バウハウスで活躍したジョセフ・アルバースの全貌に迫る、日本初の回顧展がDIC川村記念美術館にて開催中

  • 文・はろるど
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『ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室』展示室風景 © The Josef and Anni Albers Foundation Photo:harold

画家、デザイナー、そして美術教師として活躍したジョセフ・アルバース(1888〜1976年)。ドイツに生まれ、ヴァイマールの造形学校バウハウスで学び、のちにマイスターに任じられると、ナチスによる圧力で閉校するまで教師として基礎教育を担う。バウハウスの閉鎖後はアメリカへ渡り、ノースカロライナ州のブラックマウンテン・カレッジにて約15年間ほど教壇に立ちながら抽象絵画や版画に取り組み、1950年にはイェール大学のデザイン学科長に着任。色彩に関する探究を行いつつ、絵画シリーズ「正方形讃歌」などを描きながら、戦後アメリカの重要な芸術家たちを育てていった。アーティストが教師であったことは珍しくないが、アルバースは制作と授業が極めて密接に結びついていたのが特徴といえる。

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ジョセフ・アルバース『正方形讃歌:森の静寂』1967年 福岡市美術館 © The Josef and Anni Albers Foundation Photo:harold 20年以上にわたって続けられた「正方形讃歌」シリーズ。初期の1950年代前半には色相の大きく異なる色を用いていたが、続く1950年代後半からはさまざまな明度のグレーが取り入れられ、1960年代後半以降は黄色や赤などの1つの色相からなる作品が制作された。

現在、DIC川村記念美術館では、国内初の回顧展である『ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室』が開かれている。ここではジョセフ&アニ・アルバース財団の全面的な協力のもと、バウハウス時代のガラス作品から家具や食器といったデザイン、それに絵画シリーズ「正方形讃歌」など、国内初公開作品を含む絵画や関連資料など約100点を公開。加えて教育者としての活動にもスポットライトを当て、実験的な授業をとらえた写真や映像、さらに学生の作品も紹介している。また「アルバースの授業に挑戦!」と題し、アルバースの出した課題へ挑戦できるワークショップ・スペースも設けられている。見て、触れて、手を動かしながらアルバースの制作を楽しめる展覧会だ。

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ジョセフ・アルバース リーフ・スタディ I 1940年頃 ジョセフ&アニ・アルバース財団 © The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo, 2023 G3217 Photo:Tim Nighswander/Imaging4Art さまざまな色や種類の木の葉を集め、それを色紙と組み合わせて、色の効果を自由に実験した作品。アルバースはブラックマウンテン・カレッジにて自らも課題に取り組んだ。

 

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イェール大学で色彩の授業を行うアルバースと学生 1952年 撮影者不詳 ジョセフ&アニ・アルバース財団 Courtesy of the Josef and Anni Albers Foundation

芸術において重要なのは「何を」(what)ではなく「どのように」(how)だとするアルバース。その彼が教育に際して重視していたのは、試行錯誤しながら自らの手で学ぶことだった。まずバウハウス時代では素材の性質を学ぶために紙を用いた演習を実施。生徒に1枚の紙を与えると、折る、切る、貼るといった方法のうち、最初は最小限の手段のみを許し、次第に高度な加工法を導入していく。またブラックマウンテン・カレッジでは、「生きていく上でどう役立つのか?」を問うべく、自然物などのあらゆる素材を組み合わせながら、これまでと違った作品を生み出そうとする。そして色彩の取り組みに没頭したイェール大学以降も、さまざまな色彩効果を作り出すため、学生たちに色彩をより正確に観察させ、選び出す経験を積ませていった。

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ジョセフ・アルバース「フォーミュレーション:アーティキュレーション」第 I 集の1(『階段』)[前期のみ] 東京国立近代美術館 © The Josef and Anni Albers Foundation Photo:harold 1972年に全2巻からなる版画集「フォーミュレーション:アーティキュレーション」を出版したアルバース。各巻は33点からなり、左右にイメージの刷られた版画が、二つ折りで収められている。右のキャプションにはアルバース自身によるテキストが記されている。

絵画シリーズ「正方形讃歌」は、1950年にはじまり、亡くなる直前まで2000点以上も制作されている。いずれも正方形の決まったフォーマットから出来ていて、混色はほとんどせず、既製品のチューブ入り絵具をそのまま使っている。そして作品の裏面にしばしば使った色の情報を科学者が実験を記録するように書き込んでいて、アルバースが探究のプロセスをいかに重視していたのかを知ることができる。また自身のテキストを付した版画集「フォーミュレーション:アーティキュレーション」も、アルバースの思考実験を追体験するようで面白い。ただ漫然と見るのではなく、「なぜそのように見えるのか?」を突き詰めたアルバースの制作を前にすると、見ることから開ける表現の限りない可能性を感じてならない。

『ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室』

開催期間:2023年7月29日(土)~2023年11月5日(日)
開催場所:DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631
https://kawamura-museum.dic.co.jp