今年の「さいたま国際芸術祭」は目[mé]がディレクター。その見どころは?

  • 文:はろるど
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現代アートチーム 目 [mé] Photo : ABE TAKESHI

2016年よりさいたま市を舞台に開かれてきた「さいたま国際芸術祭」。3回目となる今年は、メイン会場である旧市民会館おおみやでの展示(会期:2023年10月7日〜12月10日)を中心に、市内の文化施設やまちなかにて関連プロジェクトが展開される。

この「さいたま国際芸術祭2023」のディレクターを担うのが、アーティストの荒神明香、ディレクターの南川憲二、そしてインストーラーの増井宏文を中心とする現代アートチームの目[mé] だ。過去、「さいたまトリエンナーレ2016」にもアーティストとして参加した目[mé]は、観客を含めた状況/導線を重視し、不確かな現実世界を実感に引き寄せようとする作品で知られ、現在は埼玉県内を拠点に活動を続けている。

 

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目[mé]『まさゆめ』2019-2021, Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13, 撮影:津島岳央

目[mé]と埼玉の縁のはじまりとは…

目[mé]にとって「さいたま」とはどのような場所なのか、そして「さいたま国際芸術祭2023」をどうディレクションしていくのか。埼玉県との縁は約15年前にさかのぼるという、目[mé]の荒神明香と南川憲二に聞いた。

「2008年に北本駅の開発と一緒にアートプロジェクトがはじまり、アドバイザーを務めていた森司(当時の水戸芸術館主任学芸員)さん、熊倉純子さん(東京藝術大学 国際芸術創造研究科教授)に声をかけてもらって参加しました。それまでは茨城県の取手市を拠点にしていたのですけど、2011年の東日本大震災によって家がめちゃくちゃになってしまったので、この際、縁の生まれた北本に移住しようと思ったのです」

いまとなっては埼玉に愛着が湧いていると語る南川。そして荒神は埼玉の街の中でインスピレーションが湧くことが多いという。

「作品のアイデアを考えるためにアトリエの近くを歩くのですが、すぐに田んぼが広がったりしています。本当に何気ない景色で、大自然でもなく都市というわけでもない。たまに東京へ行くと刺激的ですけど、色々と考えようとする時は、街中ではなく田んぼの中でポツンと立つ方が、何かできないかなという気持ちにさせられるんですよね。だから作品を考えるのにはすごくいい場所なのです」
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「導線」に力を入れた芸術祭を作りたい

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目[mé]《Elemental Detection》, 2016 年, 旧民俗文化センター, さいたまトリエンナーレ2016参加作品 撮影:衣笠名津美

全国各地で数多く開かれる芸術祭の中、目[mé]がディレクターを担うことで、「さいたま国際芸術祭2023」では何を作り上げて、独自性を追求していくのだろうか。そのキーワードとして南川は「導線」をあげた。

「自分たちはこれまでアートチームとして作品を作ってきたのですけど、いままでの作品がほぼ全て導線なのです。何か物体を置くというよりは、その物体に至るまでのルートを作ってきました。その経験を芸術祭にぶつけてみたい。きっといろんな意見が出るかもしれませんが、導線に力を入れた芸術祭を作りたいと思っています」

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photo: SHIRATORI Kenji

今回の芸術祭のテーマは「わたしたち」だ。ロゴを手がけたデザイナーの髙田唯は「ドット=わたし」の集まったロゴを作る際において、「わたしは自由に動くこともできるし、集まればわたしたちとなり、流れを生み出すこともできる。集まり離れ、また、集まる。意志を持って、わたしはわたしたちに参加する」とのコメントを寄せている。このテーマのもと、目[mé]は芸術祭にて何をみせようとするのだろうか。

「高田さんが言われたように、“わたし”の延長線上にこの世界があるということをいかに感じとることができるか。そんなことを考えながら構想しています。芸術祭という状況や、アート鑑賞の状況そのものを、少し客観的に観客にみてもらえるような、そんな芸術祭にできたらと考えています」

「例えば、芸術祭という大きい括りでその体験を考えた時に、作品に対峙している瞬間と、それ以外の瞬間も等しく芸術祭の体験の中に存在していますよね。作品を目の前にしている時と、次の作品に辿り着くまでの長い距離を歩いている時、あるいはその道中で見つけた昆虫を眺めている時。そんな導線の中にも等しく経験があります。ふとした時に気づきや発見があったり、作品のテーマや作者の問題提起が急に頭に入ってきたり。なるべく作品と作品の間の通路とか、あるいは会場全体にも、緩やかにでも鑑賞が広がっていってくれるような、そんな芸術祭の導線を作っていけたらと考えています」
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常に動き続けるメイン会場の「旧市民会館おおみや」

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イェンズ・パルダム ライブ風景(千葉市美術館/ 2019) Photo : FUJIKI Yusuke 

美術家、写真家、音楽家、映画作家、さらに盆栽師など、幅広いジャンルで活躍するアーティストが参加するのも「さいたま国際芸術祭2023」の魅力だ。そして目[mé]はディレクターとしてアーティストの選定にもあたっているが、特に意識した点を荒神に聞いた。

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平尾成志《五葉松 樹齢 70 年》 photo: MASAYUKI NISHIMOTO 写真提供:東洋工業株式会社

「まずコンセプトに呼応してくれるアーティストであることが重要でした。それに加え人間の根源的な部分を強く発信してくれる作品でないと、すぐに、どこか会場の中に溶けていってしまうんですね」

「だから人間とは何か、存在とは何か、また世界をもう一度見るということとは何かということを常に感じていて、それを主題にしたり、独自性を持って追求しているアーティストを、いろんな方にアドバイスもいただきながら探しました」

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メイン会場(旧市民会館おおみや)外観

「さいたま国際芸術祭2023」の主会場は、大宮駅、もしくはさいたま新都心駅のほぼ中間地点に位置する旧市民会館おおみやだ。1970年1月に完成した同館は、古くは成人式が行われるなど劇場として愛されてきたものの、老朽化のために2022年3月に役目を終えて閉館。大宮駅東口の複合施設内の愛称「RaiBoC Hall(レイボックホール)」へと移転した。

「旧市民会館おおみやは、長く市民の方々に親しまれてきた劇場です。かつてドリフターズの公演があったり、成人式の会場になったり。市民の方でなくとも、誰しもがどこか関わりを持ったことのあるような、懐かしさや愛着を覚える場所に思います。そこをもう一度、稼働させるというのがベースのプランです。連日、作品展示や音楽ライブ、パフォーミング・アーツの公演、映画上演などを行って、公演のない日も準備やリハーサルの風景も公開して、常に動き続けているような会場にしたいと思っています」---fadeinPager---

“ものをみる”ことの大切さを届けたい

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現代アートチーム 目[mé](左から荒神明香、南川憲二)インタビュー時に撮影 photo: Harold

作品に対峙している時とそうでない時も、等しく感性が躍動する可能性があるということを芸術祭の体験とする目[mé]。また観客の「みる」という行為の可能性を導線の中でも引き出そうとする。その「みる」ということに関して、南川が荒神にまつわるユニークなエピソードを語ってくれた。

「この前、公園を一緒に歩いて甘味処を目指していたんですけど、荒神は15分くらい木を見たまま動いてくれないんですよ。僕は早く甘いものを食べたいのに、荒神はそんなことをすっかり忘れてずっと枝を見ているので、思わず一体、ただの木の枝の何をそんなにもみているの?と聞きました」

「すると荒神はしばらく考えて、あれだけ木の枝が無数に空中に伸びていながら、全部正解を選んでいるのが奇跡だと言うのですね。もしこれを人間がやろうとしたら、重力で落ちるとか、光を受けられずに腐ったりするはずだと。一本も落ちずに、全ての枝がこうして宙に存在し続けているのは凄いことなんだと。こうしてこれまで一本一本の枝が選んできた経路を目で辿っていくと、自然の中に入っていける気がすると、こう話すんですね」

「それを聞いてなるほどと思って、僕はいつの間にか、枝というものを“ただの枝”としか見れなくなってしまっていたけれど、荒神は新鮮な目で枝をみているんだと気がつきました。そういう時に、“ものをみる”ことの大切さをどうすれば人に届けられるだろうかと考えたりします」---fadeinPager---

いつどこに出現するかわからない?注目の「スケーパー(SCAPER)」

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田口陽子 《スケーパー研究所》 

「さいたま国際芸術祭2023」において注目したいキーワードが「スケーパー(SCAPER)」だ。これは景色を表す「scape」に人・物・動作を示す接尾辞「-er」を加えた目[mé] による造語で、たとえばベレー帽にパイプをくわえて風景画を描く「絵に描いたような画家」や、計算されたように綺麗に並べられた落ち葉など、パフォーマンスか現実なのかが曖昧になるような仕掛けが多く展開される。

そして「スケーパー(SCAPER)」は、目[mé] 以外にも、振付家・ダンサーの近藤良平や都市・建築研究者の田口陽子といった複数のクリエイターによって計画され、メイン会場だけでなく、毎日さいたま市内の各所に現れる。またいつどこに出現するかは、クリエイター同士の間でさえも明らかにされない。

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スケーパーイメージ Photo : 目 [mé]

「スケーパーは、何気ない人の動作や日常の光景と、そこに居合わせた人とが繋がっていくような試みで、芸術祭の体験をまた別のかたちで観客自身の体験に引き寄せていこうとする企画です」

「メイン会場の中や周辺、さいたま市内各所にも連日多数のスケーパーが仕掛けられる予定です。ただしその実態は、それをみた人に委ねられるため、鑑賞者それぞれに固有の体験としてスケーパーに出合うことになります。メイン会場の毎日動き続けてゆくプログラムも同様ですが、いつ、どこで、誰とそれをみたのかという、鑑賞者の選択そのものが芸術祭の鑑賞に大きく関わることになると思っています」

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さいたま国際芸術祭2023ディレクター・現代アートチーム 目[mé]
(左から南川憲二、荒神明香、増井宏文)

現代アートから音楽、パフォーミング・アーツ、映画などの多様な芸術文化作品が発信され、市民プロジェクトなど市民との協働も展開される「さいたま国際芸術祭2023」。最後に来場者へのメッセージを荒神に聞いた。

「公園に行くような気軽な感覚で来ていただけたら嬉しいです。作品や公演も勿論ですが、日々変わっていく会場の様子をただ眺めるのもいいかもしれません。あんまり芸術鑑賞として気負わずに、自由に見ていただける作品もたくさんあります。 とにかく、ふらっと立ち寄っていただけたら嬉しいです」

『さいたま国際芸術祭2023』

開催期間:2023年10月7日(土)~12月10日(日) 
開催場所:旧市民会館おおみや(メイン会場)
さいたま市大宮区下町3-47-8
※メイン会場のほか、市内の文化施設やまちなかでも 関連プロジェクトを展開
https://artsaitama.jp