山口県との県境に位置する広島県大竹市。対岸に宮島をはじめとする瀬戸内海の島々を望むエリアに、広島市に本社を構える建築金物の総合メーカー・丸井産業の創業60周年を機に構想された「下瀬美術館」が開館した。4.6ヘクタールの広大な敷地内に立つ10棟のヴィラやレストラン、庭園などが一体となったアート複合施設「シモセ」。その中核をなす美術館は、創業家の下瀬家がコレクションしてきた日本の工芸品からエミール・ガレやアンリ・マティスなどの西洋美術までが展示されている。
設計を手がけたのは、建築界のノーベル賞として知られるプリツカー賞を受賞した坂茂(ばんしげる)。海岸線に沿って「エントランス棟」展望テラスのある「企画展示棟」「管理棟」が並び、それらが長さ190mにおよぶミラーガラスの外壁でつながる。海辺の景色が映り込んだ通路を行き来するなかで、自然とアートを同時に体感できる。
なかでも目を引くのが、建物前の水盤に浮かぶ8つのガラスキューブでできた「可動展示室」。ガレの作品に描かれる草花の色から着想を得たカラフルな箱が、夜になると照明によって浮かび上がり、展示室そのものがアートのような佇まいを見せている。
敷地内に点在する建築を愛でながら自然とアートを体感できる同施設は、広島の新たな魅力を伝える名所となりそうだ。
下瀬美術館
住所:広島県大竹市晴海2-10-50
TEL:0827-94-4000
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始、展示替え期間
料金:一般¥1800
https://simose-museum.jp
【設計者】坂茂建築設計
1957年、東京都生まれ。85年、坂茂建築設計を設立。「ポンピドゥ・センター・メス」をはじめ世界各国の建築を手がける。被災地で紙の住宅をつくるなどの支援活動が評価され、2014年にプリツカー建築賞受賞。
※この記事はPen 2023年8月号より再編集した記事です。