コロナの影響が緩和されつつある現在、2023年第1四半期の海外旅行者数は、前年同期の2倍の“2億3500万人”に達したことを今年5月、国連世界観光機関(UNIWTO)が発表した。特に欧州では、国際観光収入が2019年比の87%にあたる5500億ドルに上り、夏の観光シーズンピークに突入したヨーロッパ各地では、大きな賑わいをみせている。
そんな中、欧州を訪れた観光客による“度を過ぎた迷惑行為”(オーバーツーリズム)がたびたび話題に上がり始めた。このような事態に各国は怒りを募らせ、様々な対策に踏み出した。まずは、ここ数カ月で世間を騒がせた”あきれた行為”をいくつか見ていこう。
「なに考えてるの?」ローマの有名観光スポットに侵入
イタリア・ローマの観光名所「トレビの泉」に先月、観光客の女性が侵入。水筒で流れ落ちる水を汲む映像がSNSで拡散された。
動画には、青い服に帽子を被った女性が、トレビの泉内の岩場を伝って、水が流れ落ちる噴水の中心部に侵入。周りの人々が唖然と見つめている中、女性は手に持つ水筒に水を注ぎ入れ、立ち去ろうとする。その後、警備員が笛を吹き彼女を止め、連行する様子が捉えられていた。
トレビの泉は18世紀に建築された彫刻が施されている噴水。ローマの代表的な観光名所の一つだ。「後ろ向きにコインを泉へ投げ入れると願いが叶う」という言い伝えから、世界中から多くの人が訪れている。
ローマ空港のウェブサイトに記載されているガイドラインによると、噴水内に許可なく侵入した場合、最高500ユーロ(約8万円)の罰金を科されるという。CBS NEWSによるとこの女性がどのような処罰を受けたかについては、判明していない。SNSではこの動画に対して「何考えているの?」「あり得ない」「罰されるべきだ」などの批判的なコメントが集まった。
観光客による度重なる「迷惑行為」
イタリア・ローマでは、同映像が投稿される数カ月前に、別の悪質な事件が起こっていた。今年6月にSNSで拡散された動画には、世界遺産「コロッセオ」の壁に、イギリスから訪れた観光客カップルの男性が、パートナーの名前を落書きする様子が映し出されていた。この映像は世界中のニュースで取り上げられ「なんてことをしてくれたんだ」と大きく非難された。
また、8月13日には泥酔したアメリカ人観光客2人組が、フランスの世界遺産「エッフェル塔」の立ち入り禁止区域に侵入。警備員が翌日、眠り込んでいる所2人を発見し、開館を2時間遅らせたとCNNが報道している。 さらには、「水の都」として知られるイタリア北部・ベネチアで今年5月、イギリス人観光客が、 世界文化遺産の運河「カナル・グランデ」に高さ3階の建物の屋上から飛び込む事件が起きた。
イタリア観光大臣激怒 「自分が壊したものは、自分で弁償してもらう」
これらの悪質な問題行為に、イタリア観光大臣・ダニエラ・サンタンチェ氏は、CBSの取材で怒りをあらわにし「各国政府が、このような野蛮な行為を取り締まるべき時」との意向を示した。
「このような観光客は“破壊者”です。イタリアだけでなく、全世界の文化遺産に対する敬意が全くありません」
「『自分が壊したものは、自分で弁償してもらう』。私たちは非常にシンプルな法案を提出しました 」
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オランダ・アムステルダムの「迷惑観光客お断り」キャンペーン
ヨーロッパ北西部に位置するオランダの首都・アムステルダムでは、人口約82万人に対して、年間数百万人もの観光客が押し寄せている。特に、合法的な売春宿が集まる市中心部の歓楽街「飾り窓地区」は、英国人や若い男性に人気がある。この地区に住む住民たちは長年、ごみや飲酒、薬物使用による迷惑行為に悩まされているという。
この現状に政府は今年3月、18〜35歳の英国男性を対象に「迷惑観光客のお断り」キャンペーンを実施。英国人観光客がネットで「スタッグパーティー アムステルダム」「安ホテル アムステルダム」「飲み屋のはしご アムステルダム」などと検索すると、過剰な飲酒や薬物摂取、迷惑行為に科せられる処分などの警告動画が表示される。
「せっかく旅行に来たのだから、思う存分楽しみたい」という気持ちは皆同じ。しかし、安易な行動が引き起こした問題は「羽目を外してしまっただけ」では許されない。旅行先でも、秩序を守った滞在を心がけていきたい。
また、欧州だけではなく、今後もさらなる盛り上がりを見せていくだろう観光業界。「オーバーツーリズム」に対する、これからの各国政府の対応にも注目だ。
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