1960年代にグラフィック・デザイナー、イラストレーターとして脚光を浴びたのち、1980年のいわゆる「画家宣言」以降、美術家として絵画を熱量をもって制作し続ける横尾忠則(1936年生まれ)。現在は約3年にわたって『寒山拾得』のシリーズを中心に描いていて、今秋には東京国立博物館にて展覧会が控えるなど、ますます旺盛に活動をしている。その横尾は今年の2月、日本芸術院で新設された「建築・デザイン」の分野の新会員としてに選ばれると、「これからが本番です。」と語って注目を浴びた。斬新なテーマと自由な表現による横尾ワールドの勢いはとどまることを知らない。
ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて開催中の『横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes』は、日本芸術院に選出された主な評価理由である「文学、演劇、音楽、映画、ファッションなど、さまざまな分野に活動の場を拡げた43年前のデザイン」(1960~80年代)に焦点を当てた展覧会だ。といっても対象は完成品のポスターや書籍ではない。会場にはラフスケッチやアイデアノート、デッサン、また表現エレメントとしてのドローイングに原画、さらに版画やポスターを仕上げるための版下や色指定紙など、作品完成以前の「デザイン表現のプロセス」が公開されている。それを横尾と親交のあった高倉健が主役の映画『網走番外地』になぞらえ、横尾の仕事の番外の地、「銀座番外地」と命名した。
こうした一連の作品や資料は、横尾忠則現代美術館のもとで約80箱に収納、整理されていた、横尾自らが「ぼくのブラックホール」と呼ぶものだ。それを今回の展示に際して、収納の状況を記録した約18000点の写真をチェックし、2500枚あまりの出力の山と対峙した上にて、250点の展示品を選んでいる。いずれも横尾のインスピレーションの源泉であふれ返り、創作の冒険や挑戦の痕跡が残された貴重な「ヨコオアーカイブ」ばかりともいえ、しばらく見ていくとカオスとも呼べる膨大な作品世界へ引き込まれてしまう。とても一度では見きれないと思ってしまうほどのボリュームだ。
過去にギンザ・グラフィック・ギャラリーでは、『横尾忠則ポスター展 吉祥招福繁昌描き下ろし!!』(1997年)、『横尾忠則 初のブックデザイン』(2012年)、『幻花幻想幻画譚1974-1975』(2018年)と個展を開いていて、横尾のグラフィックデザインの魅力をポスター、ブックデザイン、挿絵の3つのジャンルにて紹介してきた。そして4回目となる『銀座番外地』では、デザインへと至る過程という横尾作品の番外編をたどっている。「ぼくが本当に描きたいのは自分の身辺にある事物の中に潜む宇宙だ。」と自著で語った横尾。銀座に突如現れた横尾のブラックホールへ迷い込みながら、その表現の原点や原郷の一端をつかみ取りたい。
『横尾忠則 銀座番外地 Tadanori Yokoo My Black Holes』
開催期間:2023年5月15日(月)~2023年6月30日(金)
開催場所:ギンザ・グラフィック・ギャラリー
東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
TEL:03-3571-5206
開館時間:11時~19時
休館日:日、祝
入場無料
www.dnp.co.jp/gallery/ggg/