6リッターのV12エンジンをミドシップに搭載したMC12から18年、マセラティはスーパースポーツMC20を発売した。バスタブ型のカーボン製モノコックフレームに3リッターV6ツインターボをミドシップに搭載。マクラーレンをはじめとした現代のスーパースポーツ流行のレイアウトに、ネットゥーノ(海王星)という名の自社製エンジンをフィーチャーし、電動化さえ予定されている。
美しいカーヴィボディに大きくあしらわれたトライデント(三叉矛)マークが、海の守護神ポセイドンの神殿がたつエーゲ海を連想させる。エンジンの気筒数を増やし最新のハイブリッドを擁して、クラス最高値のポテンシャルを目指した訳じゃない。けれどもマセラティは今後20年間安泰じゃないか、と思えるほど、ほぼ完璧にブランドの真意をプレゼンテーションしているのね。
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その三叉矛ともいうべきメインウェポンは3リッターのV6ツインターボにある。シリンダーごとに副燃焼室を備えツインプラグ化された構造をもち、直接燃焼と間接燃焼を併用することで燃焼効率を高める。排気量の小さいエンジンでも高い燃焼効率を得ることができる、もともとはF1の技術らしいのね。この難渋な構造を量産化し、MC20に搭載した点で独創的なんだけど、この構造が鬼のようにターボチャージャーと相性がいい。
アクセルを踏み込めば、往年のどっかんターボよろしく効きはじめのトルクが尖った狂暴な加速をみせる。ウエイストゲートバルブのため息が聞こえる間もなくシフトアップし、高回転では自然吸気エンジンのように溶け合う。「全編もれなくターボの恩寵」って感じで(笑)、意外や意外、それまでパートナーとしてエンジンの供給を得てきたフェラーリエンジンとはまったく異なる性格をもったパワーユニットなんだ。
この魅力はESCが自動的にオフになるレーシングなドライブモード、コルサで本領発揮になる。激シャープなハンドリングにがつがつと当たりがハードな路面入力。ミッションが震え、カーボンフレームがしなるような錯覚を覚えるほど荒々しい。これぞポセイドンが守護する荒れ狂うエーゲ海であり、山をも切り裂く、裁きの鉄槌という感じ(笑)。
そんなコルサのドライブはとことんハードコアで野性的、だからこそリアルなモータースポーツの味わいも感じる。歴史は繰り返し、つながっているという時間軸を走りで示し、「内燃機関よ、永遠に」というセンチメンタルで愛情深いメッセージが明白。ただただエッジを目指すスーパースポーツ専業メーカーの新型車とは存在の意味が違っていて、やっぱりマセラティを物語るために存在している。つまりMC20はマセラティの旧車を愛するようなファンのためにも存在しているんだな。
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その情熱が並外れているのね。たとえば三叉矛であるエンジンは走行中、文字通り魔性を秘めた神器のように震えている。注意してエンジン音を聴いて欲しいんだけど、シリンダー内の爆発の後にわずかに聴こえる副燃焼室の爆発があって、ドラムロールでいうところの1打で2打鳴らすダブルストロークのようなバイブレーションを発生させている訳。
普通に乗ってれば、まず気づくことはないバイブス。それでもただのV6エンジンじゃないことは明白なのね。このバイブスは意識的に創り出したのかも知れないし、そもそも電動化が叫ばれる昨今、これだけ手の込んだエンジンを開発する辺り、つくづくマセラティの本気度が伺いしれた。
そしてドライブモードをノーマルのGTモードに戻すと、一転して凪の海へと変わる。うん。エーゲ海でいえば、ジュディ・オングの『魅せられて』ですよ(笑)。足回りはピーキーな当たりの強さが影をひそめ、路面入力をそつなくいなす。アクセルを踏み込んでももはやミッションが震えるような衝撃はなく、完全なクルーズモードなのね。
ドライブモードにおけるキャラクターの違いはやっぱりライバルたちの中でも、もっとも大きいと感じた。この辺もブランドのスポークスマン的な意味合いが現れていて、やっぱりこの一台で「今後20年を安泰にした」と感じられるんだよね。
マセラティ MC20
サイズ(全長×全幅×全高)::4699×2178×1224㎜
排気量:3000cc
エンジン:V型6気筒ツインターボ
最高出力:630ps/7500rpm
最大トルク:730Nm/3000~5500rpm
駆動方式:RWD(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥31,000,000(税込)
問い合わせ先/マセラティ コールセンター
TEL:0120-965-120
www.maserati.co.jp