1980年に生まれ、アニメーション、マンガ、ドローイング、油彩などのさまざまなジャンルでマルチな才能を発揮する近藤聡乃（こんどう・あきの）。多摩美術大学在学中の2000年にマンガ「小林加代子」にて第2回アックス新人賞で奨励賞を受賞すると、マンガ家としてデビューを果たす。そして2002年にはアニメーション「電車かもしれない」にて文化庁メディア芸術祭の奨励賞（アニメーション部門）を受賞して脚光を浴びると、文化庁新進芸術家海外研修制度の助成をきっかけに、2008年秋からニューヨークへと拠点を移した。当初は1年間の留学のつもりだったとするものの、以後、15年近くにわたって同地に住みながら制作を続けている。

東京・市谷田町のミヅマアートギャラリーでは、同ギャラリーでは10年ぶりとなる近藤の個展、『ニューヨークで考え中』が開かれている。近藤は2012年からニューヨークでの日々のあれこれを綴ったコミックエッセイ「ニューヨークで考え中」を連載中（亜紀書房のウェブマガジン「あき地」）。7月に単行本の第4巻が発売されたのに合わせて、4巻収録のマンガ原稿と関連するドローイングなどが公開されている。ドローイングには近藤自身が撮影した写真をもとに、エピソードから派生したシーンなどが描かれているが、あたかも彼女の視線を追体験しながらニューヨークの街を一緒に歩いているような気持ちにさせられる。

「久しぶりのMoMA！」のセリフにはじまる4巻で描かれているのはコロナ禍による日常だ。アパートでの水漏れ事故の顛末やワクチンの接種、さらに結婚5周年にして新婚旅行に出かけたこと、また3巻から2年半余りの生活の私的ハイライトであるという猫を飼い始めたことなどが綴られていく。一方で、改めて分断が露呈したアメリカ大統領選挙や、アメリカ同時多発テロから20年の節目を迎えたことといった社会的な出来事も触れている。またウクライナ料理店に出かけては久しく連絡を取らなくなったロシアの知人のことを思い出すエピソードも身につまされる。近藤は親しい人に近況を報告するような気持ちで「ニューヨークで考え中」を描いているとするが、見開き2ページの中に彼女の心の内が随所に垣間見えて、それが思わず「うんうん」と頷いてしまうほど共感を呼ぶ。

「私は今、移民として暮らしている。」と記し、かつての「ツーリスト」とは異なった自覚を持つ近藤。初期のエピソードには観光客のような気分でニューヨークのことを描いていたもののの、次第に日々の暮らしや時事的な話題が増えていったという。なお展示ではこのほかに、第二百五十一話にも登場する構想中の新作アニメーション『呼ばれたことのない名前』のイメージスケッチをまとめて公開。これまでの「モノクロ+カラー1、2色」で制作された作品群とは対照的に、淡い色彩がにじむファンタジックなスケッチが並ぶ光景を楽しむことができる。今年の『DOMANI・明日展』（国立新美術館）にて同展史上初めて2度の参加を果たし、今後のさらなる活躍が期待される近藤の最新の創作にどっぷりと浸かりたい。