最近じわりと増えている「パワーカップル」と呼ばれる世帯。総務省の「労働力調査(2021年)」によると夫婦ともに年収が700万円以上のパワーカップルの割合は、共働き世帯のうち約1.9%。パワーカップルの厳密な定義はないのだが、一般的に世帯総収入が1000万円以上の世帯を指すことが多く、夫婦合計の年収が2000万円とするケースもある。仮に「夫婦とも年収700万円超」の世帯をパワーカップルとして考察してみよう。
我が家の近くにもタワマンがいくつも建設されてパワーカップルが移り住んでいる。億超えのタワマンに住み、子どもを小学校から私立に通わせていたら夫婦合計年収が1400万円でも生活は楽ではない。長女がアルバイトしている学童保育でも共働きのご家庭が多く定員オーバーで大変だと話していた。タワマンに住んで子どもにさまざまな習い事をさせていたら収入が高くても支出も高くなってしまう。パワーカップルだからといっても老後の心配は必要だ。厚生年金は年収にある程度連動するため、高収入ほど年金額は高くなるのだが、年金見込額は思ったよりも少ない。
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年収が高くても年金は意外に少ない
ご夫婦2人とも年収700万円のパワーカップルがもらえる年金額を試算してみよう。試算は、下記の三井住友銀行の年金資産シミュレーションでやってみた。入力の条件は、下記の通り。
・ご夫婦とも35歳
・ご夫婦とも22~60歳まで正社員として勤務
また、学生時代の国民年金も含め40年間未納の期間なしで、65歳から年金受給開始のプランで試算した。補足だが、年金は国民年金部分は老齢基礎年金として受給できる。会社員ならば、厚生年金にも加入しているので、老齢基礎年金にプラスして老齢基礎年金を受給できる。
試算の結果は、老齢基礎年金は月額6.4万円、老齢厚生年金は、月額12.7万円だった。老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて19.1万円。夫婦とも同額と考えると年金の月額は、合計で38.2万円だ。ただしこの試算は、22歳から60歳まで平均で700万円のケースなので実際にはもう少し少なくなる可能性も考えられる。
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年金から引かれる税金や社会保険料も考慮する
また、38.2万円は年金の受給額だ。年金を受け取ると所得税、住民税、国民健康保険料(75歳まで)、後期高齢者医療制度の保険料(75歳以降)、介護保険料が引かれる。月額が夫婦合計で38.2万円とすると、手取りは約90%~85%くらいになる。90%だとすると約34万円が手取りの金額だ。生命保険文化センターが行った調査によるとゆとりある老後生活費は、月額平均37.9万円。85%で計算すると手取りは約32.5万円。パワーカップルといえども年金だけでは、ゆとりある老後生活費には3.9万円~5.4万円ほど足りないのだ。
また35歳のパワーカップルが35年の住宅ローンを組んでタワーマンションを購入したとすると完済は70歳。65歳までには住宅ローンを完済したいところだ。逆算して繰上げ返済も必要になる。30代で出産の場合は、子どもが大学を卒業すると50代の後半。子どもの教育費の支払いが終わってからでは、住宅ローンの繰上げ返済や老後資金を貯める時間が少なくなってしまう。共働きの家庭では、そうでない家庭と比較して、どうしても親子が関わる時間が少なくなる。すると「かまってあげられない」という罪悪感から、子どもにお金をかけるようになりやすいのだ。住宅費や教育費の掛け過ぎは、老後の生活にジワジワと負担がかかってくるのだ。
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収入が高い人ほど3つの崖を意識する
女性の社会進出が進み1993年頃から専業主婦世帯よりも共働き世帯の数が増えている。現在では専業主婦世帯は、539世帯で共働き世帯は1,262世帯と大きく逆転している。ちなみに年収が高くなると女性の方が消費意欲が旺盛になる傾向が高いようだ。SNSでも高価なシャンパンのボトルや異国情緒にあふれた休暇の写真を投稿してお金持ちアピールをしているのも女性の方が多いように感じる。「よく働き、よく稼ぐ」のは、悪いことではないが収入の3つの崖には注意したい。収入の3つの崖とは、下記の3つだ。
1) 55歳の役職定年
2) 60歳の再雇用
3) 65歳の年金受給開始
55歳を過ぎたところで、年収がガクンと下がるタイミングが3つあるのだ。
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1つ目の崖は55歳を過ぎた頃
55歳を過ぎたところで、年収がガクンと下がるタイミングが3つあるのだ。最初は、55歳の役職定年。役職定年とは「部長・課長などの役職から自動的に外れる」という制度のこと。主に大企業で採用されている制度だ。役職にもよるが、役職定年になると年収は2~3割程度減ってしまう。たとえば年収700万円の方ならば、500~550万円に減るということだ。
役職定年のない会社やそもそも役職についていないから大丈夫と思っている方も要注意だ。現在50代のなかばの方は、バブル期入社で社員数が多い。役職がなくてもグループ会社などに転籍を命じられ、年収が下がることもある。55歳だと子どもは大学生くらいの年齢だ。教育費のピークに年収が下がるのは大きな痛手となる。会社の人事評価制度の内容を調べておこう。
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2つ目の崖は再雇用。19.6%の人が給与半額に
次に年収が下がるのは60歳頃の再雇用の時だ。企業は原則65歳までの雇用確保を義務づけられている。定年の廃止や定年を65歳までに延長する企業もあるが、多くの企業では60歳を定年として65歳まで再雇用する形が多い。ちなみに70歳までの雇用は努力義務なので義務ではない。
再雇用になると給与はグンと下がる。筆者が相談いただく方の中にも「再雇用になると仕事内容は同じで給与は半額になるので働きたくない」という方も少なくない。日経ビジネスの「定年後の就労に関する調査」を見ると下記の記述がある。『年収については「定年前の6割程度」という回答が20.2%と最多で、「5割程度」が19.6%、「4割程度」が13.6%と続く』60歳になると大きく収入は減ってしまうのだ。5割程度ならば、役職定年で減った年収の500万円は、さらに250万円と大きく減ってしまう。
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3つ目の崖は年金受給時
そして、3つ目の崖は、65歳の年金受給開始時だ。前述で計算した通り60歳まで平均の年収700万円ならば月額19.1万円程度の受給額だ。年額にすると約229万円。パワーカップルならば退職金も期待できるが、外資系などは退職金も含めて高い年俸制になっているケースもある。30代からiDeCoなどを利用して自分で退職金を作っておくことも必須だ。
ひと昔前は「高年収妻」というと子どものいないDINKSが多かったようだが、最近は共働きで子育て世帯が多いようだ。共働き世帯は専業主婦世帯より「教育」や「交通・通信」、「その他の消費支出」が多い。そして共働き世帯の方が、私立へ子どもを通わせている家庭が多くなる。夫婦ともに年収700万円超の「パワーカップル」は共働き世帯の2%弱とまだ少ないが、じわじわと増えている。パワーカップルといども、収入の3つの崖を意識して、キャッシュフローを考えておくことが重要だ。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/