フライトがより安く？圧迫感に耐えられるなら、2段式の座席も悪くないかも

  • 文：青葉やまと
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ドイツのハンブルクで6月8日まで3日間にわたり開催された航空業界の見本市「エアクラフト・インテリア・エクスポ2023」で、2段式の珍しい座席コンセプトが展示された。通常の3列シートはすべて床面に設置されるが、これを1行置きに高所に配置し、互い違いに高低差を設けたものだ。

シェーズ・ロング航空座席（Chaise Longue Airplane Seat）と名付けられたこのスタイルは、23歳の航空座席デザイナーであるアレハンドロ・ヌニェス・ビセンテ氏が設計した。天井高を確保できる機内の中央列に採用することで、床面積あたりより多くの乗客を収容することができる。

これにより航空機のチケット代を、現在よりも引き下げられる可能性があると氏は考えている。米オンラインメディアのスリリストによると氏は、「デザイナーとしての私の目標は、より高価なチケットを買えない旅行者のために、エコノミークラスをより良いものにすることなのです」と意気込みを語る。

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むしろ快適性を追求した設計

このシートはコンセプト段階だが、既に業界の注目を集めているという。設計者のビセンテ氏は、米CNNに対し、「多くの航空会社や業界の大企業から、従来よりも多くの乗客を飛行機に乗せられるよう要望を受けている」という。

ただしビセンテ氏はもともと、チケット代を引き下げることよりも、むしろ快適性を追求してこのデザインを着想したのだという。身長185cmのビセンテ氏は、機内の狭いシートピッチにより、脚を存分に伸ばせない機上の時間が苦痛だった。そこで、目の前の席を上方にずらすことで、脚を伸ばすスペースを確保できると考えた。

展示中のシェーズ・ロング航空座席では実際に、下段のシートに座った場合、脚の前には2列先のシート背面まで貫通した空間が用意されている。思いのままに脚を伸ばすことができるようだ。シェーズ・ロングはもともとフランス語で寝椅子を意味する言葉だ。まさに機上でありながら、プールサイドに設けられた寝椅子のように、優雅な時間を過ごせるというわけだ。

USAトゥデイ紙は、足元のスペースに余裕ができ、リクライニングの可動幅もより大きく確保できることから、夜行便での睡眠の質が向上しそうだとコメントしている。

狭い場所が苦手な人には厳しいかも？

課題もある。下段では前席が顔の目前まで迫り、かなり狭苦しい印象が拭えない。試しに座ってみたというCNNの記者は、個人的には狭い場所が苦手であるため、下段中央席ではかなり閉塞感を感じたとしている。一方、シート幅については通常のシートと同等であり、こちらには不便を感じなかったようだ。

また、上段の座席では、脚のすぐ先には下段の人の頭部とを隔てるパーティションが存在するため、レッグスペースにゆとりはない。代わりに前方の見通しがよく、2列先までの視界が広がるほか、下段と同様にリクライニングの幅が向上している。

見慣れないスタイルに対して否定的なコメントもよく受けるとうビセンテ氏だが、新しい発想に批判は付きものだと割り切っているという。コンセプトがより広く知られるようになれば人々は見慣れるはずだ、と氏は自信を示す。ビセンテ氏はCNNに対し、「要は2段式にすることで、空間を最適化し、通常はただ空気が占めている空間を活用できるのです」と語っている。

2年半ほどで実用化できる可能性

シェーズ・ロング航空座席は2021年に最初のコンセプトが発表され、航空業界の最高賞である「クリスタルキャビン賞」にノミネートされた。ビセンテ氏は当時大学院生だったが、これを機に修士課程を一時休学。夢のビジョンの製品化に向けて突き進んだ。現在は業界の大手などと定期的に議論を継続しているという。

CNNによると、エアクラフト・インテリア・エクスポへの出展も毎年行っているようだ。今年展示されたモックアップは昨年よりも質感が向上し、課題だった上段のレッグスペースも少し改善がみられたという。

ビセンテ氏はUSAトゥデイ紙に対し、現在航空会社が継続的に興味を示しており、2年から2年半ほどで量産化に至るのではないかとの見込みを語っている。天井高のない機内両脇の席は通常シートとし、中央列をこの方式とする想定だという。

通常席も残ることから、選択肢が広がりかつチケット代が安くなるのであれば、歓迎する声は出てきそうだ。通常席、上段、下段の選択肢があるとすれば、どの座席を選びたいだろうか？　目の前に迫る前席には圧迫感もあるが、いずれ眠ってしまう夜行便ならば、広々としたレッグスペースに足を伸ばして眠る下段もアリかもしれない。

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