「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット、ヘラルボニー。主に知的な障がいのある作家と契約を結ぶと、2000点を超える高解像度アートデータの著作権管理を軸とするライセンスビジネスをはじめ、作品をファッションやインテリアなどのプロダクトに落とし込むアートライフスタイルブランド「HERALBONY」の運営、それに建設現場の仮囲いに作品を転用する「全日本仮囲いアートミュージアム」など、福祉領域の拡張を見据えたさまざまな事業を展開している。2022年には経済産業省が主催する「日本スタートアップ大賞 2022」にて、「審査委員会特別賞」を受賞した。

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現在、東京・丸の内の三井住友銀行東館1Fアース・ガーデンでは、金沢21世紀美術館のチーフキュレーターである黒澤浩美のキュレーションのもと、ヘラルボニーの16名の契約作家の作品を紹介する『ART IN YOU アートはあなたの中にある』が開かれている。このうち幼少期に見たマグリットの作品集に衝撃を受けて制作をはじめたGAMONは、植物的なモチーフを画面いっぱいに色彩豊かに描いていて、メキシコといった中南米の民族アートを思わせるような力強さが感じられる。また神秘的な作風にてすでに幅広い世代から人気を集めるGAMONは、G7広島サミット国際メディアセンターのIoTスマートごみ箱「SmaGO」のデザインに作品が使われるなど、今後、ますます活躍が期待される。

 

小学校の頃から画塾に通い、17歳から油絵をはじめて、全国の公募展や海外のグループ展にも参加する森啓輔の『Let it be』が大変な力作だ。レコードのジャケットを見ながらミュージシャンを描いた絵画は、キュビズム的な画面構成や明暗際立つ色彩を特徴としていて、レコードの持つアナログ感が伝わるのと同時に、音楽が聞こえてくるようなポップな味わいが感じられる。またコピー機を使って、自分の顔とその時に気に入ったものを写し取ることを日課とする井口直人の作品も楽しい。センサーの光とともに身体を動かすことで、画面に独特な揺らぎを生み出していて、透明感のある洗練された色味はコラージュとして見ても美しい。

 

ヘラルボニーとは、松田崇弥、松田文登両代表の兄で、知的障がいのある松⽥翔太が7歳の頃に⾃由帳に記した謎の⾔葉から付けられ、「⼀⾒意味がないと思われるものを世の中に新しい価値として創出したい」という意味が込められている。16名のアーティストの作品には、障がいの有無を通り越して、それぞれに個性や魅力があり、また何よりも生きること、つまり「ここに自分がいる」ことを発信しようとする意思が強く感じられる。「アートとは作品のみを示すのではなく、立ち会うあなた自身が自分に作り出すもの。」と訴える『ART IN YOU』にて、驚きと発見に満ち、魅力にあふれた作家たちの表現と交感したい。