アメリカ、カルフォルニア州出身のアーティスト、ケニー・シャーフ(1958年生まれ)。1980年にニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツで絵画を学ぶと、グラフィティやコラージュを主要な表現スタイルとする「イースト・ヴィレッジ・アート・ムーブメント」の一員として、同姓代のバスキアやキース・ヘリングらともに一躍大きな脚光を浴びる。その後、アメリカだけでなく、チューリッヒや東京、またソウルなど世界各地で個展を開催し、独自のキャラクターを用いた表現といった、21世紀のポップアートのトレンドにつながる文脈を切り開いたパイオニアとして若い多くのアーティストに影響を与えている。
現在、NANZUKA UNDERGROUND(渋谷区神宮前)では、国内のプライマリーギャラリーでは約30年ぶりの新作個展『ケニー・シャーフ I’m Baaack』が開かれている。まず目を引くのが、鮮やかな色彩とうねるようなストロークとともに、ユニークで魑魅魍魎なキャラクターの描かれた絵画だ。巨大なアメーバやSFの宇宙人を連想させるキャラクターは、自在にすがたを変えつつ、画面から突き出そうなほど激しく飛び回っていて、絵画全体にスピード感や生命感を与えている。「原始家族フリントストーン」や「宇宙家族ジェットソン」のファンであるシャーフは、漫画アニメからキャラクターの着想を得ていて、それは自身や友人たちのメタファーであり、また怒りや喜び、眠気、空腹といった感情を表したと語っている。
こうしたキャラクターの背景に見え隠れしているのが、「温暖化」や「見えぬ道筋」、それに「原告」などと書かれた日本語の言葉だ。シャーフは今回の個展に際して、日本語の新聞を集め、いま問題となっているキーワードを画面に忍ばせていて、新型コロナウィルスや福島の原発事故を扱った記事などが引用されていることが分かる。中には「碁」や「超豪華!」といった、シャーフがかたちとして面白く感じたという文字も記されているが、ひしめき合うキャラクターたちとともに、社会的、あるいは政治的トピックを交えているのも、シャーフの絵画の面白さといえる。若い頃にドラッグやエイズなどで友人を失った経験を持つシャーフにとって、社会に根差すさまざまな問題も創作活動の源のひとつなのだ。
打ち捨てられた玩具や衣類、それに家電といったオブジェクトとブラックライトを用いた『Cosmic Cavern』も没入感満点のインスタレーションだ。これは1981年にキース・ヘリングと同居していたスタジオとPS1にて初めて発表されたもので、古いキーボードやマネキン、カセットデッキやぬいぐるみなどが散乱するように並ぶ空間をビビットなネオン色に変換し、ゴミと化していたオブジェクトをアートへと昇華させている。このほか、草月会館(港区赤坂)でも、イサムノグチの手がけた厳かな石庭において、アルミによるカラフルな立体彫刻のインスタレーションを展示している。また1985年にシャーフ自身がペイントと改造を施した「夢の車」も限定にて公開中だ。東京の2つの会場をはしごしながら、かつて自らを「ポップ・シュルレアリスト」と呼んだシャーフの旧作から最新の創作世界を味わいたい。
『ケニー・シャーフ I’m Baaack』
開催期間:2023年6月10日(土)〜7月9日(日)
開催場所:NANZUKA UNDERGROUND
東京都渋谷区神宮前3丁目30-10
TEL:03-5422-3877
開館時間:11時~19時
休館日:月曜、火曜
入場無料
https://nanzuka.com
開催場所:草月会館
東京都港区赤坂7-2-21
2023年6月10日(土) 〜6月30日(金)
開館時間:11時〜16時 ※金〜土は17時まで
休館日:日曜、月曜
入場無料
www.sogetsu.or.jp