5月31日から6月13日までの2週間、大阪の街を巡りながらアートやデザインに出会う周遊型エリアイベント『Osaka Art & Design 2023』が開催されている。毎年秋に東京で開催される『DESIGNART TOKYO』のクリエティブ・ディレクター青木昭夫がプロデューサーを務め、「Culturescapes 感性百景」というグランドコンセプトが打ち出された。青木は次のように語る。
「商業施設や公共空間に展開する作品やインスタレーションは、美しい景色のように見立てることができます。そうした景色を通して、日々の暮らしに躍動感や彩りを与えてくれる作品や、クリエイティブなパートナーと出会ってほしいという思いで、このグランドコンセプトを考えました」
大阪市内各エリアの商業施設やギャラリーなど、20カ所に展開する展示をレポートする。
---fadeinPager---
阪急うめだ本店では、複数のフロアでプログラムを展開
最大規模の展示が行われているのは、阪急うめだ本店。9階祝祭広場では、『Create from Nature 自然から生まれるデザインマーケット』と題する展示・販売を展開する。海、山、土、石、植物といった自然のエレメンツとクリエイターの感性が融合し、プロダクトやインスタレーションとして形になっている。
北海道・旭川のササキ工芸が展開するのは、人工大理石「コーリアン®︎」の端材を徹底活用してプロダクトを生み出す「スーパーノヴァ」と、日本各地の素材、技術の地域間連携を目指し、ものづくりの新たな可能性を模索する「ピリカモンライケ」の2ブランド。エコの視点から廃棄物をなくす取り組みと、地域を横断しながら伝統的な技術を連携させるサステイナブルな試みが、クリエイターによって具現化する。
その他のフロアでも、森永邦彦による「アンリアレイジ20周年ショップ〈AGE〉」や、「TIME & STYLE POP UP」などが展開。イベントのメイン会場として充実した内容だ。
---fadeinPager---
中之島から靱公園へ。各展示で体感するデザインの“モアレ”
梅田より南下し、中之島へ。国立国際美術館や中之島美術館など文化施設が集まるこのエリアでは、京阪電車なにわ橋駅の地下1階に位置する「アートエリアB1」というギャラリーで共催プログラムを実施。京都を拠点に「実空間におけるデジタルとの心地よい共存」を目指すデザイナーとエンジニア3名によるクリエイティブユニット「xorium[エクソリウム]」の展示『TERRA』だ。
中之島には、インテリアデザインに始まり、数々のアートプロジェクトの実施やプロダクトの制作など多様なクリエイティブ活動を20年以上にわたって続ける「graf(グラフ)」の拠点もある。graf studio2階の滞在スペースであり、展示やイベントでも使用されるgraf porchでは、ラフォーレ原宿の広告アートディレクションや、矢野顕子などのCDジャケットで知られ、JAGDA新人賞2023を受賞した矢後直規の新作を発表。展示タイトルは『矢後直規展 新鳥瞰図』。
「グラフィックデザインはシンプルで強くて、人を導く正しいものだとずっと思っていたんですが、コロナや戦争などの問題が起こると、グラフィックデザインだけでできることがすごく限られていると感じ、その強さに疑問を持ちました」と、今回展示した作品の意図を説明する矢後。他者に何かを与えられるわけではなく、羽根を広げて美しさを見せることしかできない孔雀の姿にグラフィックデザインを重ねた。「その羽根が美しいだけではなくて、弱い孔雀が美しくあろうとするその姿に人は感動するのではないか」という考えを視覚化するためのモチーフとして、孔雀が適していると考えたのだという。
中之島を南下し、東西に細長く広がる靱公園の周辺にもいくつかの展示が実施されている。1933年にアルヴァ・アアルトが手がけた「スツール60」(アルテック)の歴史を辿る展示や、CEMENT PRODUCE DESIGNが全国各地で出会った職人のイノベーションの結晶を展示した『MATE+REAL 〜素材と技術の回廊〜』、刺し子をモダンにアップデートしたJunAle『BORO no SASHIKO』など、デザインの背景やそこから派生したクリエイションといった、ある種のデザインの”モアレ”を連続して体感できるエリアとなっている。
---fadeinPager---
風景とリンクするファインアート表現。
『Osaka Art & Design 2023』のプログラムに組み込まれているのは、デザインやクラフトに位置付けられる、もしくはデザインやクラフトと接点を持つ表現に限らない。TEZUKAYAMA GALLERYで開催されている平野泰子の個展『山ではなく頂が平面であること』では、グレートーンのグラデーションを基調とするペインティング作品を展示。風景を起点としながらキャンバスに抽象絵画を展開する平野の表現は、「Culturescapes 感性百景」というグランドコンセプトとシンクロする。
エスパス ルイ・ヴィトン大阪で開催中の『アルベルト・ジャコメッティ展』もプログラムのひとつであり、少しエリアを離れると、天満のアートコートギャラリーでは具体美術協会に所属した今井祝雄の個展『今井祝雄の音』も開催されている。心臓音を素材に制作したサウンドインスタレーション、かつて実施したパフォーマンスの記録写真など、音が生み出す風景のあり方が提示されている。
アートとデザインの緩やかなグラデーションが大阪市内を覆い、創造性が発信されるこのイベント。市内各地のギャラリーや商業施設が手を組みアートとデザインの力を提示する第1歩として、2025年の万博開催に向け、大いなるポテンシャルを感じさせるプログラムが実現した。
Osaka Art & Design 2023
開催期間:〜2023年6月13日(火)
開催場所:大阪うめだ本店ほか市内各所
開館時間は会場により異なる。
入館無料
https://www.osaka-artanddesign.com