近年、世界的なヒット作を続々と生み出す韓国映画界にまたパワフルな作品が加わった。Netflixで配信中の映画『キル・ボクスン』は3月31日に配信されると、初登場で世界1位を獲得した。韓国発のバイオレンス・アクション作品の見どころをお届けしたい。
主人公のキル・ボクスン(チョン・ドヨン)は中学生の娘ジェヨン(キム・シア)を育てるシングルマザー。娘を愛する母親だが、裏の顔は「暗殺請負企業MKエンターテインメント」に所属する伝説の殺し屋だ。キル・ボクスンは冷徹な殺し屋であると同時に、思春期の娘との関係に思い悩む。人間的な優しさをもったキャラクターとしても描かれており、感情移入がしやすい。
映画は、キル・ボクスンが会社からの指令に違反したために、組織や殺し屋たちから狙われるようになり、「殺すか殺されるか」の状況に追い込まれていく様を描く。
冒頭のアクションシーンからものすごい。ヤクザの織田真一郎(ファン・ジョンミン)とキル・ボクスンの一騎打ち。キル・ボクスンは「eマート(スーパー)で買った3万ウォンの斧」を武器に、刀を持った織田に対峙する。多くの俳優賞を受賞してきたチョン・ドヨンとファン・ジョンミンという、韓国を代表する俳優同士の豪華なアクションが見ものだ。さらに、MKエンターテインメントの代表、チャ・ミンギュを演じたソル・ギョングとの演技合戦も見逃せない。
アクションのハイライトは飲食店での乱闘シーンだ。同僚の殺し屋たち5人が一斉にキル・ボクスンに襲いかかる。キル・ボクスンは様々な武器を自由自在に扱い、相手をなぎ倒していく。思わず目を奪われる痛快なアクションシーンだ。長回しが多用されており、チョン・ドヨンは代役を使わずにほとんどのシーンを彼女自身が行った。そのため、このシーンの撮影だけで1か月もかかったという。チョン・ドヨン自身が「一番大変だった」と語っている。
---fadeinPager---
監督・脚本は映画『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)、『キングメーカー 大統領を作った男』(2022年)のピョン・ソンヒョン監督。本作は第73回ベルリン国際映画祭に招待された。
監督はインタビューのなかで、本作のタイトルはクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』のパロディであり、物語の設定は映画『ジョン・ウィック』などでよく使われていると認めている。しかし、「復讐をテーマにしたくはない」と考え、殺し屋ストーリーのありきたりな描写にひねりを加えたいと思った」のだという。
たしかに、本作は韓国映画らしいバイオレンス描写が見ものだが、それ以上に、チョン・ドヨンは母親としてのキル・ボクスンを情感たっぷりに演じている。「人殺しは、子育てよりもシンプルよ」というセリフも印象に残る。そのため、アクション映画好きだけではなく、ヒューマンドラマが好きな読者にこそ本作をお薦めしたい。
『キル・ボクスン』
監督・脚本/ピョン・ソンヒョン
出演/チョン・ドヨン、ソル・ギョング、キム・シアほか 2023年 韓国映画
139分 Netflixにて独占配信中。
オフィシャルサイトはこちら