『デイヴィッド・ホックニー』展――どんな日も絵を描くこと、そして美と出合うことの純粋な悦楽

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)
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『ノルマンディーの12か月 2020-2021年』(部分) 2020~21年 作家蔵 © David Hockney

現代の最も革新的な画家のひとりであるイギリス生まれのアーティスト、デイヴィッド・ホックニー。1950年代より60年以上にわたり休むことなく、絵画や写真、舞台芸術といった分野で多彩な作品を発表してきた。

現在、日本では27年ぶりとなる大規模個展が開催されている。制作年代が新しくなればなるほど、よりビビッドに瑞々しく変化し、常に現在地こそが最も大胆で無邪気、というスタンスは他に類を見ない。

60年代にイギリスからロサンゼルスへ移住した頃の代表作では、まばゆいスイミングプールや寛いだ青年たちを描いた作品がよく知られ、ホックニーのシグニチャーワークのひとつとされる。その一方で、人物の衣服から室内の調度まで端正に描き込んだ一連の肖像画に見られる、上質なシルクのような光とテクスチャーの表現は、「美」と出合うことの喜びを実感させる。

80年代にポラロイドを駆使し、多角的に対象を捉えたフォトコラージュにも驚かされたが、近年ではiPhoneやiPadを使いこなし、浮世絵を思わせるフラットな空間表現を活かして、身のまわりの風景を描き続ける。なかでも、近年の集大成である、故郷ヨークシャー東部の自然を描いた大型絵画のシリーズは圧倒的だ。さらに、ロックダウン中に北フランス・ノルマンディーの古い農家を購入したホックニー翁。嬉々として居心地のよい自宅スタジオにこもり、陽光のある限り夢中で田園地帯の風景を描いているのだろう。全長90mにも及ぶパノラミックな新作は、絵を描くことの純粋な悦楽にあふれている。時代とともに、画材とスタイルを変幻自在に操りながらホックニーが描いてきた風景画は、自然という対象が画家の自慢のカラーパレットの壮大な実験場であることも、また再認識させてくれる。

『デイヴィッド・ホックニー展』

開催期間:~11/5
会場:東京都現代美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(9/18、10/9は開館)、9/19、10/10 
料金:一般¥2,300
www.mot-art-museum.jp/hockney

※この記事はPen 2023年9月号より再編集した記事です。