近年、世界中で人気を得ている発泡性ワイン「フランチャコルタ」。その名前を耳にしたことがある方も、そしてもう体験済みという方も少なくないかもしれない。話題のフランチャコルタはどんな場所でどんな人々によって育まれているのか、その背景と人気の秘密を探るべくこのイタリア・ロンバルディア州の地名でもある フランチャコルタ地域を訪ねてみた。
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山と緑と水が豊かなデスティネーション
ミラノマルペンサ空港に到着し、車を走らせ一路フランチャコルタを目指した。出発して1時間足らず、高速道路を降りて国道に入ると、景色はどんどん緑が濃くなり、なだらかな丘にはブドウ畑とオリーブ畑が連なっている。早春の草花がかわいらしく咲き乱れ、白や黄色の彩りを添え、理想郷のような風景が続いていく。
北イタリアの湖水地方にあるイゼーオ湖はミラノ市街からもアクセスがよく、週末は自然の中で過ごしたい、そんな時にも気軽に足を延ばせるところ。フランチャコルタはそのイゼーオ湖の南側に位置する地域で、山と緑と水が豊か。美しい景観が魅力的なデスティネーションだ。
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ワインづくりに適した、天からの贈り物のような気候と土壌
湖の北に位置するカモニカ渓谷からあふれ出た氷河が浸食してできたのがイゼーオ湖。それゆえフランチャコルタ地域は氷堆積土壌で水はけがよい。決して多くの作物に向いている土ではないが、ブドウの栽培には最適だという。アルプスから流れ込む風と山と湖は、ワインをつくり出す母胎のごとく極端な寒さからこの地域を守り、その一方で昼と夜の寒暖差をつくる。また、春から秋にかけての豊富な雨量も豊かな実りへと導いてくれるという。
そんなワインづくりに適した天からの贈り物のような気候、土壌に、「フランチャコルタ」のつくり手たちは感謝の気持ちを隠さない。「この自然があってこそ、このワインが生まれるのです。ポテンシャルあふれる土壌や環境から生まれる産物を最大限に活かすのは、我々の使命でもあります」。彼らからそんな言葉を何度となく聞いた。
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手間と時間をかけた、誇り高きワイン
冒頭でフランチャコルタを「発泡性ワイン」と記したが、正しく称すると、フランチャコルタはフランチャコルタなのだ。つまり、フランチャコルタはいわゆる銘柄と地域を意味する言葉であると同時にフランチャコルタというワインの種類の固有名詞でもある。フランチャコルタは、シャンパーニュ(シャンパン)やカヴァと同じく瓶内二次発酵方式でつくられた、非常に手間(収穫も手摘み!)と時間のかかったワイン。フランチャコルタ協会によって非常に厳格に定められた規定(地域、ブドウ品種、製造工程など)をクリアしたワインのみがフランチャコルタを名乗ることができるという。それ程に誇り高く、つくり手たちが自信をもって育み、生み出したワイン。それがフランチャコルタなのだ。
いくつかのワイナリーで畑や醸造過程を見学し、試飲をした。春の始まりの季節ゆえ、ブドウ畑は枝もまだ短い。たわわに果実が実る季節は、彩りにあふれた光景がこの大地に広がるのだろう。
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野菜料理とのペアリングも絶妙なキレのある味わい
フランチャコルタを飲むと思い浮かぶのは、知的な美女のような佇まい、洗練された大人のイメージだ。ブランドの名前に頼らない自信を漂わせる品格があるワインとでも言おうか。各ワイナリーがつくり出す味の個性はさまざまだが、共通しているのはひと口目からやわらかく変化しつつ上品に続いていくキレのよさだろう。グラスに注ぐ時の豊かな泡と弾ける香りも、グラスを口に付ける前の気分を盛り上げてくれる。「ドサッジョ・ゼロ(ノン・ドサージュ)=非加糖」のきわめてキリッとした飲み口もぜひ一度お試しいただきたい。ドライなだけではない、心躍る爽やかな味わいが新たな閃きに我々を導き出してくれそうだ。
そのシャープな味わいは、肉や魚料理だけでなく、自然の恵みをたっぷりと蓄えた野菜料理との相性も絶妙だった。グリルしたカラフルなローカル野菜とのペアリングは、フランチャコルタの土地の豊かさそのものを受け止めるようで感性を揺さぶられる。家でお気に入りのフランチャコルタを飲むならどんな料理にしようか……。初夏の食材と相談しながらメニューを考えるのも、素敵な休日の過ごし方ではないか。
取材協力:フランチャコルタ協会