2017年に創設され、その1年に活躍をしたクリエイターをたたえる「Pen クリエイター・アワード」。今年から新たに、若手クリエイターやクリエイターを志す人を対象とした作品公募制のワークショップ「NEXT by Pen クリエイター・アワード」が始動した。
8月18日に開催されたのが「ポッドキャスト部門」のオリエンテーション。メンターを務める音声プロデューサーの野村高文さんによる講座「魅力的なポッドキャストとはなにか」から、一部抜粋して紹介する。
ポッドキャスト制作に興味のある方、ポッドキャスターの方を対象に、音声プロデューサー・編集者の野村高文さんをメンターに迎えて行う、作品公募制のワークショップです。自身で制作をしたポッドキャストをご応募いただき、選考を通過した5名の方にワークショップにご参加いただきます。ポッドキャストに関する知見を高めたい方や制作のノウハウを極めたい方、ポッドキャスター仲間をつくりたいと思っている方はぜひご応募ください。【応募締切:2023年9月18日(月)】
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面白いポッドキャストをつくる方程式とは
「ラジオ番組では番組企画、キャスティング、台本作成、出演進行、収録編集、放送配信をそれぞれ分業制で行いますが、ポッドキャストは基本的に、これらを配信者がすべて一人で行わなければなりません。今回はこのうち、『番組テーマ・企画の見つけ方』と『収録・編集のコツ』について解説します。まずは『番組テーマ・企画の見つけ方』について。
『面白いポッドキャストとは?』と100人の制作者に尋れば100通りの答えが返ってくると思いますが、私なりの考えを方程式にまとめると『発見』『理解』『共感』+『空間設計』となります。
『発見』『理解』『共感』はコンテンツの中身です。知らない情報に触れて『こんな世界があるんだ』と驚く『発見』。複雑な事象を解説されて『そういうことだったのか』と腹落ちする『理解』。自分と似たような境遇の話に『うんうん、分かる分かる』と安心感を抱く『共感』。この3つが含まれていると、私は『いいポッドキャストだな』と感じます。
さらにポッドキャスト特有のポイントとなるのが『空間設計』。ホテルのラウンジやおしゃれなカフェにずっといたいと思うのと同じように、ずっとその人の声を聴いていたい、つまり『その人の声の空間に浸り続けたい』とリスナーに思わせることが大事です。そうした空間を生み出す要素として、音質(声質)のよさ、MCとサブMCとの会話のテンポ、仲のよさやボケ・ツッコミのような話者同士の関係性などが挙げられます。
さらにもうひとつ、私が企画をつくる上でポイントとしている方程式があります。
それが『人』×『テーマ』です。
誰が出ていて、その人はどんな経験をしているのか。なにについて話し、どんな価値をリスナーにもたらすのか。このふたつの掛け算を考えると、より企画が際立つし、ふたつのうち片方が弱くても、もう片方を強くすることでカバーできます。
たとえば、世間的に無名の人が出演する場合、誰もが知りたいと思えるテーマを提示することで、トータルとしての仕上がりはよくなります。逆に、大谷翔平選手などスーパーレアカード級の人が出演するとなると、テーマが多少粗くても、番組は成立します」
大切なのは「その人にしか語れないこと」
「ポッドキャストでは話し手のしゃべりが流暢でなくても大丈夫です。それよりもコアとなるのが『その人にしか語れないことがあるか』ということです。たとえば経営者であれば、余人をもって代えがたい経験。評論家や作家であれば、世の中を他人とは違う枠組みで見るユニークな着眼点。学識者であれば、『そんなことがあるのか』という発見につながるファクト密度の濃さ。芸人であれば、聞き手をリラックスさせる緊張と緩和の切り替えのうまさです。
逆に、『これからの時代はSDGsが大切です』のように、誰でも言えるような話はあまり面白くありません。その人が経験したり偏愛してきたもの、つまり他の人には話すことができない内容をどれだけ盛り込めるかが、番組の面白さにつながるのです」
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収録・編集で心がけるのは「音質」と「テンポ」のよさ
「続いて、収録・編集のコツについて。キーワードは『音質とテンポ』です。いずれも意外と無視されがちなことですが、とても重要です。話が面白ければなんでもいいと思うかもしれませんが、先ほどの方程式でも挙げた『空間の価値』を高めるのが音質です。マイクにこだわるだけで印象は大きく変わります。初めての方でも使いやすいおすすめのマイクは、オーディオメーカー・シュアの『MV7』と『SM58』です。
一方、ポッドキャストは継続が大事なので、なるべく楽をすることも必要。(初期投資を抑えて)小さく始めたい方には、iPhoneの純正イヤホンマイク(イヤーポッズ)がおすすめです。
そして、素材を編集する際に意識したいのがテンポです。会話が"いい感じ"に展開することを意識しましょう。普段の会話で『あー、そうですね』と考え込むことがありますよね。あえて残すという選択もありますが、カットしてテンポをよくすると聴きやすくなります。『えー、あのー』といったフィラーも極力取った方がよいですが、やりすぎるとキリがないので、ゼロにしなくても構いません。ただし、言い間違えは必ず取りましょう。また、どうでもいい会話や流れを損なう会話も思いきってカットした方がいいです。私も収録ではエンジンをかけるためのアイドリングトークをしますが、極力編集でカットしています」
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編集より重要なのは「構成」
「実は編集よりも重要なものがあります。それは『構成』です。つまり、なにをどのような順番で並べるかということです。まず、最初に『なんの番組か』『私は誰か』を明示しましょう。ポッドキャストは本のように読み返すことができないので、時系列など順を追って話すとよいでしょう。
台本を書く方もいますが、ガチガチに固めすぎると間違えないよう意識してしまい、話しづらくなります。箇条書きでトークテーマを設け、あとは『そこを最低限通過できれば脱線してもOK』ぐらいにしておいた方が、逆に面白くなると思います。話の重複はテキストだとカットの対象になりますが、音声の場合、重要な話であれば繰り返してもいいでしょう」
数々のポッドキャスト制作し、その中で築かれた野村さんの方程式には、非常に説得力がある。この記事で紹介をしきれなかったお話は、ぜひアーカイブ動画でご覧いただきたい。
<アーカイブ動画>
ポッドキャスト制作に興味のある方、ポッドキャスターの方を対象に、音声プロデューサー・編集者の野村高文さんをメンターに迎えて行う、作品公募制のワークショップです。自身で制作をしたポッドキャストをご応募いただき、選考を通過した5名の方にワークショップにご参加いただきます。ポッドキャストに関する知見を高めたい方や制作のノウハウを極めたい方、ポッドキャスター仲間をつくりたいと思っている方はぜひご応募ください。【応募締切:2023年9月18日(月)】