誰もが夢見心地を味わえる、甘く深い美メロの数々

  • 文:山澤健治(エディター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『コロンボ』

01_Bruno Major - Tell Her - Photo credit Neil Krug.jpg
1988年、イギリス・ノーサンプトン出身。2011年よりロンドンを拠点に活動するSSW/ギタリスト。17年に『ア・ソング・フォー・エブリ・ムーン』でデビュー。「イージリー」がSpotifyで1000万回再生を記録し話題に。新作『コロンボ』を携えた8月の来日公演にも期待が集まる。 photo: Neil Krug

パンデミックの最中、世界中で人々は傷つき、多くの人生がリセットを余儀なくされた。これまでに15億回以上の総ストリーミング数を記録し、ビリー・アイリッシュやBTSからも賛辞を送られるシンガー・ソングライター/ギタリスト、ブルーノ・メジャーも例外ではなかった。パンデミック下にイギリス・ノーサンプトンにある実家に滞在していた彼の人生は、まったくの白紙状態に陥っていたという。

そこから一筆ずつ色を重ね、3年ぶりに発表した3作目『コロンボ』が、優しさと思いやりがかつてないほど必要とされる現代のサウンドトラックに推したいほどハートウォーミングな作品に仕上がったことは特筆に値する。パンデミックを契機に数多くリリースされた内省的な作品とは一線を画する、外に開かれた温かな聴き心地は格別であり、そこに彼のスケールの大きな才能が如実に発揮されている。

サウンド面でいえば、ソウルフルでロマンティックなポップサウンドが彼の持ち味だが、今回はさらに時代を超越するようなアメリカン・ソングブック的色彩のグッドメロディをもつスローナンバーが多数を占めているのが特長であろう。憂いを帯びたボーカルで紡ぎ上げる、聴くほどに甘く深い余韻を残す美メロの数々に誰もが夢見心地を体験できるに違いない。

ピアノ・バラードからクイーン流儀のクラシック・ロックへと展開する先行曲「We Were Never Really Friends」の他、アルバム冒頭を飾る「The Show Must Go On」ではニール・ヤング、メランコリックな表題曲ではレノン=マッカートニーやポール・サイモンなど、偉大な先輩たちの系譜を受け継ぐ古典的なソングライティングも、時代を経ても色褪せることのない本作の魅力の源泉となっている。

このSSWの傑作は胸に響く。

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ブルーノ・メジャー ビート・レコーズ BRC742 ¥2,640

※この記事はPen 2023年9月号より再編集した記事です。