人間と話していると思ったら…!? “AIドライブスルー”が米マクドナルドなどで拡大中

  • 文:青葉やまと
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※画像はイメージです istock

アメリカの大手ファストフード・チェーンで、AIの試験導入が広がっている。ドライブスルーを訪れた顧客をスピーカー越しのAI店員が出迎え、通常のドライブスルーと同じようにマイクを通じてオーダーを取る。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、アメリカの各種バーガーチェーンで「AIチャットボットの新入社員」の導入が始まっており、すでにマクドナルド、ウェンディーズ、ダンキンドーナツなどの店舗に導入されていると報じている。

ピーク時間帯の強力な助っ人

アメリカの28の州に展開するバーガーチェーン「チェッカーズ」のイリノイ州の店舗では、ピーク時間帯に従業員たちが忙しくパティを焼いたり商品を袋に詰めたりするなか、コンピューター上で動作するAI社員がドライブスルーの窓口を担当している。

店舗の責任者は、同州のABC系列局「WQAD-TV」の取材に応じ、「今日のように(忙しくて)人手が足りないときは、彼女がオーダー受けて、私たちがフードを用意することができるんです」と語る。店ではAIを機械ではなく一緒に働く仲間に見立て、「彼女(she)」と呼んでいるという。

チェッカーズでは、昨年9月から300店舗での大規模な導入に踏み切った。顧客が窓口に現れると、まずは「(バーガーの)ダブル・マッシュルーム・スイスを2個6ドルでいかがですか?」といったように、限定オファーを提示する。あとは顧客の注文内容に応じて、ベーコンを追加したいか、セットにしたいかなど、細かいカスタマイズを受ける流れだ。

顧客にとっても時短のメリット

大量の注文を短時間でさばくファストフード店にとって、AI店員は救世主になると期待されている。米CNNは、ウェンディーズなどでも導入が進んでいると報じ、店側によると「働き過ぎの従業員の負荷を軽減する」「押し寄せる客で混雑するドライブスルーを改善する」などの効果があるとしている。

導入を進めているバーガーチェーンのひとつ「ホワイトキャッスル」の幹部は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「店舗の効率を高め、不足しがちな従業員を他の仕事に振り分けることができる」と利点を語る。AI社員に大いに助けられており、同チェーンでは親しみを込めて「ジュリア」と呼んでいるという。

店員が調理に集中できるため、顧客にとっても提供までの待ち時間が短縮されるメリットがある。ある米アナリストはCNNに対し、「ドライブスルーの平均サービス時間を少なくとも20~30%短縮できる」との予測を示している。

アメリカではパンデミックを契機に、ドライブスルーの利用がいっそう拡大した。ウェンディーズは米ミシガン州のCBS系列局「WWMT」に対し、顧客の約80%がドライブスルーを利用していると述べている。利用が集中しているドライブスルーにAIを導入することで、「より迅速かつ快適な体験を顧客に提供」できるようになると同社は説明している。

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改良の余地は残る

もっとも、現状ではまだAIチャットボットの性能は完璧には遠く、不便さを訴える顧客も少なくない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ホワイトキャッスルのインディアナ州の店舗のデータを取り上げている。それによると、AIが対応した10件の注文のうち3件では、最終的に人間の店員と交代する必要があったという。

ある男性客はオニオンリングを食べたかったが、注文口で何度もオーダーを繰り返す必要があったことから違和感を抱いた。別の女性客はバーガーの「ハラペーニョ・スライダー」を注文したが、注文が正しく通っていなかったことにストレスを感じたという。

ドライブスルーが設置される環境は、AIが苦手とする要因が揃っている。米調査会社・フォレスターでAIの活用法を研究するアナリストは、米CNNに対し、「騒がしい場所では特にうまく機能しない」と指摘する。

車内で子どもたちがはしゃいでいたり、そもそも車の往来が多い場所に設置されがちだったりと、ドライブスルーのマイクが拾う音声は雑音だらけだ。注文主の発話内容をうまく聞き取れず、オーダーを繰り返すよう求められたり、希望と違うものが提供される原因となっている。

人間かと思ったら機械と話していた

ほか、てっきり人間の従業員と話していると思ったらどこか違和感を感じた、などの意見も寄せられており、混乱する顧客も一定数いるようだ。苦情を受けてチェッカーズでは現在、AIが対応する可能性がある旨を事前に明示している。

「AI新入社員」の存在は、従業員側も複雑に受け止めているようだ。忙しい時間帯を強力にサポートしてくれる味方であることは確かだが、ただでさえ給与水準が高いとはいえないファストフード業界において、人間の雇用を奪うのではないかとの懸念も持ち上がっている。

現在は賛否の分かれるAIドライブスルーだが、今後完成度が高まれば、AIに向かって注文するのが当たり前という時代も来るのかもしれない。

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