静けさが訪れた明け方の繁華街に、一瞬の輝きを感じる

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    54 鈴木涼美|作家

    各界で活躍する方々に、それぞれのオンとオフ、よい時間の過ごし方などについて聞く連載「My Relax Time」。第54回は、大学在学中にAV女優としてデビューし、日本経済新聞社での勤務を経て、作家として独自の目線からエッセイや書評、小説などとを通して女性の生き方を書き続ける鈴木涼美さんです。

    写真:殿村誠士 構成:舩越由実

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    鈴木涼美(すずき・すずみ)●1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。日本経済新聞社で記者として勤務後、独立。2022年、中編小説デビュー作『ギフテッド』が第167回芥川龍之介賞候補、『グレイスレス』が第168回芥川龍之介賞候補に選出。著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)など。

    日本経済新聞社を退職してフリーランスになってからしばらくは、執筆依頼の断り方がわからず、ほぼ全部請けていました。そうすると毎日のように締め切りがあって、常に急いで書いている状態で、これでは会社を辞めた意味がないと思って引き受ける仕事のバランスを考えるようになりました。毎週締め切りのある雑誌のコラムと違って、長期間かけて小説を執筆するとなると、目に見えた成果がない日もけっこうあります。成果物がなくても焦らずインプットや考えを巡らせる時間をとるようにしています。それでもついついあわただしくなってしまうので、ライターや小説家の人に会うと、どういうペースで書いているのかよく聞きます。時間を決めて書いている人もいますが、わたしは仕事とプライベートの境界をはっきりさせてメリハリをつくるのはどうしても苦手。結局、締め切りがあることで尻を叩かれている感じですね。

    今年6月に発売した『浮き身』は、初稿は前作の『グレイスレス』(2023年1月発売)より先に書いたんです。一度提出したあと、直していく作業を中断して半年くらい放置してしまって。編集さんから生存確認の連絡が何回もきました(笑)

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    コロナ禍になる前は、意識的に書く場所を変えるために国内外問わず常に移動していました。パソコンさえあればどこでもできる仕事なので、ホテルや飛行機機内で書くことも多かったです。家にいるとついつい集中力がきれるので、喫茶店や図書館を利用することも多いです。パンデミックで図書館の利用が制限されているときなどは自宅で執筆することが増えていましたが、最近はまた外で書けるのが嬉しいです。

    記者時代は家にいる時間が極端に短くて、冷蔵庫や洗濯機がない家に住んだこともあります。キッチンの棚にバッグや洋服を収納したりとか、家を倉庫のように使っていました。今は自宅で仕事をするので少しまともになりました。一人暮らしを始めてから引っ越しを12回していることもあって、部屋がもので埋め尽くされることはなかったんですけど、本棚の整理整頓はいつも難題です。仕事柄、本を探すことが多いんですが、見つけ出すまでにすごく時間がかかってしまって、そのせいで仕事を中断することもしばしば。でも以前、ライター仲間や編集者さんたちと自宅の本棚の写真を見せあったときには、私はまだ整理されているほうでしたよ(笑)。物書きは本がぐちゃぐちゃになるのは宿命みたいなものですね。

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    私の作品は夜の街が舞台になることが多いから、できるだけ近い環境にいたいと思っています。私は喫煙者だからか、小説でもつい登場人物がたばこをくわえる場面を書きがちです。たとえば考えごとをしている場面などでは、私がそうだからですが、たばこに手が伸びないと逆に違和感があります。

    住む場所でこだわってきたのは図書館が近いこと、観楽街が近いこと、喫煙者に優しいことの3つ。整備が行き届いたところよりも、静けさが訪れた明け方の繁華街に、一瞬の輝きを感じるんです。

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    『浮き身』鈴木涼美 著 新潮社 ¥1,650
    問い合わせ先/JT
    www.jti.co.jp