1947年にニューヨークで生まれ、現在も同地で活動するアーティスト、ダラ・バーンバウム。ピッツバーグの大学で建築を学び、サンフランシスコ芸術大学にて美術の学士号を取得すると、1973年にイタリアへ渡ってフィレンツェの美術学校へ入学する。しかし授業内容に満足がいかず、自ら一歩進んで歴史のある美術館へ出かけたりルネサンスの街を散策するなどして過ごす中、ギャラリーにて現代アートと出会い、ニューヨークへ帰国後の1970年代半ばから後半にかけてのビデオアートの黎明期の分野に参入。以来、約50年に渡ってビデオ、メディア、およびインスタレーション作品を手がけてきた。
プラダ 青山店で開かれている『DARA BIRNBAUM ダラ・バーンバウム』では、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でキュレーターを務めたバーバラ・ロンドンを中心にしたキュレーションのもと、バーンバウムが1979年から2011年の間に完成させた4つの作品が展示されている。まず『Kiss the Girls: Make Them Cry』(1979年)とは、アメリカのテレビで人気のゲーム番組から選んだ映像を編集した作品で、バーンバウムは女優らの型にはまった身振りや表情を、テレビの文脈から取り除くことで強調。さらに番組の画像へ当時のディスコフロアにて良く流れていたヒット曲を合わせている。テレビのさまざまなソースの映像に手を加えた、バーンバウムならではの実験的なインスタレーションといえる。
4つの媒体を使用した大掛かりなビデオインスタレーション『Arabesque』(2011年)が一際目立っている。これはロマン派の作曲家夫婦のクララ・シューマンとロベルト・シューマンのキャリアに着目した作品で、夫婦の人生をロマンチックに描いた伝記映画『愛の調べ』(1947年)から切り取ったスチールを取り入れつつ、YouTubeに投稿されている女性奏者の映像を映し出している。そこにはロベルトが妻に捧げた『アラベスク ハ長調 Op.18』とクララが夫に捧げた『3つのロマンス第1曲 Op.11』が交互に演奏され、クララの日記の抜粋も引用しながら、女性芸術家がしばしば歴史から排除されてきたことや、人生などにおいて値すべき評価を受けられない状況を生み出す社会や家族の仕組みに焦点を当てている。
『Bruckner: Symphony No. 5 in B-Dur』(1995年)とは、オーストリアの作曲家のアントン・ブルックナーの著名な音楽に着想を得たサウンドインスタレーションだ。ここでは2人の往年の名指揮者、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーとオットー・クレンペラーの指揮による『交響曲第5番 変ロ長調』の演奏を重ね合わせ、異なる指揮者が同じ曲をどう解釈するかということについて洞察を示している。また普段、試着室として用いられているスペースでの展示も見どころだ。多くの作品から次代のアーティストの活躍する場を築いた、メディアアートのパイオニアであるバーンバウムの新旧の作品を、ヘルツォーク&ド・ムーロンの手がけたプラダ 青山店のユニークな建物にて楽しみたい。
※写真はいずれもExhibition view of “Dara Birnbaum” Prada Aoyama Tokyo 1 June – 28 August 2023 Photo:Daichi Ano and Tomoyuki Kusunose Courtesy Prada
『DARA BIRNBAUM ダラ・バーンバウム』
開催期間:2023年6月1日(木)〜8月28日(月)
開催場所:プラダ 青山店5階
東京都港区南青山5丁目2-6
TEL:0120-45-1913
開館時間:11時~20時
会期中無休
入場無料
https://www.prada.com/jp/ja/pradasphere/special-projects/2023/dara-birnbaum-prada-aoyama.html