「Pen」が選んだ、2023年下半期「必見の展覧会」5選

  • 文:はろるど
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デイヴィッド・ホックニー『クラーク夫妻とパーシー』 1970〜71年 テート Ⓒ David Hockney

美術館に多くの人々が戻ってきた2023年。下半期においても約27年ぶりとなるデイヴィッド・ホックニーの大型個展や、国内では没後初のイヴ・サンローランの回顧展、またキュビスムを半世紀ぶりに本格的に取り上げる展覧会など話題に尽きない。特に見ておきたい展示をピックアップし、会期順に紹介する。

1.『デイヴィッド・ホックニー展』@東京都現代美術館【7/15〜11/5】

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デイヴィッド・ホックニー『スプリンクラー』 1967年 東京都現代美術館 Ⓒ David Hockney

イギリスに生まれ、ロサンゼルスへと移住後、アメリカ西海岸の陽光あふれる情景を描いた絵画で脚光を浴びたデイヴィッド・ホックニー(1937年〜)。60年以上にわたって絵画、ドローイング、版画、写真、舞台芸術といった分野で作品を発表し続けると、欧米を中心に個展が相次いで開かれ、2017年のポンピドゥー・センターでの個展では60万人以上の来場者数を記録するなど人気を集めている。東京都現代美術館にて開催される『デイヴィッド・ホックニー展』では、イギリス各地とロサンゼルスで制作された代表作に加え、近年の風景画の傑作『春の到来』シリーズや、コロナ禍にiPadで描かれた全長90メートルもの新作など約120点の作品を展示。2023年に86歳を迎えても制作に打ち込み、60年以上にわたって現代美術の第一線で活躍してきたホックニーの画業をたどることができる。東京都現代美術館にはホックニーの作品が150点所蔵され、開館間もない1996年には「デイヴィッド・ホックニー版画展」も行われたが、以来、約27年ぶりの国内の美術館における大規模な個展となる。 

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デイヴィッド・ホックニー『No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー2020年」より』 2020年 作家蔵 Ⓒ David Hockney
 

開催期間:2023年7月15日(土)〜11月5日(日)
開催場所:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
www.mot-art-museum.jp

2.『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』@青森県立美術館【7/29〜9/24】

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『飛神の柵』 1968年 棟方志功記念館

青森市に生まれた版画家、棟方志功(1903〜1975年)は、自らの木版画を「板画」と称して独自の世界を切り開くと、「倭画」(やまとが)と呼ばれる肉筆画や油彩画などを描きながら活動し、「世界のムナカタ」として国際的に高い評価を得た。その棟方の生誕120年を記念して開かれるのが、青森県立美術館での『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』だ。これは棟方が拠点とした青森、東京、富山の3つの地域に着目しつつ、どのように芸術家として大成したのかについてたどるもので、板画や倭画だけでなく、本の装丁や挿絵、包装紙といったデザイン、映画やテレビ出演などの仕事を紹介し、時代の「メディア」を駆け抜けた棟方の多岐にわたる創作を詳らかにする。また本展の開催にあわせ、同じ青森市内の棟方志功記念館では『棟方志功生誕120年記念特別展 友情と信頼の障屏画』(6月20日〜9月18日)が開かれる。手のひらサイズの絵葉書から公共の建築空間の大壁画までを手がけたマルチな芸術を、棟方がこよなく愛した郷里の青森の地にて見届けたい。 

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『華厳松』 1944年 躅飛山光徳寺

開催期間:2023年7月29日(土)〜9月24日(日)
開催場所:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185
TEL:017-783-3000
www.aomori-museum.jp
※東京国立近代美術館(2023年10月6日〜12月3日)へ巡回

3.『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』@アーティゾン美術館【9/9~11/19】

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山口晃『来迎圖』 2015年 作家蔵 ©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery 

過去から現代、次代へ向けての架け橋となるプロジェクトを目指し、2020年より年1回、アーティゾン美術館にて開かれてきた『ジャム・セッション』。過去に鴻池朋子や森村泰昌、また柴田敏雄や鈴木理策らが、石橋財団のコレクションからインスパイアされた新作などを展示し、西洋や日本の近代絵画と現代美術が響き合うユニークな展覧会として注目を集めてきた。その『ジャム・セッション』にことし登場するのが、絵画や立体、漫画、インスタレーションなどを幅広く手がけるアーティストの山口晃(1969年〜)だ。ここで山口は時空を超えた都市風景を鳥瞰的に描いた『東京圖』や『日本橋南詰盛況乃圖』の原画を公開。さらにセザンヌの『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』を理解するための自由研究や、雪舟の『四季山水図』に基づくインスタレーションなどを展示する。「近代」、「日本的コード」、「日本の本来性」とは何かを問い直し、歴史や美術といった制度の中にあっても、先立つ欲動を貫こうとする山口晃の批判精神にあふれた創作を東京で目にする絶好の機会となる。 

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山口晃『東京圖』(部分) 2018〜2023年 作家蔵 ©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

開催期間:2023年9月9日(土)~11月19日(日)
開催場所:アーティゾン美術館 6階展示室
東京都中央区京橋1-7-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
www.artizon.museum

4.『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』@国立新美術館【9/20~12/11】

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イヴニング・アンサンブル 1984年秋冬オートクチュールコレクション プロトタイプ アトリエ・ジャン=ピエール、アトリエ・フレデリック © Yves Saint Laurent © Nicolas Matheus

わずか21歳でディオールの後継者に抜擢されたイヴ・サンローラン(1936〜2008年)は、1962年に自らのブランドを発表すると、約半世紀にわたって世界のファッションシーンをリードし、ピーコート、パンツスーツ、トレンチコートといった男性向けとされていたアイテムを、女性向けに改良し定着させるなど女性のワードローブに大きな変革をもたらした。国立新美術館での『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』では、イヴ・サンローラン美術館パリの全面協力のもと、ルック110体のほか、アクセサリー、ドローイング、写真を含む約300点の作品にて、衝撃的なデビューから引退直前の2001年までの約40年のデザイナーとしての人生と創造の全貌を紹介していく。またイヴ・サンローランは、モンドリアン・ルックに代表されるような美術作品とファッションの融合を提案することで、伝統的なオートクチュールモードに新風を吹き込んだ。そのほか演劇、バレエといった舞台芸術や映画の衣装制作にも積極的に取り組んだが、そうした芸術から着想を得て確立したスタイルについても明らかにされる。

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カクテル・ドレス―ピート・モンドリアンへのオマージュ 1965年秋冬オートクチュールコレクション 顧客のための仕立服  アトリエ・ブランシュ © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

開催期間:2023年9月20日(水)~12月11日(月)
開催場所:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.nact.jp
https://ysl2023.jp

5.『パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ』@国立西洋美術館【10/3~2024/1/28】

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ロベール・ドローネー『パリ市』 1910〜1912年 ポンピドゥーセンター(1936年国家購入) Centre Pompidou, Paris, Musée national 'art moderne - Centre de création
industrielle • Centre Pompidou, MNAM-CCI/Georges Meguerditchian/Dist. RMN-GP

20世紀の初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックの主導によって生まれたキュビスム。従来の伝統的な遠近法や陰影法による空間表現にとらわれず、幾何学的に平面化されたかたちによって画面を構成しようと試みは、芸術家たちに衝撃を与え、絵画だけでなく彫刻や建築、デザインなどのさまざまな分野に大きな影響を与えた。そのキュビスムを日本において50年ぶりに本格的に取り上げる展覧会が、国立西洋美術館にて行われる。ここではパリのポンピドゥーセンターのコレクションより、主要作家約40人による絵画を中心に、彫刻、素描、版画、映像、資料など約140点の作品を公開。キュビスムの源泉からピカソとブラックによる造形実験、またフェルナン・レジェ、フアン・グリス、ロベール・ドローネーといった重要な画家や、第一次世界大戦後にキュビスムを批判的に乗り超えようとしたル・コルビュジエらのピュリスム(純粋主義)運動などを紹介していく。ブラックの重要作『大きな裸婦』や、ロベール・ドローネーの幅4メートルにもおよぶ『パリ市』といった、50点以上もの日本初公開の作品にも期待が高まる。

 

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フアン・グリス『朝食』 1915年10月 ポンピドゥーセンター(1947年購入)  Centre Pompidou, Paris, Musée national d'art moderne - Centre de création
industrielle • Centre Pompidou, MNAM-CCI/Philippe Migeat/Dist. RMN-GP

開催期間:2023年10月3日(水)~2024年1月28日(日)
開催場所:国立西洋美術館
東京都台東区上野公園7番7号
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
www.nmwa.go.jp/jp
https://cubisme.exhn.jp
※京都市京セラ美術館(2024年3月20日〜7月7日)へ巡回

※掲載した情報は2023年6月時点のものです。各展覧会の最新の開催情報については、事前に公式サイトにてお確かめください。