伝統的な文化や手仕事を研究し、世界に知らしめたいという思いに火をつけた。彼女たちが初めてつくったのは、カルパティア山脈の羊飼いが着るウールコート「グーニャ」。そして19年、グーニャプロジェクトがスタートした。
現在プロジェクトには20人以上のスタッフが関わっている。その仕事は民俗学的なアプローチから始まる。歴史や技法、文化的背景を綿密にリサーチし、学者からもアドバイスを受ける。そこからデザイナーがプロトタイプやスケッチをつくり、かたちにできる職人を探していくのだ。職人のアイデアで大きくかたちが変わることもある。陶器は自社工房もあり、生産から販売まで自分たちで行う。
最新のコレクション「マーメイド」は、神話の人魚を通じてウクライナの一部であるクリミアを連想させようと試みている。
「強い政治的なスローガンではなく、たとえばクリミア半島の浜辺によく見られるイチジクの実や、バフチサライ(クリミアの都市)の宮殿の装飾をイメージした模様。海岸の向こうに見えるベア・マウンテン……わかる人だけに見える小さなディテールをちりばめています」
また陶器だけでなく、最近はガラス職人とのコラボレーションにも取り組んでいる。その歴史は中世にまで遡る吹きガラスの技法、グッタ。技術を知る職人はもうほとんどいないが、そのうちのひとりと制作を続けている。
昨年始まった戦争で、多くの人が「ウクライナとはなにか」ということに興味をもち、グーニャプロジェクトの目標と使命はより強固になったと感じている。「手仕事は私たちの国の記憶の一部。ここから発想を得て、未来を創る」という彼女たちのスローガンが、いま心に響く。
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