【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】 第177回“後部座席に極太のソウルを乗せよう。サルーンの美学を煮つめた最高峰のSUV”

  • 写真&文:青木雄介
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アルティメイト・ラグジュアリーを標ぼうする「メルセデス・マイバッハGLS 600」。

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クリスタルホワイトの室内にはブルメスターの3Dハイエンドオーディオシステムが装備されている。

アクセルを踏むと巨体を動かすぶ厚いトルクとともに、車内の空気が圧力となって全身を包む。最上位ブランド、メルセデス・マイバッハのSUVとしてその名にふさわしい、4リッターのV8エンジンをハイブリッドシステムで制御。その加速は静かだけど地鳴りのような震えをふくんでいて、めまいがするほど濃密でスムーズだ。

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コンフォートに設定された足回りは「やわらかい足」の究極と言いたいほど、ゆらりゆらりとヨットのように上屋を揺らす。焼いたカラメルがパリパリ割れる心地よい舌ざわりのようにステアリングからは4輪それぞれの路面状況が伝わってくる。濃厚な味わいに繊細な触感をくわえた乗り心地は、まるでキャラメルプディングですよ(笑)。

自動で温度が設定されたエアコンからは、パフュームアドマイザーの甘くスパイシーな香りがかすかに漂ってくる。白で設えられた室内は北米的な陽性のラグジュアリーで、主役の後部座席は包まれ感が強いものの、けっして多くの高級車のようにシート圧に頼るものではなく適度に硬い。「俺(足回り)を信じろ」という訳ですよ(笑)。とんでもない自信家で実際、いくら座っていても飽きがこない。むしろSUVで硬めのシートに余裕の足回りをしつけるマイバッハ、北米風に言えば「メイバック」の美学を感じる訳。

マイバッハGLS 600を運転してたちどころに分かるのはマイバッハとは、メルセデスのサルーンの美学を煮つめた、とびきり甘いコンポートのようなもの。静謐さの中に極太なソウルを感じさせる後部座席は、いみじくもラッパーのジェイZが「メイバックミュージック」でラップしたように、車内に備えつけられたシャンパンクーラーで冷やしたシャンパンを片手に「世界は俺のもの」と感じるための場所。

冷酷で非情なパワーゲームを勝ち上がり、成り上がった自分のストーリーを追想しよう。流れる車窓の夜景を見ながら、マイアミのビッグボスであるリック・ロス風に「シガープリーズ」と言うべき場所なんだ(笑)。

そんな「メイバックミュージック」が似合うのは、日本でいえば政治家の吉田茂かな。個人的にとにかく葉巻が好きじゃないと話にならないと思っていて、後部座席で味わうなら備えつけのシャンパンはヤメておいて、グレンドロナックの27年をそのまま飲み干そう。そしてボトリングされた1993年当時の自分を思い出そう。ハイランドの甘く濃厚なシェリー樽ウイスキーが、これまでたどってきたハードボイルドなストーリーに華をそえる。諸兄、後部座席の乗員はもちろん18禁にするべきですよ(笑)。

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左右独立式でレッグレストがついたリラクゼーションシート。ショーファーポジションも自動設定できる。 

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マイバッハの美学は「これが私だ」と言い切れる、とりわけ自分の美学やマナーを愛する人のためにある。その後部座席は、ようやくたどり着いた癒しの場所でありその自覚がないとただただ豪華なSUVにすぎない。

その美学を如実に表現しているのがドライブモードなのね。「コンフォート」はさながらヨットモード。波をかきわけてヨットが前後に揺れるムーブ感だったり、ロッキンチェアのようなゆらりゆらりと揺れる慣性モーメントが追求されている。

真打は「マイバッハモード」で後部座席の住人のためのドライブモード。楽しい揺れはほどほどにトルクの出方をマイルドにし、逆にハンドリングの解像度を上げる。後部座席のためのドライブモードだけどドライバーにとっても飽きのこないモードだ。

「カーブモード」もとてもよくて、旋回時のロール量を抑えるドライブモードなのね。街中を颯爽と駆け抜けるにはいちばん流暢でスタイリッシュなモードだった。いずれのモードも使うタイミングと目的がはっきりしていて、マイバッハを愛する人のための『メイバックミュージックvol.1、2、3』って感じだね(笑)。

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23インチの専用鍛造マルチスポークアルミホイール。専用のノイズ軽減タイヤをはいている。

その反面で明らかな不得意もあって、峠のような狭いワインディングはわかりやすく苦手。アメリカ車のフルサイズSUVと一緒で、ハンドルの遊びが大きいからトラックやバスを運転しているときのように速度を抑えつつ、車幅に注意しなければならない。オフロードモードはあるものの、そもそもキャンプやアウトドア向きのクルマではない、とはっきり主張している気もした。「それもそうだ」と思うのね。

神奈川県・大磯を愛した吉田茂じゃないけど、マイバッハはずっと海を見ていたいタイプのラグジュアリーですよ。大海原にヨットを浮かべ追憶にふける時間を至上とするなら、「高地(ハイランド)はスコッチだけにしておきましょう」って感じなのね(笑)。

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スカッフプレートのマイバッハ・プレート。

 

 

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電子制御によるエアサスペンションに加えて48V電動油圧ユニットを備え、4輪それぞれの足回りを制御するE-アクティブボディコントロールを装備。

 

メルセデス・マイバッハ GLS 600

サイズ(全長×全幅×全高):5210×2030×1840㎜
排気量:3982cc
エンジン:V型8気筒ツインターボ+ISG(ハイブリッド)
最高出力:557ps/6000~6500rpm
最大トルク:730Nm/2500~5000rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥29,150,000~(税込)
問い合わせ先/メルセデスコール
TEL:0120-190-610
www.mercedes-benz.co.jp

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