グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
——今回は4月1日から4月2日に行われた「SUN」の大規模インスタレーションについて振り返ってみたいと思います。2018年の「FUTURE NATURE」以来の規模感で行われたインスタレーションで、場所も国立競技場の大型駐車場。ちょっと特殊な雰囲気がありましたが、そもそもどういう場所なんですか。
YOSHIROTTEN:本来は中継車とか大型車が止まっていたりして、入れない場所なんですけど、今回のインスタレーションで初めて一般に公開したんです。初めてここを見たときに、作り込まれてないというか、外とすぐ繋がってるっていうか。自然光も入ってくるけど屋根もあって。めちゃくちゃいい環境だよね。
NORI:「こんな環境、都内で見つかるんだ!」と驚きました。出来たばかりでクリーンだけど、駐車場の無骨な感じのバランスも良かったです。
YOSHIROTTEN:ニューヨークのチェルシーにあるギャラリー「デイヴィッド・ツヴィルナー」のエントランスが、でっかい倉庫みたいになっていて、それが結構好きで。そのイメージに近かったです。開放的な入口に白い壁があって、展覧会のタイトルが入ったパネルがあって、中へ入って行くと圧倒される。結構それに近いことができたというか、それ以上にデカい場所でした。
NORI:設営は仕込み1日、撤収3、4時間。最初から全部見てた身としては、嵐のような現場だったんだけど、興奮しましたね。フェスティバルの仕込みやってんのかな、みたいな感じで音響機材の人たちが、数十人でスピーカーとかLEDとか運んできて設営してて。
YOSHIROTTEN:うん。
---fadeinPager---
---fadeinPager---
——足元のレーザーもすごいかっこよかったですよね。
YOSHIROTTEN:あれは演出でもあるんですけど、今回のテーマであった“地球の中にあるシルバーの太陽”っていうところに、雲海みたいな感じになればいいなと思って。「FUTURE NATURE」のときもじつは同じようなことをやってたんですけど、あのときはグリーンだったんですけど、今回は白、シルバーっていうのを表現してほしいっていうので、レーザーを担当したもらったYAMACHANGに伝えて。結構その体験をみんな楽しんでくれて。光ってすごいなと。
NORI:そういうこともあって、この展示は明るい時間と暗い時間で、全然表情が違って。昼と夜の2回来てくれた方もたくさんいらっしゃって。
YOSHIROTTEN:昼は自然光、夜はレーザーとプロジェクションを投影したりしてたんですけど。
——個人的に、この連載で「SUN」の成り立ちからプロジェクトに至るまで、いろんなお話を聞いてきたことが、体感的に伝わるインスタレーションだったなと。作品と会場の雰囲気も相まって、「SUN」のフェスに行ったような感覚になりました。
YOSHIROTTEN:そうですね。アンビエント・レイヴみたいなことはできたんじゃないかなと。おもしろかったのは、DEBITのライブのときとか、TAKAKAHNのもそうだったんですけど、演者とお客さんのいる空間が、自然といい距離感に保たれていたこと。自然とステージが出来上がっていたんですよね。
NORI:ライブの話聞きたいです。僕はほとんどギャラリースペースにいたので、ライブも10分くらいしか見れてなくて。
——ライブもよかったですよね。
YOSHIROTTEN:めっちゃ良かったですね。
NORI:あの場所に誰をブッキングするかみたいなことまで含めて、ヨシローくんには重要で考えてたんだなっていうのを、当日すごく感じました。
人がたくさん入ってきて、レイヴの会場みたくなるとこまで含めてトータルで想像してたんだろうなって。レセプションの夜に、LIVEも全部終わってクローズの時、ヨシローくんが締めの挨拶してたんですけど。自分の話も早々に、DEBITの東京ギグのお知らせを話し出して、音楽愛みたいなものを感じて(笑)。個人的にはそこにグっときてました。
YOSHIROTTEN:国立競技場に決まった時点で、すぐにDEBITへのブッキングを進めて。すごいギリギリだったんですけど、ブッキングしてよかったなと思いました。
---fadeinPager---
——ミュージシャンのブッキングはどうやって進めてたんですか?
YOSHIROTTEN:「ドミサイル」とか「翠月」とかお店のコンセプトを一緒に考えてくれる人に相談してたんですよ。何人か候補が出ていたなかで「マヤ文明の音楽を現代に再現してるやばいやつがいる」って話が出て。それがDEBITだったんです。でも「めっちゃすごいし面白い。でも怖そう」みたいな(笑)。だからちょっとドキドキしてたんですよ。
じつはギリギリ悩んだところもあったんです。今回は、彼女のライブを演出してるわけじゃないから、僕のインスタレーションとのバランスがとれるのか、みたいなこととか。マヤ文明って太陽を信仰してたし、古代、現代、未来みたいなことが混ざる夜にしたいっていうことは最初からイメージできたし、作れる。ただ彼女のライブをほとんど見たこともなかったので、最後まですごいドキドキしてたんです。結果、めちゃくちゃばっちりでした。すごい良かったです。
——DEBITさんがライブのときに砂の上にサークルを描いてましたが、あれはYOSHIROTTENさんのアイデアですか?
YOSHIROTTEN:あれは彼女がいつもやっている、ライブの始まりのパフォーマンスというか。自分へ気合を入れる作業らしいです。僕は音楽のライブに関しては、一切何も口出ししてないです。
僕がその環境を作って、そのアーティストがどうやれるかとか、どうしてくれるかが良いセッションだと思うので。
NORI:さっき足元のレーザーの話が出ましたけど、ヨシローくんのアイデアで、地面へ定期的にジョウロで水をまくようにしてて。
YOSHIROTTEN:濡れた地面に写り込んだ「SUN」にもまたストーリーが生まれるかなと思って。それに、すごく感動してくれる人もいました。あとシルバーの海っていうところで、スモークを焚いてなくても、水を撒けばそこに太陽があるっていう状況を作れるかなと。
——なるほど。
YOSHIROTTEN:これをさらにアップデートして、本当に365個の「SUN」と、床が水面か雲海っていう状況が作り出せたら、すごいと思う。
---fadeinPager---
——プレスデイを含めると3日間の開催でしたが、来場者数はどれくらいだったんですか?
NORI:約5000人の方に来ていただけました。「EASTEAST_TOKYO 2023」のときもそうだったんですけど、来てくれた人たちが、みんなが「よかった」って言って拡散してくれて、日を追うごとに来場者が増えていったんですよね。最終日は開場時間が短くて、12時から夕方5時までだったんですけど、一番来場者が多かったんですよ。ちゃんと刺激的なことをやると、みんなが広めてくれるんだっていうのを体感できて、すごくよかったです。
YOSHIROTTEN:すごかった、最終日。会場へ走ってきてくれてる人までいて。
——客層的にはどういう方が多かったんですか?やっぱりアートファンみたいな方?
YOSHIROTTEN:いろんな方に来ていただけたので、どういう層というのはなかったですね。
NORI:子どもも多かったですね。
YOSHIROTTEN:子どもが楽しんでくれるのは一番嬉しいですね。友達が5歳の娘さんに、「写真撮って」って言われたらしくて、自分を撮ってっていう意味なのかと思ったら、「SUN」を撮ってという意味だったらしくて。それ以来、その子は写真に目覚めたらしいです。
あと普段、僕らはたどり着かなかった人たちも、何人か来てくれましたね。僕らは自主制作でやっているから、どこかのギャラリーだったり芸術祭に絡んだお客さんって、あんまりいないんですよ。気づいて来てくれた人もいるし、そういう人たちを呼んでくれた友達もいて。そういう人たちと初めて作品を見ながら話せたのも、新鮮でしたね。
NORI:本当に見せたかった人たちが、100%全員来てもらえたわけじゃないけど、ヨシローくんが言ってたように、今までリーチできなかった人たちに、2日間しかなかったんですけど、ちゃんと見せられてすごい良かったなと。今後の何か新しい展開を、グイッと引き寄せられるかもしれないなみたいな出会いもいくつかあったりしたし。
---fadeinPager---
——バーカウンターで出していたドリンクも美味しかったです。
YOSHIROTTEN:今回、鹿児島の西酒造っていう「富乃宝山」とか出している酒造さんに協力してもらいました。ビールは先輩がやっている「Pabst Blue Ribbon」に出してもらったり、「翠月」のスタッフだったりとか、昔からの友達にバーテンやってもらったり。
NORI:バーカンはいつも遊んでる場所の面々でしたよね。
YOSHIROTTEN:それがずっと続いてるんです。いつも遊んでいる人たちだと安心してできる。
NORI:じつは今年の夏くらいに、今回やったことの発展版を計画中です。
YOSHIROTTEN:2020年から「SUN」をつくってきて、2、3年かかったけどインパクトのある形で、伝えられたのが良かったし、まずそれやってからとずっと思ってたんで。やっとスタートしたって感じですね。
連載記事
- TRIP#1
「Future Nature」には、本当にぶっ飛ばされました - TRIP#2
限定500冊のアートブック『ヴェルク(WERK)』をめぐって - TRIP#3
光とコネクトする作品「SUN」は“別世界へのインターフェース” - TRIP#4
エルメス一夜限りのナイトクラブ「テクノ・エケストル」と、極上リビング空間でギネスビールを楽しむ「Dream’ん」を振り返る - TRIP#5
GINZA SIXから発信。ホリデーシーズンを暖かなグラデーションで彩るアートモニュメントが完成。 - TRIP#6
「MUTEK.JP 2022」で行われた初のオーディオ・ビジュアルライブの裏側を語る - TRIP#7
神出鬼没のアートプロジェクト「SUN」。その全貌が徐々に明かされていく…?
グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR