上質な家具づくりは、上質な環境から生まれる。海と山に囲まれた自然豊かな糸島で、職人としての美意識や技術力が日々磨かれている。
日本発の家具ブランド、リッツウェル。1992年の創業以来、道具としての役割だけではない豊かさを追求し続け、数々の世界的なデザイン賞で評価を得てきた。企画開発から製造まで国内で行う「メイド・イン・ジャパン」の矜持は、確かな品質はもちろんのこと、職人の手でなければ実現できない繊細な仕上げに表れ出ている。とりわけ、リッツウェルの特徴でもある厚手の革や特別な生地を用いる椅子張りと縫製仕上げには、熟練の技と経験が求められる。
その職人技に特化した工場が、福岡県糸島市にある糸島シーサイドファクトリーだ。創業地の福岡にある本社から車で40分ほど離れた海岸沿い、周囲の自然に溶け込むように立ち、2フロアの作業場と倉庫を備えて2019年にオープンした。「上質な家具づくりに欠かせない職人としての美意識や技術力は、作り手自身が快適な環境に身を置くことでこそ磨かれる」という経営理念を原点に、海と山に囲まれたモダン建築の中で、日々、世界が求める品質の家具が生み出されている。
ファクトリーではおもに革と布の裁断から縫製、張り込み、そして「ハンドステッチ」と呼ぶ糸かがりの最終工程までを行う。そのすべてを人の手によって進めるのが、リッツウェルの家具づくりだ。
たとえば、必要な大きさに裁断した後の厚い革を、ファスナーを付けたり縫製したりするために重なる部分だけを数㎜だけ薄くする工程。6㎜の厚さに重ねた革の断面にカンナをかけてなめらかに整え、表面と同じ色に仕上げる工程。あるいは、ベルト状にした革を座面に沿わせて交互に編み上げる工程……。
こうした緻密な加工は、効率を最優先する大量生産の家具には適さないし、実際に現代の家具デザインでは採用しない場合が多い。しかし細部の美しさは、座り心地や手触りに大きく影響する。
「デザイン設計で方向性は決まっていますが、何度も試作を重ねながら細部の加工について決めています」と教えてくれたのは、リッツウェル製造部チーフの福本悟之さん。難しいハンドステッチの技術取得者で、ミラノサローネ会場でも実演した経験がある。
「新製品について検討するだけでなく、既存の製品の改良も重ねます。品質にかかわる加工は、最初に革の状態を見極めたり、どれだけていねいに下処理できるかだったり、縫い合わせる部分の革を適度に薄くできるか、という細かい部分も大切です。そのために、職人同士で話し合い、技術を共有することも多いですね」
福本さんよりベテランの職人も若手も、一緒になって理想の家具を目指す。一般見学もできるファクトリーは、彼らの熱意に触れられる現場でもある。
リッツウェル 糸島シーサイドファクトリー
●福岡県糸島市二丈吉井3515-1
TEL:092-584-2240(福岡本社)
営業時間:10時~18時(月~金) 休日:土、日、祝
無料 ※予約制
https://ritzwell.com/factory
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