シューズデザイナーの勝川永一です。
「東京古靴日和」12回目のコラムです。
私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
また、靴を何度もリペアをして長く履くという習慣は、サスティナビリティという観点からも現代人にとってより大事な習慣となりつつあるのではないでしょうか。
そのような想いでシューオブライフでは「廃棄回避」をテーマに、シューズデザインと並行してリペアやリメイク事業を【The Shoe of Life / シューオブライフ】というリペア店で12年間運営しています。
さて、今回の「東京古靴日和」は、いつものリペアシリーズではありません。
今回は、極私的な古着スタイルの紹介をしたいと思います。
購入金額と購入経緯も明らかにいたします。
今回は、「遅れてきたイケおじ」をテーマにしたスタイリングをご紹介したいと思っています。
古着を愛用する理由としては、まず、一般的に新品より買い求めやすい価格であることが挙げられます。
新品をそろえるよりも、思い切って買える価格帯のものが多いので、自分自身のワードローブも充実します。
また、あらゆる年代、あらゆるスタイルから自分なりのスタイリングを楽しめる。これは私が古着を愛する一番の理由です。
私の古着歴はとても長いです。中学生になった頃から、原宿や渋谷の古着屋さんに通うのが最大の楽しみでした。
今でいうところの“裏原宿”は、その当時、3軒程度の古着屋さんがある程度の場所だった記憶があります。竹下通りの裏手の古着屋さんから裏原近辺の古着屋さんを見て回るのが楽しみでした。
当時、雑誌『Boon』などで、リーバイス501の年代別のディテールを紹介した特集があり、それを読んで勉強し、古着屋でレギュラーのラックからいわゆる「赤耳」や「66」をディグる事が楽しみでした。
年代によって、色落ちやステッチなどにも違いがあり、一つ一つ確かめていました。
またの機会で紹介したいのですが、そのころディグって見つけた「J.C. Penny」のボロボロの大戦型モデルは、30年経った今でも直しながらヘビロテで履いています。
余談ですが、それくらい古着には長く親しんできました。もちろん、今も古着を買うほうが新品を買うより多いのは変わりません。この年になると、スーツスタイルを古着で合わせることも楽しみの一つです。
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今回は自分的に流行している古着のスーツスタイルをご紹介します。
テーマは「遅れてきたイケおじ」です。
このテーマにした理由ですが、「ちょっと艶っぽいスーツスタイルのおじさん」=「イケおじ」の方程式は、一般的には少し遅い気がしているからです。
しかし、年頃になった私の中では「今」そのスタイルをあえてやってみたいのです。
それでは、アイテムをご紹介していきます。
まずスーツは、「CARUSO(カルーゾ)」のものです。
「CARUSO」は、1958年にイタリア・ナポリで設立されたメンズスーツのブランドです。ファクトリーの「マコ社」が母体となっています。
OEMの依頼が多く、ルイ・ヴィトンやイヴ・サンローラン、ポール・スチュアートなど、著名なラグジュアリーブランドのものは、「CARUSO」製だったりします。
伝統的なハンドメイドと最新のマシン技術を融合させた立体的なシステムと、必要な部分にはハンドメイドを加えるという合理的な生産方法を取っています。
近年リブランディングをし、イタリアンクラシックを基本とした、モダンなメンズスーツスタイルが特徴のブランドです。
こちらのスーツは、麻57%、ポリエステル23%、ウール19%、ポリウレタン1%という、素材感と機能性を兼ね備えた混合率です。
クラシックスタイルなのに、現代的な素材を使用するのも「CARUSO」らしいと言えます。
また、ちょっと明るめのブラウンというのがいいですね。ブラウンって若いころは着ない色でしたが、このスーツがきっかけで、ブラウンコーデにハマりつつあります。
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このスーツは、所々に当て布の補修があります。普通に着る分には、まったくわかりません。前の所有者も大事に着られていたことが伝わります。私も、大事に長く愛用したいと思います。
そして、気になる購入金額ですが、36000円(税抜)です。
購入したのは「楽天市場」です。
「CARUSO」のスーツは種類によりますが、新品だとおよそ20万円程度はしますので、非常にお買い得だと思いました。
販売時にも販売者が画像にも補修の部分をいくつか載せていたので、当然、腰が引ける方も多かったのではと推測します。
私も多少心配しましたが、実際に届いてみたら問題なく、“当たり”でした。とても満足な一着です。
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さて、お次はシューズです。
見てお分かりの通り、「J.M.WESTON #180 シグニチャーローファー」です。
しかも「WESTON VINTAGE(ウエストン・ヴィンテージ)」というJ.M.WESTON公式の中古靴です。公式なので、J.M.WESTONのお店でも修理を受け付けてくれるというもののようです。
このスーツスタイルにガチガチのドレスシューズよりも「J.M.WESTON #180 シグニチャーローファー」を合わせることで、きっちりしながらも抜け感が出て、遊びのあるスーツスタイルが完成すると思い、こちらをチョイスしました。
それでは、価格です。
こちらは35000円です。購入場所は「メルカリ」です。個人的に、ずっと中古で探していた一足だったので、やっと良い価格と状態で購入できました。
安さの秘密は、内側の滑り部分が摩耗しているからではないかと思っています。みなさんもご存じかと思いますが、革靴のこの内側の部分は擦れて穴が開いてきますよね。どうしていいかわからない方も多いかと思いますが、「すべり修理」という革で補修が可能です。
私の場合、自分で直しますのでこの程度の擦れで安いのであればお買い得です。デニムにも合わせられる「J.M.WESTON #180 シグニチャーローファー」。
現在、ヘビロテ中の一足です。
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そして、お次はHERMESのSILKスカーフ「カレ 90」です。
ここでは、90という大判をあえて使いました。
こちらも、メンズが使うのは容易なアイテムではないかもしれませんが、
この鮮やかなグリーンのカレを合わせられるのは、「遅れてきたイケおじ」の特権ではないでしょうか。
ブランウンとグリーンの組み合わせは華やかさがありますね。
さて、購入金額です。
10200円です。購入場所は「ヤフオク」です。1円スタートでしたので、熾烈な争いの結果、ゲットしました。
カレはほかに2枚持っています。モノトーン系とブルー系です。何枚か持っているととても重宝します。ビンテージのデニムに白T。そこにカレを合わせるなどの遊びは、これも「遅れてきたイケおじ」の特権です。
ぜひ、カレを一枚古着で購入してみてください。スタイリングの幅が広がります。
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インナーは、アメリカ軍サープラスのものです。トレーニングウェアでナイロン100%です。
ブラウンスーツのインナーが黒だと、モード感が出る気がして合わせました。ナイロンの光沢感もそれっぽいです。手入れも楽で、いろいろと合わせやすく季節も問わない優れモノです。
価格は5500円。購入は、先日閉店がアナウンスされた「サンタモニカ 表参道店」です。
サンタモニカは、それこそ中学生のころから通っていて、センスの良いセレクトのサープラスのラインナップが秀逸です。3、4年前にこちらで購入したスノーパーカーもセレクト、サイズ、状態が最高でした。スノーパーカーをセレクトするタイミングもとても良いんですよね。
非常に惜しまれる閉店です。
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そして、最後に小物類です。
バングルは市松。チャームのブレスレットは、イギリス留学時に購入したヴィンテージ。メガネだけは、新品でEYEVANです。
市松もずっと欲しかったのですが、やっと入手できました。
価格は、26000円です。「メルカリ」で購入しました。
チャームブレスレットは、20年程度前なので記憶も薄いのですがノーザンプトンのマーケットだったと思います。価格はたしか8ポンド(約1600円、当時1ポンド200円)くらいでした。。
腕には「遅れてきたイケおじ」の特権でジャラっとアクセサリーを合わせたいですね。ゴールドをまぜても良いかもしれません。
さて、ここまで最近購入した古着ワードローブとスタイリングをご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
日常的に古着を楽しむことには、いろいろな楽しみ方があります。
また大事に使用することで廃棄を回避し、環境保全の側面もあり、あらためて非常に現代的な趣味なのではないかと思います。
いつもご覧いただいているこちらの連載「東京古靴日和」ですが、この古着スタイリングについても定期的に記事をかけたらと思っていますので、次回もぜひお楽しみにしてください。
そして、写真を撮ってくれる方も募集中です。ぜひご連絡ください。
なかなか語らせて頂きましたが、書いていても非常に楽しかったです。
そんな今週末は、この「遅れてきたイケおじ」のスタイリングで、三宿あたりに繰り出そうかと思います。
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シューズデザイナー / レザーアーティスト
靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。
靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。