新生アートフェア「EASTEAST_TOKYO 2023」と“触れる”アート「RGB Machine」を振り返る
TRIP#9 YOSHIROTTEN

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    グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

    この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

    ——今回は2月17日から19日まで、科学技術館で開催されたアートフェア「EASTEAST_TOKYO 2023」についてと、そこで展示されたYOSHIROTTENさんの作品「RGB Machine」について、振り返ってみたいと思います。NORIさんは準ディレクター、ギャラリーリレーション、そして出展者としても参加されてましたね。

    NORI:去年の夏に運営チームにジョインして、コンセプトや出展ギャラリーさんの選定をするところから始まり、最終的に30組くらいの出展者さんの窓口をやってて、展示内容や会場設計に関してなど色々な調整をずっとしてたので、各所と連絡取りっぱなしというような状況で。それから、自分の会社NOZZA SERVICEと前職のCALM & PUNK GALLERYの2ブースを持って、NOZZAの方で「RGB Machine」をお披露目しました。

    ——本当に大変な状況だったんだろうとは思いますが、すごく良いイベントでした。大成功だったんじゃないですか?

    NORI:4日間で約1万人の来場者数だったみたいです。今後に繋がっていく、ちゃんと意味があることができたっていう点では、成功かなと思います。
    新しいアートフェア、イベントの形が作れたと思います。若い人もいっぱい来てくれました。

    ——イベントとしては2020年に開催しているみたいですね。

    NORI:そのときの開催を0回目って呼んでます。7ギャラリーだけ集まって、同じ界隈というか、すでに関係値があるところで、文脈とか作品のテイストが近い人たちが出展してたんですよね。

    今回は大幅リニューアルですね。同じ界隈の人たちだけで集まるんじゃなくて、いろんな文脈とかテイスト横断して、人や文化を混ぜる場所にするようなことをしていかないと、今やっぱり世の中の動きとして、分断だったりフィルターバブルみたいなこともあると思うので。狭まっていく方向とは違う方に振らないと面白くないよねっていうのがあったんです。そうなってくるとやっぱり規模も大きくするしかない。運営チームもスケールアップして、最終的にLINEグループ40人ぐらいいましたね(笑)。展示自体も、みんなそれぞれに個性豊かなブースで、とにかく熱気がありましたよね。

    YOSHIROTTEN:このイベントの感想を一言で伝えるならば「熱い」でした。やっぱりすごい熱気があったから、みんながああいう状況を作ってるっていうことが、スケールがでかいとかそういうことじゃなくて、熱気っていうところが一番感じたところでした。それぞれのブースが、それぞれ戦うわけじゃないけど、張り合っている感じが良かったですよね。

    NORI:うんうん、そうですよね。スタイルウォーズにしたかったんです!僕もこういうスケールのアートイベントの仕事をするのは初めてだったんですけど、ちゃんとコミュニケーションをとりながら進めていきたいし、それが可能な人たちと一緒にやりたいなと思ってました。

    事務的に「こういうフェアやるからブース料いくらです、出したい人は応募してください」っていうことをこなしていくっていうよりは、何かちゃんと最後の熱気みたいなものに繋げていけるのって、モチベーションをお互い上げていかなきゃいけないし、そうしていくには、ちゃんとコミュニケーション取らなきゃいけないみたいなこともあったりして。

    一つの界隈に固まりすぎることもなく、でも知ってる人たちや仲良しがいる状況のなかで、余計に「ここで中途半端なことできない」じゃないけど、カマさないといけないみたいな思いをみんなが持ってやってくれたらいいなって思ってたのが、すごいうまくいったと思っています。
    同業者をあっと言わせたいし、そこは勝負するって「(売りは度外視した)大きなスケールの展示つくるよ」って言ってくれた人たちもいたりして。そういうところもうまくいってよかったなと。

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    「RGB Machine」が展示された、NOZZA SERVICEのブース。 Photo:Yutaro Tagawa

    YOSHIROTTEN:普段はギャラリーに来ないような若い人たちとかも来てた?

    NORI:けっこう来てたと思う。若い人たちだけじゃなくて、60歳前後かなみたいなコレクターらしきおじさまとお喋りしたり。「いろんなアートフェア行ってるけど、この勢いとか、個性も熱量はほかにはないね」っていうことを言ってもらえたりいろんな業界の人が来てくれたなっていうのと同時に、美術業界の人たちも、ちゃんとアテンションくれてたなっていうのが、イベントを終えてみての感想です。ありがたいです。

    美術のアップカミングなところからベテランの方々まで、今の運営メンバーじゃないと、きっと一同に介さないような人たちが揃う場所になりました。コンセプトとしても標榜してるんですけど、アーティストだけじゃなくてギャラリスト、コレクター、アートファン、パトロンみたいな人たちを、僕らは“アートプレイヤー”という呼び方をしていて。そういう人たちが集まるこの場所で、ヨシローくんの新作を発表することはモチベーションの1つでした。僕はフェアの運営サイドでもあり、出展も2ブース企画してたので。まずは運営の仕事を頑張って、やばい空間と舞台を作ることをやりながら、そこにはヨシローくんが間違いなくすごい作品を持ってきてくれることが分かっていたので、あとはもう「蓋を開けるのが楽しみだな」みたいな状況でした。

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    Photo:Yutaro Tagawa

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    ——「RGB Machine」めちゃくちゃカマしてましたね。どういうアイデアからあの作品形式にたどりついたんですか?

    YOSHIROTTEN:きっかけはノリから僕の「RGB」シリーズの新作をやりませんかって言ってくれて。僕は「FUTURE NATURE」だったり「SUN」だったり、新しいプロジェクトを考えるとか、いろんな選択肢はあったんですけど。僕の中で「RGB」はもうちょっとやりたいことがいくつかあったから、そのなかのひとつで実際にマシンを作ってみようと。僕の「RGB」原体験みたいなことと同じようなことを、鑑賞してる人たちに体験してもらうということをずっとやってみたいなと思ってたのと、今回は「カマす場所だな」って思っていたので。めっちゃ大変だと思うけど、やってみようと思って。

    で、どうやってやろうかなっていうことから始まるんですけど。アイデアとしてもコスト面としてもマシンじゃない方向性も、一応ノリに提案して。そうしたらノリが「マシンでいきましょう。こんな作品これまでに見たことないです」って言ってくれたんですよ。
    そこから2カ月くらいかな。「MUTEK」のライブパフォーマンスのときにもお願いしてた映像作家の橋本 麦君に今回の作品の構想について伝えたら、「めっちゃ面白いっすね。やってみたいです」と言ってくれて。そこからは麦くんが色々とすごいことをしてくれて、「RGB Machine」が完成したっていう。

    NORI:麦くんは本当に時間と労力と才能を、「RGB Machine」に注いでくれて、感謝してます。麦くん以外にも、筐体の設計、造形、音楽などいくつかのプロフェッショナルが協力してくれました。

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    Photo:Yutaro Tagawa

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    Photo:Yutaro Tagawa

     

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    Photo:Yutaro Tagawa

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    ——マシンそのものをつくるというアイデアは、最初からあったんですか?

    YOSHIROTTEN:そうですね。わりと最初から想像してたものに近づけていってもらったっていう形ではあるんですけど、それ以上のオプションもいっぱいつけてくれたっていうか。僕の中で1994年から95年ぐらいのウィンドウズが、学校に導入されてパソコン室みたいなのができたとき、パソコン室って普通の教室と違って、絨毯が敷かれてるし綺麗だしエアコンまでついてる、みたいな教室で。授業がないと中に入れないんですけど、外からは見れるから、中をのぞくとパソコンがスクリーンセーバーの状態になっているのが、すごいかっこいいなと思ったのが、自分のRGB原体験っていうふうに思って、今回の作品を作ったんですね。

    じつは2019年にラフォーレで「RGB」の展示(※「PHENOMENON: RGB」展)をしたことがあったんです。今はやっとデジタルアートっていうものの価値が、ちゃんと見出されている時代なんですけど、当時は僕らの周りにデジタル表現をしてるんだけど、でも大体は商業的なことを仕事しなきゃいけない、アートっていうのにはなかなかなってないっていう人たちを一堂に集めてやりました。だからやり始めたのは早かったんですけど。 

    NORI:ラフォーレの展示の頃の話でいうと、僕としても今回に繋がってて。当時、僕とCALM & PUNK GALLERYのボスの西野さんと2人で話してるときに、ジョナサン・ザワダもヨシローくんも、あのとき参加してくれた河野未彩さんも、自分たちの周りにいる所謂RGBの領域で表現してる作家たちっていうのを、ちゃんと大規模にプレゼンテーションしたいねみたいな話をしてたんですよ。それが「PHENOMENON: RGB」展のきっかけなんですね。

    そうしたらラフォーレさんから企画提案の相談が舞い込んできたんですけど、あのときも3カ月しか時間がなくて(笑)。『Massage』っていうメディアやってる庄野さんに、キュレーションやコンセプトメイクの協力をしてもらって、展覧会をつくって。そこでヨシローくんが発表した「RGB PUNK」が、感覚的になんだけど、ヨシローくんの他の作品群と比べても特に気になる作品だったんですよね。

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    「PHENOMENON: RGB」展で発表した、YOSHIROTTENの作品「RGB PUNK」。

    NORI:振り返ってみると、グラフィックの素材と既存のディスプレイモニターとかラックを組み合わせてインスタレーションにしてたっていうことが、ちょっとYOSHIROTTEN作品の中では異質だったのかもしれないですけど、デジタルと物質のバランスがすごくいいなと思っていて。

    あの展示から5年経って、10個くらい下の世代の子たちに「あの展示でYOSHIROTTEN知りました」とか言われたりすることもあって、なにか種を撒けていたんだと思っていて。そういうこともあって今回、直感的に僕のブースからお願いするんだったら、「RGB PUNK」シリーズの発展系を、今見たいなと思ってヨシローくんにお願いしたっていうのが経緯ですね。

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    Photo:Yutaro Tagawa

    YOSHIROTTEN:スクリーンセーバーってモニターの焼け付け防止のための映像で、そこに表示されるものって意味はなかったんですよ。意味はないけど、元々コンピュータ自体にはヒッピー文化、サイケデリックな感覚を持っているクリエイターの人たちが作っていった時代があった。そういうルーツ的なところに、じつは感化されていたり、気づいていたのかなというのがあります。

    スリープ状態のときに現れてくるもの、コンピュータが起動してないときの状態に、一番僕がドキッとしてたっていうのが“RGB原体験”ってところで。コンピューターかどうかっていうことでは、またちょっと違うところなのかなって。

    NORI:そうですね。「RGB Machine」の構想はヨシローくんから聞いてたので、かつて見たことがないものが現れるっていうことを思うと同時に、商売としての難しさみたいなことももちろん同時に考えましたけど(笑)。

    でも、稚拙に聞こえるかもしれないけど、僕はやっぱり自分がアートに携わったり見たいときの気持ちとして、「自分が見たことのないものを見たい」とか「何なんだこれは!」と驚きたいって気持ちがベースとしてはあるんで、そういうものになりそうだなと思って。

    それと今回の作品をつくるにあたって、ちゃんと2人の話を聞きたいなと思って、1時間ぐらい3人で話す機会を設けてもらって、そこでヨシローくんと麦くんの意外な共通の原体験がスクリーンセーバーだったんですよね。


    ——マシン自体の製作期間はどれくらいだったんですか?

    YOSHIROTTEN:1カ月半ぐらい。

    ——そんな短期間でつくれるものなんですか!

    NORI:普通、半年以上かかるものを異常な短期間で仕上げて頂き、感謝してます。凄腕の職人さんたちが、95年のWindowsの質感、セレングレーっていう色なんですけど、ちょっとザラザラしてる質感みたいなものをしっかり再現してくれました。

    YOSHIROTTEN:モニターは95年製のブラウン管です。

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    NORI:設計図もすごい精度で。

    ——この設計図自体もかっこいいですね。

    YOSHIROTTEN:設計図はグラフィックとミックスしてプリント作品にしました。僕のスクリーンセーバーのイメージがこびり付いて頭から離れないっていうコンセプトを伝えたかったから、リコーさんの2.5D印刷技術を使って、設計図のブループリントにグラフィックが立体的に印刷されています。

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    Photo:Yutaro Tagawa
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    Photo:Yutaro Tagawa
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    Photo:Yutaro Tagawa
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    Photo:Yutaro Tagawa

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    Photo:Yutaro Tagawa

    NORI:アート作品って、時間をかけたらかけただけいいじゃないと思うんですよ。誤解を恐れずに言うならば技術とかテクニックとか、職人技みたいなものに依存しない側面があるものだと思ってるんです。

    でも今回はクサいんですけど、この作品の出来上がったスピードと品質に感動しました。この0.00ミリで指定が来てる設計図から、1ヶ月あったかないかくらいの期間でRGB Machineを作ることができたのは日本の技術力の結晶みたいな気持ちになってしまって。東京でしかできなかったんじゃないかなと思いました。

    あとはアートとデザインって別々のものだけど、アートがデザインとか機能を取り込むことはできると思うんですね。ヨシローくんの今回の作品が、デザイナー的なものの作り方、マスターコンセプトがあって、やりたいことに対して設計を誰かにお願いしてっていうやり方で、出来上がったものも、パソコン的でありゲーム機とも言えるかもしれない。そういうヨシローくんのバックボーンも作品にすごく繋がっている。デザイナーであり作家でもあるっていう人格が作るものとして、独創性があるなと思いました。

    ——今回、作品に触れられるというのも大きなポイントだったと思うんですが。

    NORI:展示前に作品のアイデアを話してる時に、ヨシローくんが「触らせたかった」って言ったんですよね。実際に展示してみたら、子供の来場者たちが狂ったようにボタンを押し続けている様子を見て、気付くことがめちゃくちゃありました。

    YOSHIROTTEN:「RGB Machine」はデジタル表現原体験っていうところで、マシンに触れることで絵が変わっていったりとか、目的よりも“本能的に食らわせる”ための方法として、触ることができるようにしました。

    NORI:あと、今回「これYOSHIROTTENの作品だったんだ!こんなことするんだ!?」ってなってるリアクションが何回もあったから。いままでヨシローくんのことを知らなかった人たちも知るきっかけになっていたし。最初から間違いないと思ってたけど、実体験を通して自信もついたし。歴史的なものができたって真剣に思ってます。

    ——「RGB Machine」は、ともすればノスタルジー的に見えてしまいそうな感じなんですが、そう見えない絶妙さがありましたね。

    YOSHIROTTEN:それは僕が今も興奮していられるものがなにかを知ってるっていうのがあると思います。あのときを再現して「懐かしいね」という表現をしたいんじゃなくて、あのときの体験を常に今、伝えていくものにするっていう。2015年に見ても2023年に見ても新鮮なものにはなってる気がしてます。

    ——またどこかで見れる機会があったら、ぜひ見たいです。

    NORI:再展示の機会は近いうちに作ろうと思っています。またお知らせします!

    連載記事

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR

    YOSHIROTTEN

    グラフィックアーティスト、アートディレクター

    1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


    Official Site / YAR