映画『戦場のメリークリスマス』で、デヴィッド・ボウイが身につけたミリタリー調のスカーフ

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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デヴィッド・ボウイが『戦場のメリークリスマス』で装ったのは、ジャングルグリーンのミリタリージャケットの首元にスカーフを巻いた粋なスタイル。これだけで、無骨なミリタリーウェアにシックさがプラスされる。ミリタリースタイルが人気のいま、ぜひともお試しを。スカーフ¥2,800、ユーテリティシャツ¥5,800/ともに中田商店

「大人の名品図鑑」デヴィッド・ボウイ編 #4

英国、いや世界を代表するロックスターのデヴィッド・ボウイ。1960年代から2010年代まで半世紀という長い期間に渡り、第一線でアーティストとして活躍した。その歌が、そのステージが、人々の心を揺さぶり、音楽というジャンルを超え、社会にまで影響を与えた唯一無二のスーパースターだ。今回はそんなデヴィッド・ボウイにまつわる名品を集めてみた。

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デヴィッド・ボウイはミュージシャンとしては活動するだけでなく、俳優として多数の映画に出演した。1980〜81年には舞台『エレファント・マン』でニューヨーク・ブロードウェイにも立っている。彼が出演した作品の中でいちばん有名なのが、監督と脚本を大島渚が務めた映画『戦場のメリークリスマス』(83年)ではないだろうか。

第36回カンヌ国際映画祭に出品され、惜しくもパルムドールを逃すも、世界的に絶賛された。坂本龍一が作曲したメインテーマは名曲として知られ、いまでも演奏され続けている。この曲を坂本は200時間以上もスタジオに籠って仕上げたと聞く。

この作品は、南アフリカ共和国生まれでイギリス国籍をもつ作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストが書いた『影の獄にて』がもとになっている。作家自身が体験したインドネシア・ジャワ島での日本軍俘虜(=捕虜)収容所体験が描かれている。それにしてもこの作品のキャスティングが見事だ。ボウイ以外にも、坂本龍一、ビートたけし、内田裕也、ジョニー大倉、三上寛など、異色のメンバーが名を連ねている。ボウイが演じるのは英国陸軍少尉ジャック・セリアズ。最近では『ダークナイト・ライジング』(12年)で主人公ブルースを世話する「奈落」の囚人を演じたトム・コンティが英国陸軍中佐ジョン・ロレンスを演じている。

実はセリアズ役にはロバート・レッドフォードやニコラス・ケイジなども挙がっていたらしいが、ボウイが出演した『エレファント・マン』の舞台を大島が観てボウイに決めたという。ボウイは2年間もスケジュールを空けて、撮影がスタートするのを待ったとも言われている。

TAP the POP」というサイトには、「私はボウイを“使った”のではない。私の持論だが、監督は出演者を選ぶけれども、出演者もまた監督や作品を選ぶ。ボウイやタケシやサカモトが私を選んでくれたおかげで、『戦場のメリークリスマス』は完成した。そのことは日本のみならず世界の驚異だった」という大島の言葉が書かれている。セリアズやローレンスだけでなく、日本軍の軍曹ハラ(ビートたけし)、陸軍大尉ヨノイ(坂本龍一)の役に、もし別の人がキャスティングされていたら、この映画はまったく違った印象になったのではないか。

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メッシュ素材の軍用スカーフ

『戦場のメリークリスマス』をもう一度最初から観てみた。主要な登場人物は男性で、しかも当然ながら全員が軍服姿。俘虜になっている連合軍側の軍人たちももちろん軍服だ。その中でボウイが演じたセリアズだけが際立って見える。端正に見えるボウイの顔立ちもあるのだろうが、セリアズだけはジャングルグリーンの野戦服の首元に同色のスカーフのような巻き物を巻いている。

監督の大島がそんな装いをすることを指示したのか、あるいは映画の衣装担当がそうしたのかはわからないが、収容所に多くの軍人がいるが、唯一彼だけ常に巻き物を身につけている。当時、太平洋に進軍していた英国などの連合軍の兵士や将校たちがそんなスタイルをしていたかは調べてもわからなかったが、軍用にもスカーフはつくられていたのだろうか?

上野・アメ横にある中田商店は、ミリタリー好きならば知らぬ者がいないくらい有名な店だ。第二次世界大戦後、屋台で商売を始めた同店がアメ横に店を開いたのが56年。当初は輸入玩具などを中心に扱っていたが、やがて軍用の払い下げ品のミリタリーウェアを扱うようになり、多くのファンが集う店となった。そんな中田商店でボウイが身につけていたものと同じようなスカーフが見つかった。映画では素材がメッシュのようにも見えるが、このスカーフも同じような生地が使われている。

聞けばこれはロシア軍で実際に使われていたものとのこと。さすがの品揃えだ。考えてみればスカーフは戦場では汗拭きや埃除けなどいろいろな使い方ができる。映画の舞台になったインドネシアでもそれは当てはまるだろう。セリアズがスカーフを巻いていたとしても不思議ではないのだが、戦争という極限状態を描いた作品で、異文化の衝突や対比の象徴としてセリアズ=ボウイにあえてこのスカーフを巻かせたのではないだろうか。

話は変わるが、ボウイの初主演作として有名な『地球に落ちて来た男』(76年)がある。物語の最初の舞台になったのはアメリカで、異星からやってきた宇宙船がニューメキシコに落下する、そこから脱出して来た男・トーマス。不思議なことにイギリスのパスポートを持ち、指輪を売却し大金を得てビジネスをするというストーリー。ボウイが演じるのはもちろん主人公のトーマス。

「ただ自分がいるだけであの役に完璧に合っていた。あの時期、僕は地球の者じゃなかったからね」(『デヴィッド・ボウイ——変幻するカルトスター』野中モモ著 ちくま新書)でトーマスのことをボウイは話す。この作品で宇宙船から降り立ったトーマスが着ていたのが、オリーブグリーンと思われるダッフルコート。これもイギリス軍が軍用に使って世に広まったコートだ。

翌年の77年に発表したアルバム『ロウ』でも同様のダッフルコート姿を披露している。『ロウ』はドイツ・ベルリンでブラインアン・イーノとともに制作し、時代を先取りしたアルバムで、後のニューウェイブに影響を与えたという傑作だ。そんなアルバムに、あえてトラッドなダッフルコートで登場したのかもしれない。

戦争映画にあえてスカーフ、未来的な映画にも、テクノアルバムにも伝統的なコートを選ぶ。それも宇宙人=ボウイらしさだろう。

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メッシュ素材なので、肌触りも快適。通年使用できる。つくっているのはスプラフというメーカーで、ロシア軍などに数多くの軍用品を納品している。

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80年代後半にアメリカ軍用につくられたユーティリティシャツ。素材はコットン50%×ポリエステル50%。

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映画に登場する軍服に似たブッシュジャケット。1950年代のイギリス軍の亜熱帯用にデザインされたレプリカモデルで、映画に描かれた年代にも合致している。実物同様に、速乾と通気性に優れたAERTEX素材が採用されている。¥8,800/中田商店

問い合わせ先/中田商店 TEL:03-3831-5154

https://www.nakatashoten.com/index.html

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