マクラーレン初の量産ハイブリッドとなる「アルトゥーラ」に乗った。結論からいうと、マクラーレンはハイブリッド化をきっかけとして「速さ」と「乗り心地」の追求に拍車をかけている。まさに新シーズン開幕であり、マクラーレンならではの深遠な境地を見せている訳だけど、アルトゥーラはあくまでエントリーモデル。「まだ序の口ですから」と爽やかな笑顔に白い歯が見えるアスリートイメージだった(笑)。
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少年漫画『魁!! 男塾』でいえば豪学連三面拳の雷電登場といえばいいのかな。初手の雷電でさえ強いのにこの後、もっと強いキャラ(伊達臣人)が出てくるんだ……みたいなマクラーレンの未来に戦慄が走るんですよ。雷電はまったく爽やかじゃないけどね(笑)。
嗚呼、アルトゥーラはとにかく速い。
まず脳幹にブルートゥース接続しているんじゃないかってぐらい、クルマとドライバーのシンクロ率が高い。走りのモードを「トラック」にして走ると、脳のイメージと視界の現実とのわずかなずれをハンドルとペダルで微修正しているのがはっきりわかるんだ。これまで以上にドライバーの身体の延長にクルマがある。
アルトゥーラは新調されたバスタブ型のカーボンフレームに新搭載のEデフ(電動制御ディファレンシャル)、そしてエンジンの弱点を電気モーターがカバーする。新章のマクラーレンでは、ドライバーの現実認識をクルマが先回りして反応するイメージ。こちらの意図を見透かすようなハンドリングマナーは、マクラーレンのようなミドシップ車の真骨頂なんだけど、ドライブモードもそれが前提で調整されている。
つまり排気音が大きくなるとか、足まわりが硬くなるとか従来のドライブモードと同じ働きをする以上に大きな目的がある。それはドライバーとの一体感の、その先を行くドライブモードなんですよ。峠も含めてほぼ公道は「スポーツ」で事足りる。クルマと対話するぐらいなら充分すぎる。でも速く走るなら断然、トラックモードなのね。
なぜなら「もっと速く」とドライバーの意図を先回りするハンドリングマナーが、ドライバーのもっている潜在的な速さを引き出そうとするからなんだ。それも高い速度域だけを狙うのではなく全域でドライバーの速さを引き出そうとする。このハンドリングマナーはモードを追うごとによってリニアな操作感をもたらす点が特徴的なんだけど、アルトゥーラはEデフの差動でコントラストをつけることにより、レーシングマシーンへと変貌させる。で、間違いなく「トラック」のイメージはフォーミュラマシンなんだな。
ドライバーを車体の真ん中に置き、自在なレスポンスで操れるスーパースポーツ。ESCをオフにするとさらにアクセルのレスポンスが高まり、ハンドリングに軽快さが増し、さらなる速さとともにドリフトへ誘われる。検眼でより強いレンズをかけたときのように、走るべきコースの軌道が見えてくる。もうはっきりと見えるぞ(笑)。でもダメだ。そこが公道ならば、男塾の塾生以外は越えてはいけないラインと心得るべし(笑)。
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乗り心地の追求もすさまじくてユニットはプロアクティブ・ダンピング・コントロールと呼ばれる可変ダンパーにコイルスプリング、アンチロールバーと従来通りの顔ぶれにも関わらず、路面のインフォメーションは必要以上にステアリングに伝えず、臨場感は抑えられている。排気音も必要以上の爆音はないし、演出しないことを演出としているのね。
乗り心地は、たとえ「トラック」モードでも一切の路面入力の突き上げを許さず、フレームで吸収してしまう。吸収できてしまう理由はもちろん足回りの熟成もあるんだけど、ハイブリッドユニットにして1.5トンを切っている車両重量との絶妙なバランスにある。このしっとりとした乗り味の卓越した領域はマクラーレン最高峰にして、スーパースポーツ随一の個性でもある。この卓越した世界観は、執念をポーカーフェイスで隠した賜物なんですよ。
おお、亜琉闘羅(アルトゥーラ)。よくぞここまで己を磨き上げた!と男塾の塾長である江田島平八ばりに感激してしまったのだけど(笑)、冗談抜きでミドシップ専業メーカーの鬼気迫る求道ぶりを見せつけられる。そしてそんなアルトゥーラの素晴らしい進化をもっとも肌で感じられるのはマクラーレンオーナーに他ならないとも思った。マクラーレンは色々乗るより、しっかり一台と付き合う方が豊かなカーライフをもたらしてくれると思ってるんだけど、そういう生粋のオーナーこそ新シーズンの始まりを告げるアルトゥーラをどう見るのか、すごく興味深かったね。
マクラーレン・アルトゥーラ
サイズ(全長×全幅×全高):4539×1976×1193㎜
排気量:2993cc
エンジン:V型6気筒ツインターボ+アキシャル・フラックスeモーター
最高出力:680ps/7500rpm
最大トルク:720Nm/2250-7000rpm
駆動方式:MR(ミドシップ後輪駆動)
車両価格:¥30,700,000(税込) 〜
問い合わせ先/マクラーレン・オートモーティブ
https://cars.mclaren.com/jp-ja