ジウジアーロ・デザインを始祖とする、世界で注目されるヒョンデのデザイン

  • 写真:陰山惣一、ヒョンデ
  • 文:サトータケシ
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1974年のトリノ・モーターショーに出展されたポニー・クーペ・コンセプトが復元され、イタリア・コモ湖でお披露目された。約50年前のコンセプトカーであるとは思えない、クールなルックスだ。

「マエストロ」、ジョルジェット・ジウジアーロの若き日の作品

世界最古の自動車コンクールだとされるのが、イタリア北部の高級リゾート、コモ湖畔で行われる「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」だ。毎年、初夏を迎えると古今東西の名車が集結し、そこにドレスアップした参加者も加わるから、街は華やかで格調高い雰囲気に包まれる。

2023年の5月中旬、この地で実に興味深い一台がお披露目された。空気を切り裂くかのようなウェッジシェイプのスポーツカーで広いグラスエリアや幅広いBピラー(柱)が実に個性的なクルマだ。これは1974年のトリノ・モーターショーにヒョンデが発表したポニー・クーペ・コンセプトを復元したもの。デザインを手がけたのは、初代フォルクスワーゲン・ゴルフや初代フィアット・パンダのデザイナーとして知られるジョルジェット・ジウジアーロだ。

なぜ、約半世紀の時を経てこの魅力的なコンセプトカーが復元されたのだろうか。その背景が、実に興味深い。

 

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現在では「マエストロ」「巨匠」と称されるジョルジェット・ジウジアーロ。彼が約50年前に手がけたコンセプトカーであるポニー・クーペ・コンセプトのモチーフは、ヒョンデの最新モデルにもちりばめられている。つまりジウジアーロがヒョンデというメーカーのデザインの道筋を定めたといえる。

 

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俯瞰で見ると、ガラスエリアが占める割合が大きいことがよくわかる。造形といいガラス素材の使い方といい、いま見ても未来的だと感じる、時代を先取りしたデザインだ。

 

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シンプルでスタイリッシュな世界観は、インテリアも共通。ドライバーを主役にするミニマルなデザインで、シングルスポークのステアリングホイールはいま見ても新鮮だ。

 

1970年代初頭、ヒョンデを含む韓国の自動車産業は、まだ自国で自動車を生産することができなかった。

当時、ヒョンデの会長だった鄭周永(チョン・ジュヨン)には、自国内で自動車生産を完結するため、独自のデザイン開発の必要があった。そこで、若き日のジウジアーロに、コンセプトカーのデザインを依頼したのだ。

このプロジェクトを、ジウジアーロはこう振り返る。

「当時はヒョンデについてなにも知らなかったので、最初は半信半疑でした。しかし、ヒョンデのエンジニアたちの情熱と献身的な姿勢に、私たち全員が感銘を受けました」

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ヒョンデが自動車デザインの主役に躍り出た

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ジョルジェット・ジウジアーロ

マエストロの愛称で知られるジョルジェット・ジウジアーロは、北イタリアのガレッシオという小さな町に生まれた。父と祖父は教会や宮殿の装飾を生業としており、中学校を卒業して美術学校に進むと、彼の作品はフィアットの伝説のエンジニア、ダンテ・ジアコーザの目に留まる。ジアコーザの勧めでフィアット・スタイリング・センターを訪れたジョルジェットは、17歳でここに就職。その後、ベルトーネやギアといったカロッツェリア(デザイン工房)でキャリアを積み、アルファロメオ・アルファスッドや初代フォルクスワーゲン・ゴルフ、初代フィアット・パンダといった傑作を生み出す。クルマだけでなく、ニコンD3やセイコーとコラボしたダイバーズウォッチなど、さまざまなプロダクトをデザインしたことでも知られる。

 

 

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韓国国内で初めて量産を完結した自動車が、ヒョンデのポニー。ジウジアーロ(左)は、「4ドア/3ドアのハッチバックと2ドアのクーペのデザインを依頼されました」と振り返っている。中央に立つのは Hyundai Motor Groupチーフ・クリエイティブ・オフィサーのルク・ドンカーヴォルケ、その右がHyundaiグローバルデザインセンターのデザイン担当副社長のイ・サンヨプ。

 

 

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2023年4月、ヒョンデは韓国で開催された「Reflections in Motion」展に、初代ポニーをモチーフにしたEVのコンセプトカー、「Heritage Series PONY」を発表した。

 

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「Heritage Series PONY」とIONIQ 5のデザインの共通性は2台のスケッチからも読み解ける。IONIQ 5は現代の視点や都合だけで生まれたわけではなく、PONYという歴史的なモデルから生まれているオリジナルのデザインである。

 

 

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右:PONYのフロント部分のスクエアなデザインが進化し、「パラメトリックピクセル」と呼ぶデザインテーマが用いられたIONIQ5のライトデザイン。 左:IONIQ5にはPONYから引き継がれたデザインが各所にある。

 

 

こうしてジウジアーロはポニー・クーペ・コンセプトを完成させ、これが韓国初の独自開発量産モデルであるポニーの誕生につながった。

そしていま、ヒョンデがつくる自動車は、世界で高く評価されている。たとえば電気自動車のIONIQ 5は、ドイツと英国でカー・オブ・ザ・イヤー2022を獲得したばかりか、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーとワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

世界で最も優れたデザインという評価を受けた市販BEV(電気自動車)のIONIQ 5も、実はポニー・クーペ・コンセプトからインスピレーションを得ている。つまり約50年前のジウジアーロとのコラボレーションが、現在のヒョンデ隆盛の礎となっているのだ。ジウジアーロが撒いた種が、大きな果実となった。

 

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ジウジアーロデザインを礎にする市販電気自動車、IONIQ5。ヒョンデのデザイン哲学を表すこのクルマは世界中で注目されている。

 

ポニー・クーペ・コンセプトは、残念ながら1970年代後半の世界的な不況によって市販化することはかなわなかった。

けれどもここまで書いたように、ポニー・クーペ・コンセプトはヒョンデの象徴のような存在だ。そこでジョルジェット・ジウジアーロ本人の協力を得て、素材から細部に至るまで、精緻に復元されることとなったのだ。

 

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かつてのコンセプトカーを現代的に再定義

コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステは、クラシックカーの美しさを評価するだけではなく、コンセプトモデル&プロトタイプ部門が設けられている。つまり、自動車の未来も見すえたコンクールになっているのだ。

ヒョンデはこの部門に燃料電池のスポーツモデル「N Vision 74」を出展した。写真をご覧いただくとわかるように、このコンセプトカーは1974年のポニー・クーペ・コンセプトから着想を得ている。

N Vision 74は見るからにクールで未来的なコンセプトカーであるけれど、デザインだけが見どころというわけではない。

未来へ向けた先進技術を先導するローリングラボ(Rolling Lab)が開発した水素燃料電池ハイブリッドのコンセプトカーであり、「N」はヒョンデの高性能に与えられるサブブランドである。

つまり、ゼロエミッションとハイパフォーマンスを両立するという使命を帯びているのだ。

 

 

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ポニー・クーペ・コンセプトの基本的なプロポーションを継承して、N Vision 74はデザインされている。

 

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N Vision 74は真横から見ると、グラスエリアの広さや太いBピラーなど、ポニー・クーペ・コンセプトの特徴が表現されていることがよくわかる。

 

 

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N Vision 74は、ゼロエミッションとハイパフォーマンスの両立を目指して開発された。充電時間は5分と短く、最高出力680hpのパワートレインは0-100km/h加速を4秒以内で完了するという俊足を誇る。

 

 

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IONIQ 5とも共通するピクセルをモチーフとしたリアランプはオーセンティックなリアを未来的にしている。

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過去から未来へ、脈々と受け継がれるDNA

約50年におよぶ“物語”と今回のプロジェクトについて、ジョルジェット・ジウジアーロはこのように語る。

 

「人間は過去を振り返り、それを改善することで価値を継承します。そのなかでも最も大きな価値は、“よりよい明日を考える”ということだと思います」

 

かつてのコンセプトカーの復元と、新しいコンセプトカーの提案は、74年に始まったデザインの物語と、持続可能なクルマ社会の実現という未来地図の両方を見せてくれた。ジウジアーロの言葉を借りれば、「よりよい明日を考える」取り組みだ。そこには日本でも発売されている世界的に人気のEVであるIONIQ5も含まれる。

ヒョンデというブランドの過去と未来を一望する、大きな意味のあるプロジェクトだったと言えるだろう。

ヒョンデ・アイオニック 5

サイズ(全長×全幅×全高):4635×1890×1645㎜
バッテリー容量:58kWh/72.6kWh
最高出力:125PS~
最大トルク:350Nm〜
航続可能距離(WLTCモード):498~618㎞ ※グレードにより異なる
駆動方式:2WD/4WD
車両価格:¥4,790,000〜(税込)
問い合わせ先/Hyundaiカスタマーセンター
TEL:0120-600-066
www.hyundai.com/jp

ヒョンデ・ポニー・クーペ・コンセプト

全長×全幅×全高:4080×1560×1210mm
ホイールベース:2340mm
エンジン:直列4気筒
エンジン排気量:1238cc
最高出力:82hp/6000rpm
レイアウト:フロント縦置き、リア駆動