ロエベ財団が主催する第6回「ロエベ財団 クラフトプライズ 2023(以下、ロエベ財団 クラフトプライズ)」が、大賞および特別賞を発表した。
大賞に選ばれたのは、1972年生まれで高松市を拠点に活躍している稲崎栄利子による作品『Metanoia』(2019年)。稲崎の複雑な陶磁器による作品は、極小のパーツを集積することで結晶化したような表面を生み出したもの。審査員は「陶磁器でさまざまな要素から相乗効果を生み出すという、これまで見たこともない卓越した技術だ」と評価した。
さらに特別賞が、ドミニク・ジンクペの『The Watchers』(2022年)、および渡部萌の『Transfer Surfece』(2022年)に贈られた。
ドミニクは1969年、西アフリカのベナン生まれ。コトヌーを拠点に、インスタレーション、ドローイング、絵画、彫刻、ビデオなど、さまざまな分野で活動するアーティスト。今回の作品は、小さなイベジ(ヨルバ語で双子の意味)人形を組み合わせたもので、ヨルバの伝統的な信仰である多産を連想させるもの。伝統的な信仰を彫刻的に再解釈し、現代のクラフトのあり方を拡張している点が賞賛された。
渡部は1996年生まれ。東京を拠点に、東北地方に行って素材を集め、自然や植物をモチーフに木工作品を制作している。作品の多くは、自ら採取した野生のアケビやクルミの樹皮からつくられているのが特徴だ。今回の作品もクルミの木の皮でできた箱で、季節の循環に敬意を表し、日本古来の伝統である生け花を想起させるもの。樹皮の素材感の素晴らしさと、建築の構造や修理の伝統に着想を得たリベットの使用が評価され、選出された。
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深澤直人ら各界の第一人者たちが選考
本年度は117カ国の国と地域を代表する職人の2700点を超える応募があり、日本からは、国別最多となる6名のファイナリストが選出された。ファイナリストたちが用いた素材は、陶磁器、木工、テキスタイル、レザー、ガラス、金属、宝石、漆など多岐にわたる。選考はデザイン、建築、ジャーナリズム、評論、美術館の学芸員など各界の第一人者で構成される10名の選考員と、マグダレーン・オドゥンド、アナチュ・サバルベアスコア、オリヴィエ・ガベー、パトリシア・ウルキオラ、深澤直人を含む13名の審査員によって行われた。
「ロエベ財団 クラフトプライズ」は、1846年に革工房としてスタートしたロエベへのオマージュとして、また現代のクラフトマンシップにおける卓越性、芸術性、革新性を称えるために、2016年にロエベ財団によって創設されたもの。クリエイティブディレクターのジョナサン・アンダーソンが考案したこの賞は、文化におけるクラフトの重要性を認識し、その才能によって新しい未来を切り開くアーティストを評価し、サポートすることを目的としている。
受賞者およびファイナリストの作品は、5月17日から6月18日まで、ニューヨークのノグチ美術館にあるイサム・ノグチのスタジオで展示されている。
来年度の「ロエベ財団 クラフトプライズ」の応募期間は、2023年6月20日から10月25日まで。プロとして活躍するアルチザンで、応募時に18歳以上であれば個人、またはグループで応募できる。
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